新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

夕張市の問題はトリアージだと思う:どこまで求めるのか?

2010-06-05 22:20:35 | 医療

さて、今日は最後の予定です。

 

先程、さらっと流し読みしていたらこのような記事がありました。

 

すでに何人ものブロガー医師が書いていそうな気がしますが、あえて書きます。

 

夕張市立診療所:自殺図った男性の救急受け入れ拒否 「外来に対応」 /北海道

 6月2日11時10分配信 毎日新聞  

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100602-00000033-mailo-hok

夕張市は1日、市立診療所が先月、自殺を図り心肺停止状態になった市内の50代男性の救急受け入れを断っていたと発表した。昨年9月にも同様のケースがあり、市は同診療所の村上智彦医師から事情を聴いた。 

 

市の説明では、5月19日午前8時前、「首をつり、自殺を図った男性がいる」という119番通報があった。救急隊員が駆けつけると、男性は心肺停止状態で、診療所に受け入れ要請したが、外来患者診療のため、対応不可能として断られたという。男性は市内の別の医療機関で死亡が確認されたという。 

 

村上医師は「首つりと聞いて検案(死亡確認)のケースと判断した。緊急性が低く、自分は外来もあったため、他の医療機関で対応してもらいたいと伝えた」と話している。 

 

同診療所は昨年9月27日夜、同様に首をつった状態で見つかった男子中学生の受け入れを断った。市と診療所は、二度と同じような事態が起きないようホットラインを設けるなどしている。藤倉肇市長は「誠に遺憾という思い。市立診療所の開設者として総括が必要だ」と話した。【吉田競】

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首をつり亡くなられた方には申し訳ありませんが、優先順位という話になります。

 

救命救急という形でやるのであれば、スタッフ数もそれなりにいて…受け入れられるところがやるしかないです。

 

ここで村上先生が受け入れれば、村上先生の外来は止まっていたでしょうし、そこに救急対応の必要な患者さんがいたら

 

村上医師は救命の可能性の低い患者さんを受け入れたために、救急対応が必要だった患者さんを死に至らしめた

と書かれるのだと思います。

 

 

僕も先日受け入れを断った患者さんがいます。

90代の認知症で施設に入られている方が「肺炎」のような症状で、救急要請があったものです

 

最初に大学病院から当たっていただいた救急隊の方々にも様々なお考えがあったのだと思いますが、申し訳ありませんが断りました

 

何でも受け入れていたら、ひとつ前の記事にも書きましたが「大学病院で必ず診なくてはならない患者さん」の受け入れが不能になるからです。

 

一応、救急隊の方には

「僕が受け入れてもよいのですが、ここで受け入れるということはその分、大学病院で診なくてはならない状況の患者さんが受け入れられなくなる…ということだけ理解していただければと・・・・」

と言ったら

「夜中にすいませんでした。二次救急を当たります」

と、おっしゃっていました。

 

高齢者の肺炎は死亡率も高い。僕が2次救急の当直医なら診たと思います。何故なら二次救急だからです

 

先日、うちの大学病院の院長先生が「救命救急センター以外は二次救急」とおっしゃったそうですが、それで二次救急並みに何でも受け入れていたら「血液内科」で鉄欠乏性貧血のある肺炎…も診ることになりますし、神経内科では今回の「認知症のある肺炎」を診なくてはならないということになります

 

しかし…それをやっていたら「急性白血病はどうなる?」「ALSなどの診断、MSなどの治療・・・神経内科の専門医が手掛けている分野はどうなる?」ということになります。

 

大学病院と診療所では状況は異なりますが、「どこまで診るの?」ということには共通点があります。

 

「専門医」として動くのであれば、「ここで診なくてはならない患者さんか?」ということが一つのポイントになってきます。そんなことを言っても「一般の方々」に理解してもらうのは大変だと思うのですが、「専門医療機関」であれば・・・・・・それを考えなかったら、ここで必要な患者さんを見捨てなくてはならないことになります。

 

逆に「二次救急の医師」として救急現場に立つのであれば、とりあえず救急要請があればある程度は受け入れますよね。

 

自分の立ち位置でやはり動きは変わってきます。

 

そして・・・一人ですべてを切り盛りする状況であればトリアージするしかないのです。

 

助けられない患者さんは黒

 

そう判断しなくてはならない。

 

それは「医師不足」の状態である夕張ならば、逆に当然の対応でなくてはなりません。

 

何でも受け入れていたら「助けられる可能性のある患者さんを助けられなくなる」からです。

 

医師数が不足しているから「トリアージ」の結果、受け入れは不可能と判断(黒タッグ)した・・・という状況なのだろうと考えています。

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なかのひと 

トリアージをしなくてはならない状況を放置している「夕張市長」に関しては責めを負うのは仕方がないかもしれませんが、状況判断は的確であったと僕は考えます。

 

 

