〔寒狭峡伝説蒐集中〕
有海の鈴木太一郎(現泰彦)さん宅に不思議な石があると聞き訪ねた。
その石は生きていて、だんだんと大きくなるのだという。
『わたしもおじいさんに話は聞いているんだけど・・』
泰彦さんの奥さんも半信半疑のようにみえたが、
地の神様の横に鎮座している石のところに案内してくれた。
径三十センチ、重さは二・三十キロはあるだろうか、
苔が生えているが、何の変哲もない石のように見える・・。
俄には信じがたいが、鈴木さんのご先祖さまが四国巡礼の旅で、
ニワトリの卵より小さな石を持ち帰ったものが、家が栄えると共に、
大きくなったのだという。
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〈・・そうか、家運が盛り上がり財を成すのか!、・・・ダメ元だ、
同級のよしみで、泰彦くんに頼んであの石を借りて暫くうちに置いてみるか・・〉
『おとーさん!、その石、うちに持ってきたら小さくなるかも知れんよ』
脇で家内がつぶやきに答えた。
・・それはないだろうと思いながらも、家内にそう言われると納得せざるをえない。
肝心なのは石ではなくて、子孫の繁栄を願ったご先祖様の気持ちと努力なのだ。