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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カミュなんて知らない」

2006-05-10 06:47:36 | 映画の感想(か行)

 柳町光男監督の「旅するパオジャンフー」(95年)以来10年ぶりの新作だという。この日本映画界有数の力業の持ち主に10年間も仕事をさせなかったとは、プロデューサー連中はいったい何をやっていたのやら。

 さて、本作は同監督の今までの重厚なフィルモグラフィとは打って変わって、大学の客員教授として数年間映画理論の講義を受け持った経験を生かした“キャンパスもの”の体裁を取っている。さらに、映画ファンなら誰しもニヤリとする名画のモチーフや手法のパロディが散りばめられ、随分と“軽い”印象をも受ける。

 しかし、これが終盤近くからのヘヴィな展開の伏線になっているのだから、なかなか侮れない。

 大学生達が、実際の事件をもとにして一本の映画を作り始める。その事件とは2000年5月に起きた“愛知県主婦殺人事件”だ。犯人の高校生は“人を殺す経験をしてみたかった”と嘯いて世間を騒がせたものだが、そのバックにある(と思われる)コミュニケーションの不在を、脳天気に“映画ごっこ”に興じる学生達の、表向きとは裏腹な冷え冷えとした内面の実相に見出してゆく構図は、かなり面白い。

 確かに“この犯人の気持ちも分かるような気がする”なんて安易に言うのは愚かである。しかし“我々と犯人とは全然接点がない。無関係の事象である”と切って捨てるのも、やはり早計なのだ。冒頭近くに、メンバーの一人である女子学生が“就職活動が上手くいかない”と嘆く場面があるが、ハッキリ言って、こんなコミュニケーションに及び腰な学生生活を送っている者を迎え入れる職場なんて、ありはしないのだ。

 自己完結でしかない無為な日常の延長線上に、あるいはその枝葉の末端に、ひょっとして人の命を何とも思わない暴挙が結実することもある・・・・という認識は、突然首筋に冷たいナイフを突きつけられたような衝撃を呼び込む。それが最大限に表現されているのが終わり近くの展開で、何の前振りもなくメタ映画的な手法が唐突に取られるあたりもかなり効果的である。

 キャスト面では教授役の本田博太郎の幾分悪ノリ的な怪演には苦笑したが、主人公(柏原収史)の“恋人”を演じる吉川ひなのが圧倒的(まあ、これはたぶん“地のまんま”だろうけど ^^;)。あと、ヒロイン役の前田愛が季節は夏だというのにいつもブーツをはいていたのが気になって仕方がなかった(笑)。水虫になっても知らないぞ(爆)。
コメント
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