四八 鳥は (61) その2 2018.6.16
庭鳥のひななき。水鳥。山鳥は、友を恋ひて鳴くに、鏡を見せたれば、なぐさむらむ、いとわかう、あはれなり。谷へだてたるほどなど、いと心苦し。鶴は、こちたきさまなれども、鳴く声の雲居まで聞こゆらむ、いとめでたし。頭赤き雀。斑鳩の雄鳥。たくみ鳥。
◆◆にわとりのピヨピヨと鳴くのが良い。水鳥がよい。山鳥は、友を恋しがって鳴くときに、鏡を見せておくと、その心がなぐさむそうであるのは、たいへん純真で、しみじみ心にしみておぼえる。雌雄が谷を隔てて寝ている夜の間など、たいへん気の毒だ。鶴は仰々しい様子ではあるけれども、鳴く声が天まで聞こえるというのが、たいへん結構だ。頭の赤い雀。斑鳩の雄鳥。たくみ鳥。これらも良い。◆◆
■谷へだてたる=昼は雌雄同居し、夜は谷を隔てて寝るといわれる。
■頭赤き鳥=べに雀。一説、入内雀。
鷺は、いと見目もわろし。まなこゐなども、よろづにうたてなつかしからねど、「ゆるぎの森にひとりは寝じ」とあらそふらむこそをかしけれ。鴛鴦いとあはれなり。かたみにゐかはりつつ、羽の上の霜をはらふらむなど、いとをかし。雁の声はるかなる、いとあはれなり。近きぞわろき。千鳥いとをかし。はこ鳥。
◆◆鷺は見た目も劣っている。目つきなども、万事につけても親しみにくいけれど、「ゆるぎの森にひとりは寝じ」と妻争いをするというのこそおもしろい。鴛鴦(おしどり)はとてもしみじみとした感じがする。お互いに位置を代わり代わりしながり、羽の上の霜を払うらしいなど、たいへんおもしろい。雁の声がはるか遠いのはとてもしみじみとする。だが近いのは劣った感じだ。千鳥はとてもおもしろい。はこ鳥もおもしろい。◆◆
■「ゆるぎの森にひとりは寝じ」=「高島やゆるぎの森の鷺(さぎ)すらもひとりは寝じと争ふものを」
ゆるぎの森は滋賀県高島郡万木にある。
■羽の上=「羽の上の霜うち払ふ人もなしをしの独り寝今朝ぞ悲しき」古今集
庭鳥のひななき。水鳥。山鳥は、友を恋ひて鳴くに、鏡を見せたれば、なぐさむらむ、いとわかう、あはれなり。谷へだてたるほどなど、いと心苦し。鶴は、こちたきさまなれども、鳴く声の雲居まで聞こゆらむ、いとめでたし。頭赤き雀。斑鳩の雄鳥。たくみ鳥。
◆◆にわとりのピヨピヨと鳴くのが良い。水鳥がよい。山鳥は、友を恋しがって鳴くときに、鏡を見せておくと、その心がなぐさむそうであるのは、たいへん純真で、しみじみ心にしみておぼえる。雌雄が谷を隔てて寝ている夜の間など、たいへん気の毒だ。鶴は仰々しい様子ではあるけれども、鳴く声が天まで聞こえるというのが、たいへん結構だ。頭の赤い雀。斑鳩の雄鳥。たくみ鳥。これらも良い。◆◆
■谷へだてたる=昼は雌雄同居し、夜は谷を隔てて寝るといわれる。
■頭赤き鳥=べに雀。一説、入内雀。
鷺は、いと見目もわろし。まなこゐなども、よろづにうたてなつかしからねど、「ゆるぎの森にひとりは寝じ」とあらそふらむこそをかしけれ。鴛鴦いとあはれなり。かたみにゐかはりつつ、羽の上の霜をはらふらむなど、いとをかし。雁の声はるかなる、いとあはれなり。近きぞわろき。千鳥いとをかし。はこ鳥。
◆◆鷺は見た目も劣っている。目つきなども、万事につけても親しみにくいけれど、「ゆるぎの森にひとりは寝じ」と妻争いをするというのこそおもしろい。鴛鴦(おしどり)はとてもしみじみとした感じがする。お互いに位置を代わり代わりしながり、羽の上の霜を払うらしいなど、たいへんおもしろい。雁の声がはるか遠いのはとてもしみじみとする。だが近いのは劣った感じだ。千鳥はとてもおもしろい。はこ鳥もおもしろい。◆◆
■「ゆるぎの森にひとりは寝じ」=「高島やゆるぎの森の鷺(さぎ)すらもひとりは寝じと争ふものを」
ゆるぎの森は滋賀県高島郡万木にある。
■羽の上=「羽の上の霜うち払ふ人もなしをしの独り寝今朝ぞ悲しき」古今集