それでは明日もまた忙しくなりそうなのでここらへんで失礼します。

コメント (6)
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基本的には絶対的な医師不足

2010-06-05 21:43:26 | 医療

続けていきます。

 

我々血液内科医も絶対的な医師不足にあります。基本的には日本の医師数は「絶対数」として不足です。

 

その状況が分かっていないからなんですかね・今だに「偏在」と書かれてしまうのは

 

“病理医”不足 医療の発展に伴う対策を

5月31日10時26分配信 産経新聞

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100531-00000521-san-soci  

がん治療などで高度な医療が普及するに伴って深刻な医師不足に見舞われながら、その危機的状況があまり知られていない診療科がある。腫瘍(しゅよう)細胞が良性か悪性か見極めるなど治療方針を立てるうえで要になる病理診断科の病理医である。  

 

もともと病理医の絶対数が足らないうえ、画像診断技術の発達などで早期の小さな病巣がみつかるようになり、検体の数が急激に増えて病理診断の手が回りにくい状況になった。3人に1人はがんで死亡するという時代に、病理医をめぐる環境は今後ますます厳しくなるだろう。  

 

最近では小説「チーム・バチスタの栄光」に病理医が登場して臨床現場での存在が認識されはじめたものの、患者と接する機会が少ないことから、この分野での医師不足の問題が表面化しにくかったという事情もある。  

 

病理学は本来、基礎医学の分野で、臨床にかかわるのは昭和30年ごろからと歴史が浅い。病理専門医の数は全国で約1500人。人口比では米国の4分の1以下にすぎない。大学病院などでは、常勤の病理医がいるが、多くても2人という状態。検体の数が毎年20~50%も増加するのに加えて、手術中に採取した細胞を直ちに診断するなど臨床現場に参加することが多くなって拘束時間が長く、土日も休めない。また、小規模な病院では、病理医がおらず、検体は外部の検査機関に委託するので診断に時間がかかる。  

 

日本病理学会理事長の青笹克之・大阪大学教授は「職場環境や待遇の改善に加えて大学教育、臨床研修のさいに魅力的な仕事であることをアピールして病理医を増やすことなどを考えています」と強調する。医学生の教育を含め対応策は小手先では解決できないほど切羽詰まっているのだ。  

 

すでに顕在化している外科、産婦人科、小児科を中心にした医師不足については、平成20年度から医学部の定員増が行われているが、単なる数合わせだけでは解決しない。診療科や地域による偏在は否めず、これを是正するため、厚生労働省は、実態調査に乗り出している。  

 

こうした医師不足解消のための動きについて日本医学会副会長の門田守人・大阪大副学長は「定員増になっても、外科医の養成に10年はかかる。いまこそ医師不足の神髄を見据えた対策が必要です」と提言する。  

 

門田副学長は、19年に行った日本外科学会の会長講演で外科医不足の原因として、「労働時間が長い」「医療事故のリスクが高い」「給与が少ない」などを指摘している。このような状況の改善を進めるべきだとしたうえで「たとえば、医学の各学会は先端的な領域の専門医の養成に力を入れている。そうなれば専門外の患者を診ないという医師が出て、医師不足の一因になる可能性もある」と分析する。このため「病気を部分的にとらえるのではなく、人間を全体的に診て治療に当たる医学教育の徹底など医療の本質的な課題に踏み込んだ論議をつくすべき時期です」と断言する。  

 

医師不足の問題は、今後、医学の発展とともにさまざまな領域から表面化してくるだろう。そのときに患者優先の医療を貫くためにも根底にある課題を解明し、対症療法ではない施策のよりどころとすることが大切だ。(論説委員・坂口至徳)

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病理医の不足も含めて、医師不足は深刻だと思います。

 

どれだけ現場が無理をして、今の状況を支えているかは認識されていないのではないかと思います。

 

僕自身、食事の時間、寝る時間全て削って対応していますが・・・それでも優先順位をつけて対応するしかない状況です。

 

「優先順位をつける」という時点で、すでに不足しているわけです。

 

ついでに言うなら

「患者さん」に対してできることが増えた

=昔なら亡くなっていた人を助けられるようになった

=医師のできることが増えた

=医師の仕事量が増えた

 

 

しかし、医師数は増えない

 

その状況下で専門外の患者を診ないという医師が出て、医師不足の一因になる可能性に関して示唆するなら、最初にやらなくてはならないことは「専門医」と「総合医」をしっかりと国民の皆様に認識していただくことではないかと思います。

 

僕はどちらかというと(血液内科全体がそうでしょうけど)総合医・・としてのレベルを高めに保ちつつ、専門分野を主体に診ているつもりです。しかし・・・申し訳ありませんが、ここで血液疾患に外にまで手を出していたら「専門」分野がおろそかになりすぎます。

 

専門外を見ない医師…ではなくて、専門の分野の対応をするためにいるというのもあるわけです。

 

