シリーズ最新作はホラー仕立ての前半部分が印象的。春日部の街の住民が、次々と“そっくりさん”に乗っ取られてゆくというモチーフは、言うまでもなく「SF/ボディ・スナッチャー」のパロディである。しかも、子供向けの番組でこれをやられると、その違和感も相まってけっこう怖かったりする。
乗っ取られた人間は性格が一変し、しかもサンバを聴くと身体が勝手に動き出すという設定も不気味。特にしんのすけの友人・風間くんの母親がいつの間にか別人になっていて、何気ない日常の中で一瞬おぞましい正体を見せるくだりは、小さい子が見たら引きつけを起こすほどのインパクトがある(そして母親が乗っ取られたことを信じたくない風間くんの純情も泣かせる)。
野原ひろしの同僚をはじめ、満員電車に乗り合わせた人間がすべて“そっくりさん”になっていたというシークエンスの衝撃度も相当なものだ。
しかし、後半は「クレしん」らしい脱力的おちゃらけ劇になるのは安心できるというか、拍子抜けというか、まあ“これでいいんじゃないの”と自分に言い聞かせるしかない展開になる(爆)。
前作「3分ポッキリ大進撃」に続いての登板になるムトウユージ監督は相変わらずアクション場面の作り方がヘタで、活劇場面は隙間風が吹きまくっているが、子供が見るにはちょうど良いのかもしれない。というか、本来子供向けのシリーズに「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」とか「アッパレ!戦国大合戦」とか「夕陽のカスカベボーイズ」みたいな、恐ろしくレベルが高く大人の鑑賞にも十分耐えうる作品が存在したこと自体が“イレギュラー”なことかもしれない(まあ、原作は青年マンガ誌に連載されているし、元々厳密な意味での「子供向け」とは言えないのかもしれないが)。今後この水準でシリーズを続けるということになれば、わざわざ劇場で観る必要もなくなるだろう。
キャラクター面ではいつもの野原一家やカスカベ防衛隊の面々に加え、事件を追うジャクリーン・フィニー女性捜査官の造型がケッ作。ジャージーの胸のあたりに“ツンデレ”と書いてあるあたりは大笑いだ。彼女の属する組織の名前が“SRI”(注)というのも嬉しい。
ただし“ぶりぶりざえもん”の活躍の場が今回なかったことは実に残念。次作に期待しよう(とは言っても、観るかどうかは分からないけど ^^;)。
注)SRI・・・・往年の特撮ドラマ「怪奇大作戦」(円谷プロ製作)に出てくる怪奇現象を解決するエージェント集団の名前。そういえば、この映画の前半は「怪奇大作戦」に出てきてもおかしくない展開ではある(笑)。