ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

電通の過労自殺に思う “どうにもならない” 生きづらさ

2016-12-09 09:19:38 | 世相
 電通社員の過労自殺が表沙汰になってからもう2ヵ月ぐらい経つでしょうか。ほぼ1年前の2015年12月25日に電通の新卒新入社員・高橋まつりさん(享年24)が飛び降り自殺をした事件のことです。この間、私の中でどうにも割り切れないわだかまりが残ったままでした。なぜ、入社9ヵ月目の新卒新入社員が自殺するまでに至ったのか? 私のわだかまりとはこの疑問に尽きます。

 ほぼ40年前の私を振り返ってみると、入社9ヵ月目というとやっと職場の雰囲気に馴れ始めた時期でした。新卒として私が就職した先は自社開発を標榜する製薬会社でした。

 営業職に配属され、いきなり現場の病院担当となった同期の仲間はさておき、臨床開発に配属された私などは、勉強のためにだけ治験関係の臨床論文を読む毎日でした。同じ臨床開発に配属され、即戦力と目されていた同期の同僚も、上司が医者と面談する出張に随行し、しょっちゅう出掛けていたぐらいのものです。現場の病院担当となった同期の仲間にしても、研修のため最低月に1回は全国から一堂に会し、泊りがけで情報交換(?)できる機会が与えられていました。当たり前のことですが、月々のノルマなどまだ課せられていませんでした。サラリーマンの世界では、製薬業界、証券業界、生命保険業界の3つが最も辛くて厳しい業種と言われていた時代のことです。

 40年前とは少しは変わっていると思いますが、新卒の入社1年目というのは今でも定期的な研修を繰り返す修業期間であることに違いありません。おそらく同業他社にしても似たり寄ったりで、たとえ異業種でも同じようなものだと想像できます。人手不足と報道されていた電通ですが、新入社員の扱いが他社と極端に異なっているとは思えません。

 会社には社風というものがあり、当の社員はあまり意識してないものですが、傍からは空気が違うとはっきり分かる、一種独特の気風です。それを如実に語るのが社訓で、大抵は創業者か中興の祖と言われる元社長が遺した言葉です。社員の意識を覚醒させるためでしょうか、しばしばギョッとさせられる言葉があるのが普通です。知らずしらず社員の意識下に流れている気風を醸成させるのが社訓なのだと思います。

 “男の約束は法律に優先する” 表立って殊更言われることはなかったものの、私が入社当時に聞いた社訓です。これを聞いたときは、とんでもない会社に入ったものだと心底ビビりました。事件の報道以来、物議を醸している電通の『鬼十則』の5番目 “取り組んだら「放すな」、殺されても「放すな」、目的完遂までは・・・” も同じ類のことで、時に目くじらを立てるまでもないと考えていたのですが・・・。

 報道によると、亡くなった新入社員の方は、打ち出したネット広告の宣伝効果を1週間単位で分析し、改善策を広告依頼主(クライアント)に報告する業務を担当していたそうです。試用期間の6ヵ月が過ぎ、自殺2ヵ月前からは本採用となってクライアントが2社に増えたといいます。試用期間とか本採用とかはさして重要な問題ではありません。常識的には、広告代理業トップの会社として宣伝効果の分析業務などのノウハウは完備しているとみるのが普通で、上司が新卒の新入社員に任せても大丈夫と判断した業務だろうと考えます。

 問題があったとすれば、入社半年でいきなり仕事が倍になったことと、恐らくはクライアントに提案する改善策部分にあったのだろうと思われます。改善策の提案は個人の資質や性格に負うところが大だと考えるからです。ところが調べてみると、それがどうも微妙なようなのです。

 新卒の新入社員が先輩社員からよく言われる言葉に「学生気分が抜け切らない」があります。正解があるという前提でもの事を考えるクセと言うのか、青臭い理屈から抜けられない考え方のことを言います。学生時代は、考え方が論理的であって、まとまった考えを論じられたら合格という自己完結型思考の世界です。努力型で秀才型の学生ほど自力で何でも片づけられると考えがちです。

 そんな学生時代と違って、正解という答がない世界が実業界です。答は注文主であるクライアントの満足と、結果として現れる数字だけです。正解がないのですから、取り敢えず答らしきモノを提出して相手の反応を見、結果がどんな数字で出て来るか、他力本願(?)で待つしかありません。努力型で秀才型の人には、なかなか馴染めない軽薄な世界と映るはずです。

 故人は過酷な受験勉強を勝ち抜いてきた経歴の持ち主です。手を抜いたら落とされるという辛酸を十分に舐めて来た人だと思います。おそらく真面目で上昇志向が人一倍強く、自己完結型思考に長けた人だったのでしょう。そのためどうしても完璧を目指し、手を抜いてテキトーに報告したらいいというイイ加減な発想がなかったのでは、と思われます。そうでもなければ徹夜も含む残業が月100時間超など考えられません。脳が疲れてきたら、いくら時間をかけてもよいアイデアなど生まれません。睡眠をとるのが一番の解決策なのですが、知ってはいても性格上無理を重ね、悪循環に嵌まったのだと思います。
 
