元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ケープ・フィアー」

2006-05-19 06:55:15 | 映画の感想(か行)
 (原題:Cape Fear)91年作品。自分を14年も監獄に入れた張本人である弁護士一家に出所後、執拗な復讐を仕掛ける狂気の男と弁護士との血みどろの死闘。ジョン・D・マクドナルドの原作をJ・リー・トンプソンが映画化した「恐怖の岬」(62年)の再映画化である。

 とにかく主人公マックスを演じるロバート・デ・ニーロの血も涙もない殺人鬼ぶりに圧倒される。冒頭近くで、刑務所の中で筋力トレーニングに励むマックスの、入墨を施した身体、ザンバラの髪、壁に貼られたスターリンの肖像などから、常人ではない雰囲気が漂う。そして逮捕されたときには文盲だったが、今では哲学書や法律書まで読みこなすインテリに成長している。残忍さと知性を兼ね備えた始末の悪い変質者。加えて警備厳重な弁護士の屋敷に易々と忍び込む神出鬼没さも見せる。

 デ・ニーロはこの役を、「羊たちの沈黙」などのレクター博士みたいな現実離れした犯罪者ではなく、ひょっとして実在するのではないかと思い込ませる生々しいキャラクターに仕立てている。この頃の役にのめり込むデ・ニーロの演技では、「レナードの朝」よりも「レイジング・ブル」(80年)の主人公に通じるこの役を私は評価したい。

 この映画は見事なまでに感情移入できる登場人物が出てこない。主人公マックスはもちろん、ニック・ノルティ扮する弁護士は仕事に私情を持ち込む信用できないタイプで、保身的で弱気なくせに、手だけは早いというイヤな奴だ。ジェシカ・ラングの妻はすぐヒステリーを起こし、ジュリエット・ルイス演じる娘は露出狂のアバズレだ。しかも、事件が終わっても一家が和解するわけでもない。後味の悪さが残るだけだ。

 しかし、それでもなおこの映画は面白い。監督のマーティン・スコセッシは「タクシー・ドライバー」(76年)、「グッドフェローズ」(90年)などでデ・ニーロとコンビを組んでいるが、今回はスピルバーグが主催するアンブリン・プロの製作ということもあって、自らの持てる映画テクニックを駆使した良質の娯楽作品となっている。最初は些細なイヤガラセから始まって、ジワジワと弁護士一家を追いつめ、最後には襲いかかる、という「ジョーズ」のサメみたいなマックスの扱い方はスリラー映画の王道だ。

 不安気に動き回るカメラ、効果的な小道具の使い方、随所に見られるエロチックさ(特に、マックスが学園の講堂で娘の唇を奪うシーンのイヤラシさは、そこらへんのアダルトビデオが束になってもかなわない)、笑えないブラックユーモア、ラストのスペクタクル。見所満載の内容に感心しながら、この手口はヒッチコックに近いなーと思っていると、案の定、「めまい」のスタッフが3人入っている。今まで気が付かなかったが(←気付けよ! ^^;)、スコセッシ監督も相当のヒッチコック信奉者だということがわかり、興味深かった。
コメント
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