永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1162)

2012年10月09日 | Weblog
2012. 10/9    1162

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その2

「いみじく思したる御けしきは、見たてまつりわたれど、かけても、かくなべてならずおどろおどろしきこと、思し寄らむものとは見えざりつる、人の御心ざまを、なほいかにしつることにか、と、おぼつかなくいみじ」
――右近は、浮舟がひどくお悩みにのご様子を前から拝見しつづけてきましたが、このような尋常でない大変なことを思いつかれようとは、全くお見えにならなかった、あの浮舟のご性分ですのに、これはまたいったい、どうしたことであろうかと途方にくれて、ひどく悲しくてなりません――

「乳母は、なかなかものもおぼえで、ただ、『いかさまにせむ、いかさまにせむ』とぞ言はれける」
――乳母は、年がいもなくおろおろとして、ただ、「どうしましょう、どうしましょう」と言うばかりです――

「宮にも、いと例ならぬ、けしきありし御返り、いかに思ふならむ、われを、さすがにあひ思ひたるさまながら、あだなる心なりとのみ、深く疑ひたれば、ほかへいき隠れむとにやあらむ、と思し騒ぎて、御使ひあり。あるかぎり泣きまどふ程に来て、御文もえ奉らず」
――匂宮の方でも、いつもと大そう違って、いわくありげな浮舟からのご返事に、何とお考えなのだろう、私をたいそう慕っているようではあるが、浮気なご性分よと、ひどく疑っていたから、もしや他所へ姿を隠してしまうつもりであろうかと、胸騒ぎなさって、お使いを出されました。その使いは、人々が泣き騒いでいる最中に来ましたので、御文も差し上げられません――

「『いかなるぞ』と下衆女に問へば、『上の、今宵にはかに亡せ給ひにければ、ものもおぼえ給へはず。たのもしき人もおはしまさぬ折なれば、さぶらひ給ふ人々は、ただものにあたりてなむまどひ給ふ』といふ」
――(男が)「いったいどうしたことですか」と下女に尋ねますと、「姫君が、今宵にわかにお亡くなりになりましたので、どなたも気が転倒しておいでなのです。頼りになる方もおいでになりません折とて、お仕えしておいでの方々は、ただもう慌てふためいていらっしゃるのです」と言います――

「心も深く知らぬ男にて、くはしくも問はで参りぬ。かくなむ、と申させたるに、夢とおぼえていとあやし」
――事情を深く知らない男なので、詳しい事も聞かず帰って、宮の御前に参上して、「このようでございました」とお取り次ぎを通して申し上げますと、匂宮はただただ夢かとばかり、ご不審に思われるのでした――

では10/11に。