9月9日号の『週刊ポスト』にエスカレーターの片側空けに関する2ページほどの記事が掲載されていた。
エスカレーターに乗る際、急ぐ人のために片側を空ける習慣はいまやすっかり定着している。この習慣は第二次大戦中のロンドンの地下鉄で混雑緩和のために考案され、右側に立ち、左側を空ける習慣が定着したという。
「左側明け」は欧米各国からオーストラリア、中国、韓国など世界中に広まり、今や世界標準の習慣になっている。海外ではほとんどの国が「右立ち・左空け」なのだ。
日本の場合大阪、神戸など近畿圏では「右立ち・左空け」東京、札幌、福岡などの地域では「左立ち・右明け」である。これは英国式を取り入れた大阪と自動車の右側追い越し車線に倣った東京で違いが出たとされている。
しかし、名古屋だけは「両側立ち・歩かない」という独自のルールが根付いているのだ。
わが道を行く名古屋の一見マナーをわきまえないような「名古屋ルール」が実は正しいと証明される論文が今年5月イギリスで発表された。
昨年11月ロンドンの交通局がホルボーン駅で3週間にわたって右側に立ち、左側を歩く人のために空ける「片側空け」と左右どちらにも人が立つ「両側立ち」のエスカレーターの比較実験を行った。
その結果、ピーク時では「片側空け」のエスカレーターが1時間に2500人の乗降客を運んだのに対し、「両側立ち」のエスカレーターは1時間に3250人と3割も多く乗降客を運んだのだ。
論文ではその理由を『長いエスカレーターを歩いて上がろうとする人はあまりいないため、エスカレーターの下で右側に立つために待機する人が増加する』と分析している。
「片側空け」発祥のイギリスで「名古屋ルール」の方が効率的だと証明されたのである。
また、エスカレーターなどの昇降機をメーカーで構成される日本エレベーター協会の事務局が「片側空け」の危険性について指摘している。
「階段と違ってエスカレーターは横幅が狭く、段差が高いなど、そもそも歩かないことを前提に設計されている。立ち止まって手すりにつかまるのが正しい乗り方です。手が不自由で特定の側を空けるのが困難な人もいる」
東京消防庁では11年からの3年間でエスカレーター関連の事故で3865人が救急搬送されている。すべてが「片側空け」が原因ではないだろうが、われわれの予想以上に危険な場所であると言える。
7月19日から、全国のJR、私鉄、空港などではエスカレーターでは「両側に立ち、歩かない」というキャンペーンを展開している。
今後独自だった「名古屋ルール」が世界のスタンダードになるかもしれない。