例をあげると・・・先月、実際にあった話ですが…

 

血液の病気の患者さんが「腰が痛くなって、動けなくなった。それで食事もとれなくなったので診てほしい」と当院の救急外来を3回受診されていました。

 

それぞれ当直の先生は輸液をしたり、痛み止めを出したりして対応され、3回目に診てくれた先生は「入院させろ」という患者に対して

「大学病院で腰痛のためだけに入院していたら、本当に(大学病院に)必要な患者さんが診れなくなるでしょう?」

と言って、近くの病院に入院できるように手はずを整えてくれました。

 

本人が病院に行ったあとで「金がかかりそうだ」と入院を拒否したそうですが・・・。

 

その後、再び外来に来て「入院の手はずを整える」という話をするまで、ずっと30分くらい外来のブース内から動かず、うなだれたままだったのに「入院」と決めたら「朝から食事をしていないので、食事に行っていいですか?」と食べに行ったという・・・。

 

嫌がらせかと思いましたよ…本当に。

 

この患者さん、本当に大学病院に入院が必要かと言ったら「絶対に必要ない」状況です。ただ、食事を作ってくれる方がいてくれたらいいだけです。

 

別に腰痛の患者さんを診てもいいのですが、それを始めたらこの地区の「血液疾患」の患者さんを診る病院はなくなります

 

すでにこのスタッフ数の少なさで26名(病床数の100%超え)をしていますので、ここで「専門外」の患者さんを受け入れたら、「大学病院でしか診れない」患者さんの受け入れを断るしかなく(受け入れ困難)、その患者さんは・・マスコミでいうところの「たらいまわし」にあってしまいます。

 

それが分かっているから、うちなんかは受け入れ可能な分は最大限受け入れているわけですが・・・。というか、オーバーしているけど・・・。

 

総合的に診れないわけではないです。しかし、何でも診ていたら「専門分野」の病気が診れなくなってしまう。その必要がある患者さん達が死んでしまうのが分かっている以上、専門家が診る必要がないと判断した場合、「断る」選択肢が出てくるわけです。

 

 

そのことが分かっていない人が・・・ほとんどです。現実的には医療従事者の一部も分かっていないと思います。

 

専門外の患者さんを診ない・・・という意味がいろいろあるということは、マスコミの方々にも少しだけ認識してほしいように思います。

 

救急隊とかの電話・・・本当は何でも受け入れたほうが楽なんですよ。

 

今日も急変対応してましたが(他の病棟で)、「そのくらいなら落ち着いてやれ」くらいの状態で対応できますので・・・。

 

けど、すべて受け入れてたら「本当に診なくてはならない患者さん」を受け入れられなくなる

 

現実的に「マンパワー」も「病床数」も足りていないわけですから・・・

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なかのひと 

さて、もう一つ書けたら書きます。

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食事のひまもない・・・

2010-06-05 21:03:50 | 医療

こんばんは

 

17時ころ帰ってきました。

 

今日も若干疲れてしまい、「ぽてっ」っと2時間ほど倒れてました(笑

 

 

今週もかなり忙しくバタバタしていました。正確に言うとバタバタしていた日が多かったです。

 

週に21回食事をするのが普通と考えると、食事の回数が12回(?)

 

 

研修医不在、および研修医になりたてが多かったので採血などを手伝ったりして・・・ですね。

 

血液疾患の患者さん、特に抗癌剤治療をしている人は血管のダメージなどもあり、採血難しい人多いんですよね。

「もう、あの先生はいや・・・」

そう言われてしまうと僕がやるしかなく・・・。

 

 

朝、採血の手伝いをしてから患者さんの回診をすると結局9時ころに終わります。時間の余裕がある場合は、この後食事に行けるわけですが・・・

 

 

「先生、外来に患者さんが・・・」

「先生、外来にバンクドナーさんが・・・」

「先生、○○ですけど・・検体上がります」

「先生、病棟で・・・」

 

 

・・・・・・うがぁ・・・・・(笑

 

単細胞生物のように分裂できれば良いのですけど・・・。体が分裂できない限りはどうしようもなく・・・。

 

しかし・・・水飲む暇もないのか(食事のひまはもっとない)

 

 

16時になって今日最初の食事かよ・・・

と話をしていたら、別の医師もそうだったらしく一緒にコンビニへ・・・。

 

そこへ行く途中にまた電話があり・・・。

 

かなり不規則な上、食事すら本当にできない状況でした。

 

 

因みに上記の12回に「ウイダーインゼリー」のみ、「手巻きずし」のみなどを含んでの回数なので、結構全般的に食事はしていないといってよいかもしれません。

 

 

外来に来た患者さん達から

先生、痩せました?

と言われ、痩せたかも…と本当に思いました。

 

 

これで僕がいなくなって大丈夫か?

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なかのひと 

と、残り2カ月の大学勤務期間を考えながら思っています

 

次の記事に行きます。

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