09.1/26 279回
【常夏(とこなつ)】の巻】 その(5)
源氏が、玉鬘の所へお出でになることがあまりにも頻繁で、人目に立ちそうになりますと、ご自身は、お心が咎めて自制なさって、何かにかこつけて御手紙を届けられます。ただただ、玉鬘のことばかりが明け暮れ気になるのでした。
「なぞ、かくあいなきわざをして、安からぬ物おもひをすらむ、さ思はじとて、心のままにもあらば、世の人の謗り言はむことの軽々しさ、わが為をば、さるものにて、この人の御為いとほしかるべし、(……)」
――(源氏の御心)なぜ、自分はこうもつまらぬことに苦しむのだろう。もし苦しまずに玉鬘を思いのままにするならば、世間の非難を受けることになろう。自分はとにかく、玉鬘のために、きのどくなことだ。(いかに熱愛したところで、紫の上の御地位と対等にはとてもできないことと、自分でも考える。しかしその下の地位では、玉鬘としては何の名誉にもならない。)――
いっそのこと、
「宮、大将などにやゆるしたまし、さてもて離れ誘ひ取りてば、思ひ絶えなむや、いふかひなきにても、さもしてむと思す折あり」
――蛍兵部卿の宮か髭黒の大将などにやってしまおうか。そうして玉鬘から離れて、引き取ってもらえば、あきらめも出来よう。まことに味気ないが、そうしようとおもう事もあるのでした。――
「されど渡り給ひて、御容貌を見給ひ、今は御琴教へ奉り給ふにさへことつけて、近やかに馴れ寄り給ふ」
――でも又お出掛になって、玉鬘のお姿をご覧になりますと、この頃ではお琴を教えるということもありますので、それにかこつけて、傍に寄って馴れ馴れしくなさっています。――
玉鬘も初めこそ源氏の素振りを気味悪いとお思いになりましたが、それほどの不安はないと段々見慣れて、お返事なども愛嬌良く、美しさも勝っておいでになり、源氏は、やはり、このままでは過ごせないなどとも、思い返しておられます。
◆写真:和琴を奏でる内大臣の横の姿
風俗博物館
ではまた。
【常夏(とこなつ)】の巻】 その(5)
源氏が、玉鬘の所へお出でになることがあまりにも頻繁で、人目に立ちそうになりますと、ご自身は、お心が咎めて自制なさって、何かにかこつけて御手紙を届けられます。ただただ、玉鬘のことばかりが明け暮れ気になるのでした。
「なぞ、かくあいなきわざをして、安からぬ物おもひをすらむ、さ思はじとて、心のままにもあらば、世の人の謗り言はむことの軽々しさ、わが為をば、さるものにて、この人の御為いとほしかるべし、(……)」
――(源氏の御心)なぜ、自分はこうもつまらぬことに苦しむのだろう。もし苦しまずに玉鬘を思いのままにするならば、世間の非難を受けることになろう。自分はとにかく、玉鬘のために、きのどくなことだ。(いかに熱愛したところで、紫の上の御地位と対等にはとてもできないことと、自分でも考える。しかしその下の地位では、玉鬘としては何の名誉にもならない。)――
いっそのこと、
「宮、大将などにやゆるしたまし、さてもて離れ誘ひ取りてば、思ひ絶えなむや、いふかひなきにても、さもしてむと思す折あり」
――蛍兵部卿の宮か髭黒の大将などにやってしまおうか。そうして玉鬘から離れて、引き取ってもらえば、あきらめも出来よう。まことに味気ないが、そうしようとおもう事もあるのでした。――
「されど渡り給ひて、御容貌を見給ひ、今は御琴教へ奉り給ふにさへことつけて、近やかに馴れ寄り給ふ」
――でも又お出掛になって、玉鬘のお姿をご覧になりますと、この頃ではお琴を教えるということもありますので、それにかこつけて、傍に寄って馴れ馴れしくなさっています。――
玉鬘も初めこそ源氏の素振りを気味悪いとお思いになりましたが、それほどの不安はないと段々見慣れて、お返事なども愛嬌良く、美しさも勝っておいでになり、源氏は、やはり、このままでは過ごせないなどとも、思い返しておられます。
◆写真:和琴を奏でる内大臣の横の姿
風俗博物館
ではまた。