95年作品。パオジャンフーというのは、歌や踊りの大道芸を見せながら薬を売って旅をする台湾の行商人たちのことで、まあ、「男はつらいよ」での寅次郎の職業と似たようなものだ。家族で経営する実在のパオジャンフーの一座を中心に、彼らの生き方を丹念に追ったドキュメンタリー映画で、監督は「十九歳の地図」「火まつり」などの柳町光男。
風俗的に面白い題材で、特にこの職にたずさわる人々が少なくなく、各地の駅前の広場などを彼らが大挙占拠してそれぞれ芸を披露するシーンなどは興味深い。そしてもっと驚いたのは、大道芸とはいっても多くが縁日の出し物などと大差なく、実に素人臭い低レベルなものであること。火吹きの芸とか蛇使いの芸など、まあ少しはびっくりするけど、それよりやっている連中への憐憫の情(?)で金をめぐんでやる気になるようなたぐいのものだ。町内会のカラオケショーと同程度の歌謡ショーを臆面もなくやるところなど、観ているこちらが恥ずかしくなってしまう(^_^;)。
主人公一家は、失礼を承知で言うなら、バカぞろいである。特に長男とそのガールフレンドにいたっては筋金入りのバカだ。でもそれで悪いというわけじゃない。つたない芸をやりながら皆の“お恵み”でやっと生きている身分でありながら“この仕事を継げば、この時代、少なくとも「社長」でいられる”というセリフを本気で言うシーンは、ここまで認識がないのは、かえって幸せではないかとマジで感心してしまうほどだ。
過去の柳町監督の作品の主人公たちは、自覚のあるなしにかかわらず、全員がダメ人間である。わかっちゃいるのに自ら進んで貧乏クジを引いてしまう頭の悪さ。何をやっても裏目に出る要領の悪さ。あがけばあがくほど落ち込んでいく運の悪さ。ついには破滅するか、開き直って恥多き人生を歩むしかない登場人物たち。柳町はそれを容赦なく、かつ共感をこめて描き、いわば心理的なピカレスク・ロマン(?)とでも言うべき境地に達していたが、ドキュメンタリーであるこの作品にもそれが見事に共通している。
座長の頭の悪さに愛想をつかして一座を辞めた口上師が登場して、あれこれ“批評”するが、そんな小利口な奴より、毒蛇ショーを長年やったために身体中ガタガタになって、それでも毎夜コブラに腕を咬ませて観衆の度肝を抜く快感に酔いしれる蛇使いのおっさんの大いなるバカぶりに共感してしまう。
少しでも自分のバカさ加減を自覚している観客(私もそうだ)にとっては、単なる風習の紹介ではなく、内面をえぐられるような映像の喚起力を覚える快作だと思う。
パオジャンフーたちは今日もバカぶりを振りまきながら旅をするのだろう。その後ろ姿にエールを送りたい。
風俗的に面白い題材で、特にこの職にたずさわる人々が少なくなく、各地の駅前の広場などを彼らが大挙占拠してそれぞれ芸を披露するシーンなどは興味深い。そしてもっと驚いたのは、大道芸とはいっても多くが縁日の出し物などと大差なく、実に素人臭い低レベルなものであること。火吹きの芸とか蛇使いの芸など、まあ少しはびっくりするけど、それよりやっている連中への憐憫の情(?)で金をめぐんでやる気になるようなたぐいのものだ。町内会のカラオケショーと同程度の歌謡ショーを臆面もなくやるところなど、観ているこちらが恥ずかしくなってしまう(^_^;)。
主人公一家は、失礼を承知で言うなら、バカぞろいである。特に長男とそのガールフレンドにいたっては筋金入りのバカだ。でもそれで悪いというわけじゃない。つたない芸をやりながら皆の“お恵み”でやっと生きている身分でありながら“この仕事を継げば、この時代、少なくとも「社長」でいられる”というセリフを本気で言うシーンは、ここまで認識がないのは、かえって幸せではないかとマジで感心してしまうほどだ。
過去の柳町監督の作品の主人公たちは、自覚のあるなしにかかわらず、全員がダメ人間である。わかっちゃいるのに自ら進んで貧乏クジを引いてしまう頭の悪さ。何をやっても裏目に出る要領の悪さ。あがけばあがくほど落ち込んでいく運の悪さ。ついには破滅するか、開き直って恥多き人生を歩むしかない登場人物たち。柳町はそれを容赦なく、かつ共感をこめて描き、いわば心理的なピカレスク・ロマン(?)とでも言うべき境地に達していたが、ドキュメンタリーであるこの作品にもそれが見事に共通している。
座長の頭の悪さに愛想をつかして一座を辞めた口上師が登場して、あれこれ“批評”するが、そんな小利口な奴より、毒蛇ショーを長年やったために身体中ガタガタになって、それでも毎夜コブラに腕を咬ませて観衆の度肝を抜く快感に酔いしれる蛇使いのおっさんの大いなるバカぶりに共感してしまう。
少しでも自分のバカさ加減を自覚している観客(私もそうだ)にとっては、単なる風習の紹介ではなく、内面をえぐられるような映像の喚起力を覚える快作だと思う。
パオジャンフーたちは今日もバカぶりを振りまきながら旅をするのだろう。その後ろ姿にエールを送りたい。