 Twitterへの書き込みで、故人は自殺2ヵ月前から眠れないことを悩んでいたそうです。同じ書き込みで自殺念慮も残しているそうです。クライアントが2社に増えたことがプレッシャーとなり、残業してでもこなそうと完璧主義に拍車がかかったとしても想像に難くありません。不眠という自覚症状を書き残していたのですから、さすがに本人も心身の異常に気付いていたことでしょう。それでも他の社員が深夜・早朝まで残業する姿を見て、新入社員が疲れたなどと、とても言える雰囲気ではなかったとも書き残しています。新入社員としての引け目が招いた悲劇です。

 Twitterへの書き込みには字数制限があり、思いの丈を吐露できる場ではありません。いわば何気なく呟く独り言みたいなもので、賛同者がいたとしても気休めにしかなりません。報道では、故人から相談を受けたという先輩社員や同僚の話は載っていませんでした。これらから推測できるのは、深夜残業をせざるを得ない自分の非力を認めたくなかった可能性です。恐らくそのため、先輩や同僚に相談するとか、休むとかいう発想がなかったのでしょう。周りに相談して引きずり込むなどせず、完全に一人だけで仕事を抱え込んでいたのだと思います。ここまでは個人の資質・性格についての疑問です。

 遅くまでの残業が習慣化すると奇妙なことが起こります。人に誘われるか、用事でもない限り、一人で定時には帰れなくなるものです。こんなことはベテラン社員に当てはまることで、新卒の社員にはあり得ません。経験不足から止むを得ず過酷な残業続きとなり、不眠のため抜き差しならない深刻な精神状態になっていたのでしょう。もう自分の意志では “どうにもならない” 生きづらさの中に陥っていたと思わざるを得ません。依存症と同様の病態です。

 こんなときに上司から「残業時間の20時間は会社にとって無駄」と嫌味を言われたり、「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」とか、「会議中に眠そうな顔をするのは自己管理ができていない」と叱責されたりしたと故人がメモに残しているそうです。ましてや若い女性に対して「髪がボサボサ」といった類は言語道断です。これらは故人にとって凶器とも思えたであろう暴言です。作り笑いの引きつった顔が見えるようです。心身とも健全な今時の若い女性なら、こんなパワハラとも取れる言葉にはその場で噛みつくのが普通です。新入社員だからと自重したにしても、抗議することもできなかったほど精神が衰弱していたとしか考えられません。

 精神状態の異変は傍から見ているとはっきり分かるものです。キャパがなかったのは明らかに上司の方で、部下の異変を見抜けなかったことは管理能力がなかったことを意味します。社内事情に通じたベテラン社員の上司ならば、せめて『裏十則』の洒落で部下を労う余裕が欲しかったと思います。電通には『鬼十則』にかけてブラック・ユーモア化した『裏十則』というのがあり、その5番目は “取り組んだらすぐ放せ。馬鹿にされても放せ、火傷をする前に・・・” だそうです。それにしても、なぜ、上司や同僚が精神的異変に気付いてやれなかったのでしょうか?

 私も散々残業をしてきたクチです。月100時間ぐらいの残業もざらに経験して来ました。私の経験からすれば、たった一人で残業するなどまずあり得ません。広いフロアには必ず何人かが残っているものです。退出前にまだ残っている人を見かけたら、一度声をかけてから退出するのが普通です。たった一人だけになると、さすがに心細くなり、帰り支度を始めるのが定番でした。

 残業者を見かけたら、警備員は何度でも夜間巡回を繰り返していたはずです。新入社員でありながら、いつも同じ人物が残業しているのは明らかに異常です。頻繁に目につくようなら、すぐに噂となって職場仲間や上司の耳に届くものです。電通の社内ではこんなことが異常とは映らなかったのでしょうか? 異常と映らないようなら、あまりにも殺伐とした空気に満ちみちた職場風景が目に浮かんでくるのです。

 『鬼十則』は電通社員の行動規範でもあり立派な精神訓示でもあります。現場で仕事に取り組む際の心構えを説いたものでもあるのです。社訓に書かれていることを盾に、残業に苦しんでいた故人を見て見ぬふりをしていたのなら、社訓の説く精神を曲解していたに過ぎません。社訓が字義通りにしか解釈されず、言い訳に使われるまで社風が劣化しているのであれば見直すしかないのでしょう。

 故人は、ハッキリ言って就職先を間違えたのです。外から見える華やかな世界が、内から見ても同じだとは限りません。華やかそうな欺瞞に満ちた現実に虚栄の夢を散らした故人に合掌。


 上記は上司の力量不足が若者の命を奪った事例とも言えます。現役時代の私を振り返って見れば、部下の指導に戸惑ってばかりだった自分に後ろめたさを覚えてしまいました。以下は、その頃の思いを書いた記事です。


アルコール依存症へ辿った道筋(その11)一人で抱(かか)え込むより抱(だ)き込む?
このスタッフに任せて大丈夫行ける、と言い切れない不安をどこかに感じていました。・・・臨床開発の経験不足が明らかなスタッフを一人前に教育できるという確信が持てなかったのです。・・・.



電通『鬼十則』、そして電通『裏十則』
“どうにもならない”生きづらさって?」もご参照ください。


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