めでたきもの (105)その1 2019.1.22
めでたきもの 唐錦。飾り太刀。作り仏のもくゑ。色合ひよく、花房長く咲きたる藤の、松にかかりたる。
◆◆たいそう素晴らしいもの。唐土渡来の錦。金・銀・螺鈿などで飾った太刀。彩色を施した仏像の木絵。色合いが良く、花房が長く咲いた藤が松に掛かっているの。
■めでたきもの=「賞で甚し(めでいたし)」が原義。非常に賞美すべきもの。すばらしいもの。
■もくゑ=木絵(もくえ)。彩色した小木片を貼って絵模様を表したものをいう。
六位の蔵人こそなほめでたけれ。いみじき君達なれども、えしも着たまはぬ綾織物を心にまかせて着たる青色姿などの、いとめでたきなり。所衆、雑色などの、人の子どもなどにて、殿ばらの四位五位も司あるがしもにうちゐて、何と見えざりしも、蔵人になりぬれば、えもいはずあさましくめでたきや。宣旨持てまゐり、大饗の甘栗の使ひなどにまゐりたるを、もてなしきやうようしたまふさま、いづこなりし天くだり人ならむとこそおぼゆれ。
◆◆六位の蔵人こそはやはり立派なものだ。身分の高い若君たちではあるけれども、必ず着られるとはならない綾織物を、思いのままに着ている青色姿などは、とても立派である。元は、蔵人所の衆や、雑色などでどこかの人の子どもなどであって、殿さま方の家の、四位や五位の官職のある人の下にかしこまっていて、何とも見えなかった者も、蔵人になってしまうと、何とも言えないほど意外に立派なものだ。宣旨を持って参上したり、大饗のときの甘栗の使いなどに参上したりしているのを、主人の側で接待して饗応なさるありさまは、元はどこに住んでいた天降りの人なのだろうかとこそ、感じられる。◆◆
■綾織物=綾は六位以下の使用を禁じたが、六位蔵人は許された。
■青色姿=麴塵(きくじん)の袍をつけた姿六位の蔵人は天皇の召し古しを賜って着ることがあった。
■大饗の甘栗の使ひ=大臣家の大きな饗応の時、天皇から甘栗を大臣に賜う使い。六位蔵人の役。
■もてなしきやうよう=「もてなしきやうおう」と同じ。饗応。
めでたきもの 唐錦。飾り太刀。作り仏のもくゑ。色合ひよく、花房長く咲きたる藤の、松にかかりたる。
◆◆たいそう素晴らしいもの。唐土渡来の錦。金・銀・螺鈿などで飾った太刀。彩色を施した仏像の木絵。色合いが良く、花房が長く咲いた藤が松に掛かっているの。
■めでたきもの=「賞で甚し(めでいたし)」が原義。非常に賞美すべきもの。すばらしいもの。
■もくゑ=木絵(もくえ)。彩色した小木片を貼って絵模様を表したものをいう。
六位の蔵人こそなほめでたけれ。いみじき君達なれども、えしも着たまはぬ綾織物を心にまかせて着たる青色姿などの、いとめでたきなり。所衆、雑色などの、人の子どもなどにて、殿ばらの四位五位も司あるがしもにうちゐて、何と見えざりしも、蔵人になりぬれば、えもいはずあさましくめでたきや。宣旨持てまゐり、大饗の甘栗の使ひなどにまゐりたるを、もてなしきやうようしたまふさま、いづこなりし天くだり人ならむとこそおぼゆれ。
◆◆六位の蔵人こそはやはり立派なものだ。身分の高い若君たちではあるけれども、必ず着られるとはならない綾織物を、思いのままに着ている青色姿などは、とても立派である。元は、蔵人所の衆や、雑色などでどこかの人の子どもなどであって、殿さま方の家の、四位や五位の官職のある人の下にかしこまっていて、何とも見えなかった者も、蔵人になってしまうと、何とも言えないほど意外に立派なものだ。宣旨を持って参上したり、大饗のときの甘栗の使いなどに参上したりしているのを、主人の側で接待して饗応なさるありさまは、元はどこに住んでいた天降りの人なのだろうかとこそ、感じられる。◆◆
■綾織物=綾は六位以下の使用を禁じたが、六位蔵人は許された。
■青色姿=麴塵(きくじん)の袍をつけた姿六位の蔵人は天皇の召し古しを賜って着ることがあった。
■大饗の甘栗の使ひ=大臣家の大きな饗応の時、天皇から甘栗を大臣に賜う使い。六位蔵人の役。
■もてなしきやうよう=「もてなしきやうおう」と同じ。饗応。