『ラストイニング』は、原作神尾龍、作画は『奈緒子』の中原裕による高校野球を描いた漫画。『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載中。
現在は39巻まで単行本が出ている。
高校野球漫画といっても、これまでのものとは一線を画す。
主人公は高校生ではなく、監督。しかも高校野球にふさわしくないダーティーな監督であるところが興味深い。
インチキセールスマンの鳩ヶ谷圭輔は勤めている会社が薬事法違反及び詐欺容疑で取り調べを受ける。鳩ヶ谷は社長に罪を擦り付けられ、逮捕されて身柄を拘束される。
保釈金を払ってくれたのは鳩ヶ谷がかつて野球部の時、その顧問をしていた現彩珠学院高校の校長、狭山であった。
狭山は保釈金の引換条件として、鳩ヶ谷に野球部の監督を依頼する。
鳩ヶ谷は彩学の捕手として13年前、甲子園の県予選準々決勝に出場した。そのとき、鳩ヶ谷の高校生らしからぬ行為に反感を持った審判の意図的な誤審に腹を立て思い切り殴りつけてしまった過去があった。
彩学は経営難に陥っており、野球部は廃部が決定されていた。野球部は甲子園、県予選の初戦で敗退するような弱小チームである。だが、校長の狭山は甲子園出場を条件に廃部の延期を学校側に約束させる。残された猶予期間はわずか1年。
狭山はキャプテンとして彩学を準々決勝まで導いた鳩ヶ谷の手腕を高く評価しており、たった1年という短い期間で甲子園出場という困難な実現を鳩ヶ谷に託す。
鳩ヶ谷は、高校中退後、高校野球賭博のハンデ師に弟子入りし、そこで野球理論を身に着けていた。もちろん、そんなダーティーな監督が高校野球界に認められるはずはない。
だが、鳩ヶ谷はインチキセールスマン時代に身に着けた話術により巧みに危機を切り抜け、監督として生徒や父兄、OB達を信頼させていく。
鳩ヶ谷は高校野球規約の盲点を突いた補強や型破りだが理にかなった練習方法を実践し、弱小チームを最強チームへと育て上げる。
やがて甲子園の県予選が始まり、次々と強豪校が彩学の前に立ちはだかる。
一度でも負ければ甲子園には出場できない。それは即、野球部の廃止を意味する。
果たして鳩ヶ谷が作り上げた彩学野球部は甲子園出場を果たせるのだろうか…
緻密な野球理論や、アンチヒーロー的なダーティー監督、彩学の経営難を巡る描写など、これまでの高校野球漫画の常識を超えた秀逸な作品である。
この漫画を読み始めるとあまりの面白さに本の前から離れられなくなる。
お奨めです!