蜻蛉日記 中卷 (137)その1 2016.7.22
「霜月もおなじごとにて廿日になりにければ、今日見えたりし人、そのままに廿よ日あとを断ちたり。文のみぞ二たびばかりみえける。かうのみ胸やすからねど、おもひ尽きにたれば、心よわき心ちしてともかくもおぼえで、『四日ばかりの物忌みしきりつつなん。ただいま今日だにとぞ思ふ』など、あやしきまでこまかなり。はての月の十六日ばかりなり。」
◆◆十一月も同じような有様で二十日になってしまったので、その日に訪れたあの人は、それから二十日あまりも途絶えてしまったのでした。手紙だけは二度ほどきました。こんな具合で気の休まることがなく、さまざまのつらい思いをし尽くしてきたせいか、気力もすっかり弱ってただぼんやり過ごしていますと、あの人から「四日ほど物忌みが続いたので…。たったいま今日こそ伺おう」などとあって、不思議なほど細々と書いてありました。十二月の十六日ごろのことでした。◆◆
「しばしありて、にはかにかい曇りて雨になりぬ。倒るるかたならんかしと思ひ出でてながむるに、暮れゆくけしきなり。いといたく降れば障らむにもことわりなれば、昔はとばかりおぼゆるに、涙の浮かびてあはれにもののおぼゆれば、念じがたくて人いだし立つ。」
◆◆しばらくして、突然空が曇ってきて雨になりました。(こちらに来るといったので)この雨で来る気をなくしたことだろうと思って物思いにふけっているうちに日が暮れていくようです。とてもひどく雨が降るので、こられなくなっても無理もないと思うものの、昔は雨にも負けずに訪れたものをと思うと、涙がにじみ出てしみじみと悲しくなってきたので、耐え切れなくなって使いを出しました。◆◆
「<かなしくもおもひ絶ゆるか石上さはらぬものとならひしものを>
と書きて、いまぞ行くらんと思ふほどに、南面の格子も上げぬ外に、人の気おぼゆ。人はえ知らず、われのみぞあやしとおぼゆるに、妻戸おしかけてふとはひ入りたり。」
◆◆
(道綱母の歌)「悲しいことにあなたはもう私のことを思わなくなってしまった。昔は雨を苦にせずいらしたものを」
と書いて、使いが今頃着くころと思っている時に、南座敷の格子も閉めたままの外の方で、人の声がします。使用人はだれも気がつかず、私だけが変だと思っていると、妻戸を押し開けてあの人がつと入ってきました。◆◆
「霜月もおなじごとにて廿日になりにければ、今日見えたりし人、そのままに廿よ日あとを断ちたり。文のみぞ二たびばかりみえける。かうのみ胸やすからねど、おもひ尽きにたれば、心よわき心ちしてともかくもおぼえで、『四日ばかりの物忌みしきりつつなん。ただいま今日だにとぞ思ふ』など、あやしきまでこまかなり。はての月の十六日ばかりなり。」
◆◆十一月も同じような有様で二十日になってしまったので、その日に訪れたあの人は、それから二十日あまりも途絶えてしまったのでした。手紙だけは二度ほどきました。こんな具合で気の休まることがなく、さまざまのつらい思いをし尽くしてきたせいか、気力もすっかり弱ってただぼんやり過ごしていますと、あの人から「四日ほど物忌みが続いたので…。たったいま今日こそ伺おう」などとあって、不思議なほど細々と書いてありました。十二月の十六日ごろのことでした。◆◆
「しばしありて、にはかにかい曇りて雨になりぬ。倒るるかたならんかしと思ひ出でてながむるに、暮れゆくけしきなり。いといたく降れば障らむにもことわりなれば、昔はとばかりおぼゆるに、涙の浮かびてあはれにもののおぼゆれば、念じがたくて人いだし立つ。」
◆◆しばらくして、突然空が曇ってきて雨になりました。(こちらに来るといったので)この雨で来る気をなくしたことだろうと思って物思いにふけっているうちに日が暮れていくようです。とてもひどく雨が降るので、こられなくなっても無理もないと思うものの、昔は雨にも負けずに訪れたものをと思うと、涙がにじみ出てしみじみと悲しくなってきたので、耐え切れなくなって使いを出しました。◆◆
「<かなしくもおもひ絶ゆるか石上さはらぬものとならひしものを>
と書きて、いまぞ行くらんと思ふほどに、南面の格子も上げぬ外に、人の気おぼゆ。人はえ知らず、われのみぞあやしとおぼゆるに、妻戸おしかけてふとはひ入りたり。」
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(道綱母の歌)「悲しいことにあなたはもう私のことを思わなくなってしまった。昔は雨を苦にせずいらしたものを」
と書いて、使いが今頃着くころと思っている時に、南座敷の格子も閉めたままの外の方で、人の声がします。使用人はだれも気がつかず、私だけが変だと思っていると、妻戸を押し開けてあの人がつと入ってきました。◆◆