元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

絲山秋子「沖で待つ」

2006-05-15 06:47:11 | 読書感想文
 御存知、第134回の芥川賞受賞作。住宅設備機器メーカーに入社したヒロインと、同期入社で今は亡き同僚の“太っちゃん”との10数年に及ぶ触れ合いを描く。

 作品そのものに対する評価については、文藝春秋誌に載っていた審査委員の選評や各サイトにアップされた書評とほとんど一緒なので、別にここで強調するする必要はない。とにかく、前に感想書いた山本文緒の「プラナリア」なんていう、無様な女どもが湧いて出てくるトホホな小説を読んだあとだけに、本書で扱われている実に真っ当で(良い意味での)健全な生き方をしているヒロインと、同僚との微笑ましい関係は一服の清涼剤のようであった。

 恋人でも単なる友人でもない、同じ釜の飯を食ったような連帯感を共有し合う二人の関係性に、新入社員だった頃を思い出して胸が熱くなり、ラストには切ない感動を覚えた。誰が読んでも良さがわかる、オススメの一冊と言える。

 個人的にウケたのは、主人公が最初配属されたのが福岡支社だったことにより、あちこちに“御当地ネタ”が出てくること。福岡勤務を命じられたヒロインが“男尊女卑の九州男児にイジメられるんだわ!”と嘆くものの、いざ九州に住んでみるとコロッとその地が好きになってしまうあたりは大笑い。“天神コアの前で立ちすくした”とか“国体道路のけやき並木は洒落ている”とか“いつも長浜ラーメンの替え玉を頼んでいた太っちゃんは、(文字通り)みるみるうちに太ってしまった”とかいうフレーズも読んでいてニコニコである。

 何より“九州はライバル大手の本拠地だ”という前振りから“(納品用の)和式便器を片手に天神の街を走った”なんていうくだりで、主人公の勤め先の企業名まで読んでいてスグ分かるというあたりは御愛敬の限りだ(爆)。この小説により少しでも福岡の良さが広範囲にアピールされることになれば、同じ福岡県民として喜ばしい。
コメント
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