蜻蛉日記 中卷 (132)その6 2016.7.3
「さる用意したりければ、鵜飼かずをつくしてひと川浮きてさわぐ。『いざ、ちかくて見ん』とて、岸づらにもの立て、榻などとり持ていきて、下りたれば、足の下にうかひちがふ。うつしどもなど、まだ見ざりつることなれば、いとをかしう見ゆ。」
◆◆宇治でのもてなしで、鵜飼の準備がされていたので、鵜飼の舟が無数に川一面に浮かんでにぎやかです。「さあ、近くで見物しましょう」と言って、川岸に幕など立てて、榻(しじ)などを持って下りてみると、すぐ足もとで、たくさんの舟が行ったり来たりして鵜飼をしています。うつしどもなく(意味不詳)魚を見たこともないので、とても興味深かった。◆◆
「来こうじたる心ちなれど、夜の更くるもしらず見入りてあれば、これかれ『今は返らせたまひなん、これよりほかに今はことなきを』など言へば、『さは』とてのぼりぬ。さても飽かず見やれば、例の夜一夜ともしわたる。いささかまどろめば舟ばたをこほこほとうちたたく音に、我をしもおどろかすらんやうにぞ、さむる。」
◆◆旅で疲れ気味でしたが、夜の更けるのも知らず夢中で見ていると、侍女たちが、「もうお帰りになりますよう。これ以外はもう珍しいものはございませんから」などと言うので、「それでは」と言って岸を上りました。それでもまだ諦めずに見ていると、前の時と同様に、一晩中篝火をあたり一帯に灯しています。少しうとうとしていますと、舟端をごとんごとんと叩く音が、私を目覚めさせるように聞こえて、目が覚めたのでした。◆◆
「明けて見れば、よべの鮎いとおほかり。それよりさべきところどころにやり領つかめるも、あらまほしきわざなり。」
◆◆夜が明けてから見ると、昨夜捕れた鮎が、たくさんありました。そこから、しかるべき所どころへ鮎をお土産に配る様子で、丁度よい贈り物ではありました。◆◆
「日よいほどにたけしかば、暗くぞ京に来着きたる。我もやがて出でんと思ひつれど、人もこうじたりとて、えものせず。」
◆◆日がすっかり高くなってから発ったので、暗くなってしまってから京に帰り着きました。私も早速父の家を出ようと思ったのですが、侍女たちが疲れたというので帰れませんでした。◆◆
「さる用意したりければ、鵜飼かずをつくしてひと川浮きてさわぐ。『いざ、ちかくて見ん』とて、岸づらにもの立て、榻などとり持ていきて、下りたれば、足の下にうかひちがふ。うつしどもなど、まだ見ざりつることなれば、いとをかしう見ゆ。」
◆◆宇治でのもてなしで、鵜飼の準備がされていたので、鵜飼の舟が無数に川一面に浮かんでにぎやかです。「さあ、近くで見物しましょう」と言って、川岸に幕など立てて、榻(しじ)などを持って下りてみると、すぐ足もとで、たくさんの舟が行ったり来たりして鵜飼をしています。うつしどもなく(意味不詳)魚を見たこともないので、とても興味深かった。◆◆
「来こうじたる心ちなれど、夜の更くるもしらず見入りてあれば、これかれ『今は返らせたまひなん、これよりほかに今はことなきを』など言へば、『さは』とてのぼりぬ。さても飽かず見やれば、例の夜一夜ともしわたる。いささかまどろめば舟ばたをこほこほとうちたたく音に、我をしもおどろかすらんやうにぞ、さむる。」
◆◆旅で疲れ気味でしたが、夜の更けるのも知らず夢中で見ていると、侍女たちが、「もうお帰りになりますよう。これ以外はもう珍しいものはございませんから」などと言うので、「それでは」と言って岸を上りました。それでもまだ諦めずに見ていると、前の時と同様に、一晩中篝火をあたり一帯に灯しています。少しうとうとしていますと、舟端をごとんごとんと叩く音が、私を目覚めさせるように聞こえて、目が覚めたのでした。◆◆
「明けて見れば、よべの鮎いとおほかり。それよりさべきところどころにやり領つかめるも、あらまほしきわざなり。」
◆◆夜が明けてから見ると、昨夜捕れた鮎が、たくさんありました。そこから、しかるべき所どころへ鮎をお土産に配る様子で、丁度よい贈り物ではありました。◆◆
「日よいほどにたけしかば、暗くぞ京に来着きたる。我もやがて出でんと思ひつれど、人もこうじたりとて、えものせず。」
◆◆日がすっかり高くなってから発ったので、暗くなってしまってから京に帰り着きました。私も早速父の家を出ようと思ったのですが、侍女たちが疲れたというので帰れませんでした。◆◆