蜻蛉日記 下巻 (204) 2017.7.11
「助ありきし始むる日、道に、かの文やりしところ、行きあひたりけるを、いかがしけん、車の筒かかりてわづらひけりとて、あくる日、『よべはさらになん知らざりける。さても、
〈年月のめぐりくるまの輪になりて思へばかかる折もありけり〉
と言ひたりけるを、取り入れて見て、その文の端になほなほしき手して、『あらずここには、あらずここには』と重点がちにてかへしたりけんこそなほあれ。」
◆◆道綱が病後はじめて外出した日、道でいつか文をやった人(大和だつ人)と行き会って、どうしたことか、車の車輪の真ん中がひっかかって難儀をしたということで、あくる日、助が「昨夜は全然存じませんでした。それにしても、
(道綱の歌)「長い間あなたを思っていると、昨夜のような出会いもあるものですね」といって送ったのを、あちらではでは取り入れて見て、その手紙の端に、上手ではない筆跡で、「ちがいます。私では。違います私ではありません」と、飾り字だらけで書いてよこしたのは、まったく平凡で見栄えのしないものでした。◆◆
「助ありきし始むる日、道に、かの文やりしところ、行きあひたりけるを、いかがしけん、車の筒かかりてわづらひけりとて、あくる日、『よべはさらになん知らざりける。さても、
〈年月のめぐりくるまの輪になりて思へばかかる折もありけり〉
と言ひたりけるを、取り入れて見て、その文の端になほなほしき手して、『あらずここには、あらずここには』と重点がちにてかへしたりけんこそなほあれ。」
◆◆道綱が病後はじめて外出した日、道でいつか文をやった人(大和だつ人)と行き会って、どうしたことか、車の車輪の真ん中がひっかかって難儀をしたということで、あくる日、助が「昨夜は全然存じませんでした。それにしても、
(道綱の歌)「長い間あなたを思っていると、昨夜のような出会いもあるものですね」といって送ったのを、あちらではでは取り入れて見て、その手紙の端に、上手ではない筆跡で、「ちがいます。私では。違います私ではありません」と、飾り字だらけで書いてよこしたのは、まったく平凡で見栄えのしないものでした。◆◆