(原題:Syriana )ジョージ・クルーニーやマット・デイモンが出ているお気軽サスペンス映画だと思って劇場に足を運んだ向きも少なくないようで、私の周りに座っていた若い観客は終映後に一様に絶句しているか首を捻っていた(笑)。
これが初監督になるスティーブ・ギャガンは「トラフィック」の脚本家である。あの映画のように本作も複数のストーリーを同時進行させ、膨大な情報とともに目まぐるしく場面をチェンジする作劇を採用しているが、石油利権をめぐる複雑怪奇な陰謀を描いたこの映画の方が観る側にとってのハードルは高い。少しでも画面から目を離すと置いて行かれるし、それ以前に予備知識がないと登場人物達の行動目的さえ分からない。何しろいきなり“84年のベイルートのあの事件は・・・・”なんてセリフが説明なしに出てくるぐらいなのだから。
しかし本作が国際情勢の紹介に終始した教条的なだけの映画かというと、さにあらず。たぶんこの作品で扱っているネタを完全に理解している観客はほとんどいないだろうが、それでもこの“何だか分からない国際的覇権争い”を文字通り“正体不明の怪物”として位置づけていること、つまりはホラー映画のモンスターのように見立てて、登場人物がそれと対峙したりそれから逃げ回ったりする様子をサスペンスフルに描くという、一種の娯楽映画として捉えると、これはこれで大変面白いのだ。
同じようなネタを扱っていながら、結局ネタ自体に負けていた「華氏911」とは大違いである。

エピソードの中で印象に残ったのは、やはり普通の青年がテロリストとして仕立て上げられる過程だろう。最初はアラブ人のための互助会組織みたいだったイスラム神学校が、やがて不気味な正体をあらわすくだりはかなり怖い。カルトの真実の一面を垣間見る思いである。