永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(280)

2009年01月27日 | Weblog
09.1/27   280回

【常夏(とこなつ)】の巻】  その(6)

また源氏は、
「さばまた、さてここながらかしづきすゑて、さるべき折々に、はかなくうち忍び、物をも聞こえてなぐさみなんや、かくまだ世慣れぬ程のわづらはしさこそ、心苦しくはありけれ、自ずから関守強くとも、物の心知りそめ、いとほしき思ひなくて、わが心も思ひ入りなば、繁くとも障らじかし、と思しよる、いとけしからぬことなりや」
――それではここに置いたまま、婿を迎え、何かの折には忍んで行って語らいなどして慰もうか。こうしてまだ男を知らぬ乙女でいる間は、言い寄るのも愛おしくてためらわれるが、いったん夫をもって人の情けを知るようになれば、如何に夫が厳重でも、自分も熱心に言いよれば、人目があろうと差し障りあるまいとお思いになる。まことにけしからぬ事をお考えになることよ――

 いやしかし、婿取りをしてから一層募る思いで過ごすのも苦しいだろう。こんな御関係を続けるのが難しいなどと考えるなど、全く変った間柄です。

 さて、内大臣は、今度の今姫君を邸内の人も賛成せず、軽蔑しますし、世間でも馬鹿げた事と陰口を叩かれていることを、お聞きになっているところへ、弁の少将が、先日の源氏に事情を問われましたことをお話しますと、お笑いになりながら、

「さかし。ここにこそは、年頃音にも聞こえぬ山がつの子迎え取りて、物めかしたつれ。をさをさ人の上、もどき給はぬ大臣の、このわたりの事は、耳とどめてぞ貶め給ふや。これぞおぼえある心地しける」
――そうだ、いかにも私は、今まで噂にのぼらぬ田舎者の子を引き取って、大事にしているさ。めったに陰口をおっしゃらぬ源氏が、我が家の事になると聞き耳立てて、悪口をなさる――

 と、おっしゃる。弁の少将は、

「かの西の対にすゑ給へる人は、いとこともなきけはひ見ゆるわたりになむ侍るなる。(……)」
――六条院の春の御殿の西の対にお住まいの姫君は、どこといってひどい欠点のない方だそうです。(兵部卿の宮がとても熱心に言い寄られていらっしゃるとか。きっと並み大抵のお美しさではあるまいと、世間の評判でございます)――

 と、申し上げますと、内大臣は、

「いで、それは、かの大臣の御むすめと思ふばかりのおぼえのいといみじきぞ。人の心みなさこそある世なめれ。必ずさしもすぐれじ。」
――いや、それは、源氏の姫君だと思うから、大騒ぎしているに過ぎないさ。世間はみなそんなものらしい。きっとそれほどの美人でもあるまい――

ではまた。