猪は自分で牙をとぐ。
猪の下の牙(犬歯)は他の歯と違って歯根がなく、
中は空洞で顎の骨の奥深く埋まっている。
(常生歯・三分の二以上は顎骨の中)
歯根がないので一生の間伸び続けるのだ。
放っておくとどんどん伸びてしまうので、
いつも上下の牙を噛み合わせて研いでいる。
そのため下の牙はカミソリのようになっていて、
先端は鋭く尖っている。
牙で岩を起こすと言われているが、いつ獲っても
牙がきれいなので、おそらく、牙はあまり使わずに、
もっぱらあの万能の鼻で起こしているに違いない。
雑食の猪にとっては、牙はそれほど役にはたたず、
むしろ邪魔になるだけの存在なのかも知れない。
研いでも研いでも伸びてくる牙にイライラして、
いつもガチガチと歯噛みしているのだろう。
それにしても猪の牙は美しい。飽きない。
じっと見ていると、何者にも負けない力と
山神のプライドを分けて貰えそうな気がしてくる。