未来技術の光と影。
SIYOU’s Chronicle




『アバター』
http://movies.foxjapan.com/avatar/


『アバター』を見た。

大絶賛だ。

過去にも人類は様々な素晴らしいものを作って来た。

だが間違いなく、世界が資本主義になって以降、人類が生み出したものの中の最高傑作だと思う。

正直、予告やネットの記事からは、どんな映画なのかピンと来ていなかった。

「タイタニックの監督」を冠した大がかりなSF映画。程度の認識しかなく、それほど観たい作品ではなかった。

だが、ここ最近の急激な3D技術の浸透から、ただ人をびっくりさせるためではない3D映画が、どんなものか見てみたいとの気持ちがあった。

なぜかは分からないが、ジェームズ・キャメロンなら、それを成し遂げるだろうとの確信もあった。

圧倒的だった。

どうせなら一番大きな劇場で。と、行き当たった「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」。

だが、そこにあった「デジタル上映」の文字に、一瞬心が怯んだ。

マイケルの映画の画質の荒さが気になって没入出来なかった私にとって、「デジタル上映」とは、プリント代やフィルムのデリバリ費用を節約するためのもの。程度の認識しかなかった。

果たして、現在の技術水準で、それが鑑賞に堪えるものなのかどうか?

3Dになった20世紀フォックスのロゴを見て、その懸念は払拭された。綺麗だ。これだけの大スクリーンにもかかわらず、フィルムと変わらない。メガネをしている違和感も全くない。分析はそこで終わり、一気に映画に没入していった。

良いことなのか、悪いことなのか、3D映画であるということは、上映中は全く意識に上がらない。

だがそれは、非常に高度な技術のはずだ。

『デイアフタートゥモロー』の辺りから、CG技術は完成の域に達した。もはや、それがCGであることなど、一切意識に昇らない。「どうやって、撮ったのか?」との思いすら湧かない。その映像は、必要であるからそこにある。

そして、『アバター』だ。実写とCGの3D映像を、CGらしさを払拭した状態で合成した映画は、これが初めてではないのか?そしてそれは、初めてにして、いきなり完成している。

『映像体験として観たい映画』の場合には劇場に行くことにしている私にとって、それは正に『別次元の映像体験』であった。

時として人類は、その時点で到達できるはずの領域を、遥かに超えるものを作ってしまうことがある。

私にとっては、デュランデュランの『ワイルドボーイズ』以来の衝撃であり、そして、それを遥かに凌駕してしまった。

スタッフロールが流れている間、涙が止まらなかった。申し訳ないがそれは、ストーリーに感動したからではない。

こんなものを作ってしまった人の力。卓越した才能を持った人々が集結して、一つ物を作り上げてしまった、その素晴らしさに魂が打ち震えた。

昨年は『3D映画元年』と言われた。だがそれは、大型テレビを自宅に備えた観客を、映画館に呼び戻すための起死回生の手段。との様相を呈していた。

だが今年になって、元旦明けから急に『今年は3Dテレビ元年』との報道が相次いだ。

早い。早すぎるのではないか?

だが、そんな思いも、アバターを観れば払拭される。この体験は、技術がどんなに進んだとしても、少なくとも私が生きている間には、自宅では到底味わえないであろう。

あなたも是非、劇場で3D版を観て欲しい。


「観客を劇場に呼び戻すための、良い手段を思い付いたそうだね?」
「はい。これだけ『大画面3D放送』が普及してもなお、スポーツ観戦のためには人々が競技場までやって来るのは、なぜだと思いますか?」
「それは、選手の活躍を生で観る。という、臨場感ではないのかね?」
「ひいきのチームを仲間と一緒に応援するという、一体感ですよ。声を限りに応援し、そしてその結果としてチームが勝てば、まるで自分もそのチームの一員となって勝利したかのような高揚感を得ることが出来ますからね。人は『ヒーロー』の存在を渇望し、そして彼に近い存在の一員になることを切望しているんですよ。」
「映画でも、それが実現できると?」
「はい。そこで、この『アバターシステム』です。劇場のシートを、全て『リンクポッド』に置き換えるんです。」
「観客が『リンクポッド』に入って、アバターをコントロールするのかね?」
「流石に、そんなに金のかかることは出来ません。『リンクポッド』はアバターシステムのものと同じですが、接続先は『バーチャル空間』です。映画の撮影の際に構築した世界がそのまま使用できますので、そこに大きな問題はありません。」
「観客が、映画の登場人物になって、戦闘に加わるのかね?」
「もちろん、それが理想です。ですが、残念ながら現在の技術水準では、数百人の思い思いの挙動を、高精細でリアルタイムに再現することは、できません。」
「では観客は何をするのかね?」
「応援するんです。」
「応援?」
「『ナヴィぃぃぃぃぃぃっ!!がんばれぇぇぇぇぇぇっ!!』って。」
「・・・それ、面白いのか?」
「声援の大きさなどで、スクリーン下部にインジケーターを表示します。そして応援が一定値に達すると、主人公側の勝利となります。今まで、こんな斬新な演出があったでしょうか。」
「客のノリがイマイチな場合には、先導役のアバターが、『みんなっ!!もっと大きな声で応援しよう!!』と、煽るんだろ?」
「さすがに、良く、分かりますね。」
「それ、子供の頃に遊園地の『ヒーローショー』で見たよ。あまりにも、子供騙しではないかね?」
「新しい技術が生まれた直後は、その技術の特徴を強調するがあまり、ややもすると解り易い、子供騙しなものに陥りがちです。ですが、それは、技術の普及には必要なことなんです。」
「いや、その程度では、設備費に見合った集客が望めないだろ?と、聞いているんだよ。」
「まだあります。本編終了後に、ステージに主人公が現れて、挨拶をします。」
「挨拶?」
「『今日来てくれた皆の声援が、僕の耳に届いて頑張ることが出来た。これからも、応援よろしく!!』などです。」
「・・・だから、それは、『ヒーローインタビュー』だろ。そもそも、その程度のために、『リンクポッド』に接続して、仮想空間に入り込む必要があるのかね?」
「パーソナルユースの『リンクポッド』が家庭に普及するのも、時間の問題です。そうなってしまったら、もう誰も、わざわざ劇場まで出かけて行くことなど、なくなってしまいます。ですからこそ、今から対策が必要なんですよ。」
「だとしたら、どれだけ素晴らしいアイデアがあったとしても、それは家庭用『リンクポッド』が普及してしまうまでの、一時凌ぎに過ぎに終わってしまうのではないのかね?」
「そんなことはありません。そうなる前に、観客に『劇場におけるリンクポッド体験』が、どんなに素晴らしいものであるかを、体験してもらうんです。普及後は、『仮想空間内で劇場を運用』すれば良いんですよ。」
「・・・言ってることが、良く分からんのだが?」
「現実世界での劇場という『ハコモノ』に拘る必要はありません。要は、『劇場というコンセプト』が魅力的であれば、観客は喜んでそれに金を払うんです。」
「当然、その仮想空間内での『劇場というコンセプト』について、何か考えがあるんだろうな?」
「はい。劇場のシートを全て『リンクポッド』にします。」


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