永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1276)

2013年07月23日 | Weblog
2013. 7/23    1276

五十四帖 【夢浮橋(ゆめのうきはし)の巻】 その10

「あやしけれど、『これこそは、さはたしかなる御消息ならめ』とて、『こなたに』と言はせたれば、いときよげにしなやかなる童の、えならず装束きたるぞ、歩み来る」
――僧都のお手紙がきたばかりなのに、また御文とは腑に落ちませんが、妹尼は「それではこれが、薫の君のお手紙なのでしょう」と察して、「こちらへ」と言わせますと、大そう美しく着飾った子が歩み寄って来ます――

「円座さし出でたれば、簾のもとについ居て、『かやうにてはさぶらふまじくこそは、僧都はのたまひしか』と言へば、尼君ぞいらへなどし給ふ」
――円座(わろうだ)を差し出して進めますと、簾の前に膝をついて、「こうした他人行儀なお扱いを受ける筈はないように僧都は仰せられましたが」と言いますので、尼君が出て応対なさる――

「文取り入れて見れば、『入道の姫君の御方に、山より』とて名書き給へり。あらじ、などあらがふべきやうもなし。いとはしたなく覚えて、いよいよ引き入られて、人に顔も見合わせず。『常も誇りかならずものし給ふ人柄なれど、いとうたて心憂し』など言ひて、僧都の御文見れば…」
――その御文を取り入れてご覧になりますと、「入道の姫君に、山より」と書いて、僧都の名が記されてあります。人違いでしょうと言い分けのしようもありません。姫君はただ恥かしくて、ますます奥の方に引きこんで、誰にも顔を合わせません。妹尼が、「いつも内気でいらっしゃるのは存じておりますが、それではあまりにも情けないご態度です」などと言って、僧都の御文を見ますと…――

 御文は、

「『今朝ここに、大将殿のものし給ひて、御ありさまたづね問ひ給ふに、はじめよりありしやうくはしく聞え侍りぬ。御こころざし深かりける御中を、背き給ひて、あやしき山がつの中に、出家し給へること。かへりては、仏の責め添ふべきころなるをなむ、いけたまはりおどろき侍る。いかがはせむ。もとの御契りあやまち給はで、愛執の罪をはるかしきこえ給ひて、一日の出家の功徳は、はかりなきものなれば、なほ頼ませ給へ、となむ。ことごとには、みづからさぶらひて申し侍らむ。かたがつこの小君聞え給ひてむ』と書いたり」
――「今朝こちらへ薫大将がお出でになりまして、姫君(浮舟)のご様子をお尋ねになりましたので、はじめからの事情を詳しく申し上げました。薫の君のご愛情は深かった御仲ですのに、背を向けられて、見ぐるしい田舎者たちの中で出家されたとは! 却って仏のお咎めを受ける事でございましょうに、今更承って驚いております。しかしこうなった以上は致し方ございません。昔どおり、夫婦の御縁をお結びになり、薫の君の愛執の罪を晴らしてお上げなさいまし。一旦出家した功徳は、計り知れないものですから、なお行く末は頼もしく存じます。細かいことは私自身伺って申し上げましょう。とりあえず、この小君がお話することでございましょう」と認めてあります――

◆写真は三室戸寺境内

では7/25に。