まあどうにかなるさ

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ユトリロ

2013-06-23 14:21:00 | 芸術

大学のとき、ユトリロが好きな友人がいた。部屋に遊びに行ったとき、頼みもしないのに画集を貸してくれた。
モーリス・ユトリロ、印象派の風景画家である。今年生誕130周年を迎えるという。
彼はモデルのスザンヌ・ヴァラドンの私生児として生まれる。
少年時代アルコール依存症の治療のために絵を始め、たちまち才能を開花させる。
油彩やグワッシュで教会や小路など身の回りのパリの街並みを多く描き、彼が住んでいたモンマルトルは繰り返し描かれている。人物はあくまでも風景の一部として描かれており、彼にとっては人よりパリの街並みの方が優しく感じたのかもしれない。
パースペクティブを生かした街の奥行き感が丁寧に描かれているが、ハイビジョン画質とは対局的な情報量が少なめの絵である。良質なデッサン画といった感じだ。
学生の時に見たユトリロの画集は、正直あまりいいとは思わなかった。
でも、不思議と記憶に残る絵である。もしかしたら人間の記憶にはちょうどいいくらいの情報量なのかもしれない。
日本橋高島屋でユトリロ展をやっていた。
内外のコレクションから70余点が展 示されているなかなか見応えのある展示会である。
1点を除き全て風景画。季節が違う同じ場所を描いた作品もある。ほぼ100年前に描かれた街並みが今もほぼ変わらず残っている場所もあり、写真が横に飾られていた。
割合年配の客で会場はかなりの混雑だ。中にはフランス人夫婦も。
ほぼ年代順に展示されてあり、余り色鮮やかでない初期の作品から段々鮮やかな作風に変わっていく様子がよくわかる。
彼の人生は酒におぼれ、喧嘩の毎日、母に振り向いて貰えない、そして裏切りの繰り返し…
決して幸せとは言えないかもしれないが、好きな酒を飲み、好きな絵を描き、好きな街に囲まれた人生、本人は案外幸せだと思っていたのかもしれない。
後半の色鮮やかな作風を見ると、ふと、そんなことを考えてしまった。