ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

アルコール依存症へ辿った道筋(その29)当局が他社申請と見比べる?

2015-05-15 18:14:24 | 自分史
 新Ca拮抗薬P の承認申請から早くも3年10ヵ月が過ぎていました。この間、旧GCP査察に伴う生データ確認作業(5ヵ月)や、大学病院での治験データ捏造・改竄事件とその煽りを受けた生データ確認作業(13ヵ月)という思いも寄らない出来事があり、さらに新GCP に則した追加治験も実施(5ヵ月)となって想定外の時間が経っていました。
 それらの対応に取られた約2年(正確には23ヵ月)という時間は通常の承認審査ならとっくに結論が出ている期間に相当します。ちなみに承認申請から3年10ヵ月の内訳は、申請者側の時計では10ヵ月を費やしたのみで、当局側で経過した期間は3年でした。

 1日1回の服用という用法について、当局は申請当初何ら問題視していなかったのは事実です。恐らく後から申請した他社の類似薬と承認審査が並行することになったのでしょう。他社の申請資料と見比べて、私たちの申請資料には用法の比較試験データがなく、1日1回服薬の根拠資料として欠陥品なことに初めて気付いたのだと思います。このままの状態で承認したら、情報公開で他社の類似薬との違いが歴然とします。それをどうしても避けたかったのだと思います。

 指示事項で回答に含めるよう名指しで要求してきたのはT/P 比でした。T/P 比ならば、比較するもの(対照群)がなくても、24時間自由行動下血圧日内変動(ABPM)試験成績ひとつで算出可能なのです。そう考えるとT/P 比は当局の “助け舟” とも受け取れます。

 私としては、最初の担当官が注意怠慢で見落ししてしまったことを隠蔽するための工作で、むしろカムフラージュだったのではないかと疑っています。当局の本音は「比較試験データが欲しい」だったのです。冷静に考えてみると、T/P 比は思い付きの代案だった、それしか言いようがありません。成功体験の思い込みから、欠陥資料で申請してしまった手前の落度を棚に上げての暴論ではありますが・・・。

 危機的状況に遭遇すると誰でも視野が狭くなりがちです。当時の私も痛い所を突かれて狼狽え、視野が狭まったのだと思います。状況を広く見わたし、当局の最大の関心事は何なのか、彼らの思惑や当方の弱点(1日2回の服薬と比較したデータを欠く申請資料)など、冷静に推量するだけの心のゆとりがありませんでした。既にして相手の思惑を読むべき神経戦に敗北していました。これもアルコールの仕業だったのかと考えさせられました。

 取り敢えず指示事項に回答するには、T/P 比関連の文献情報を精査するしかありません。FDA のガイドライン(案)が内包する問題の中で、最も大きな問題はT/P 比の算出方法でした。FDA のガイドライン(案)の曖昧さから誰もが躊躇していたのでしょうか、実際にT/P 比を算出した臨床報告は数少ないものでした。

 ABPM に関する数少ない臨床文献の中に、当時の欧州高血圧学会会長Zanchetti が著者に名を連ねる降圧薬の臨床研究報告がありました。

 Zanchetti の報告では患者個々のT/P 比を算出した後、それらのT/P 比を用いて患者集団全体のT/P 比の平均値を求める方法を採っていました。こうして求めた患者集団全体のT/P 比の平均値が0.5 以上であったとし、FDA のガイドライン(案)が推奨する水準を満たしたとしていました。患者の立場に即した正統的な算出方法です。

 著者のネイムバリューからしてもお手本とせざるを得ない報告でしたが、ピークを服薬前と服薬後の血圧最大格差(最大血圧下降度)としたと述べているだけで、どの時点であるか明記してないことが不満でした。また、データ解析の背後に製薬企業がついているらしいことに胡散臭さを感じました。

 早速、Zanchetti 流を手持ちの試験データでためしてみると、やはりピークの採り方が曲者と分かりました。

 Zanchetti の報告では、ピークを最大血圧下降度の1点だけで求めます。服薬前後の血圧の折れ線グラフ(縦軸:血圧、横軸:時間)が交叉していなければ、ピークを求めるのは簡単な話です。多くの患者は、期待通りトラフもピークもはっきりしていて、服薬2~8時間後にピークを迎えた症例でした。ところが、患者によっては服薬前後の血圧が激しく変動して折れ線が交叉した症例もあったのです。これらの症例ではピークばかりかトラフも求まらないものもありました。これではT/P 比の平均値≧0.5 なぞ望むべくもありません。改めてT/P 比なるものはとてもマトモなシロモノではないと気付かされました。

 そこで前回述べたように、新薬調査会の新任専門委員に一席を設けて、これら生データの実際を見てもらい、落としどころを探ってみました。が、ABPM の生データを見たことがなかったのか、あったとしても実際は患者の病態を診断する観点でしか見たことがなかったのでしょう。
「作用の持続時間が短いとしか言いようがない」と、けんもほろろに言われるだけでした。結局、この筋からの解決策を見出すことは出来ませんでした。

 このような状況に困り果て、新Ca 拮抗薬P 研究会の代表世話人をはじめ主な幹部医師に相談を持ちかけました。やはりどなたもT/P 比算出の経験がないことから、上手く捌く妙案をもらえませんでした。“外れ値” や “移動平均” など統計学上よくやるデータ処理で解決を勧めてくれる方もいました。

 ところが、このような議論の場に備えて同行させた生物統計部署の責任者O 女史が、医者が相手となると “借りてきた猫” 状態となってさっぱり役に立たないのです。社内では何かにつけ舌鋒鋭い批判をするのが得意の人物がこれです。まさしく「一緒に仕事をしてみないと人物というのは分からない」、この時も実感しました。

 それでも医者と相談している内に、家庭で測定した血圧(家庭血圧)で評価する別の手段があるとの提案をもらうことが出来ました。この助言が後になって貴重なヒントになりました。

 結局、Zanchetti 流のT/P 比の算出が不可能な理由を述べ、元々の申請内容に患者集団全体の平均値から算出した仮のT/P 比を加えて回答としました。T/P 比の理不尽に憤る私では感情的で偏った回答にしかならないからと、元部下のM 君が正規の責任者PL (PM)として簡潔で抑えた論調の回答執筆者となりました。

 「比較試験データが欲しい」というのが本音の当局が、この回答に納得するわけがありません。T/P 比では埒が開かないと思った当局は、やっと用法の根拠データの欠落を指摘し、追加比較試験立案の治験相談に乗ると言って来ました。当局が治験相談に乗るということは、立案した治験計画自体が十分に評価できること、得られた成績が目的通りの結果であれば承認すること、その両方を意味します。

 私たちも厄介なT/P 比を求めることを諦め、家庭血圧で用法を比較するという新しい評価方法に方針を変更することにしました。家庭血圧が薬効評価に用いられたことは未だなかったものの、高血圧の野外(院外の町村コミュニティ)研究でその評価は定まっていたのです。全世界を見回しても例のない、全く新しい薬効評価方法を新たに開発することになりました。


アルコール依存症へ辿った道筋(その30)につづく



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コメント (1)
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