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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「四月物語」

2006-05-16 06:53:19 | 映画の感想(さ行)
 98年作品。北海道・留辺蕊から東京の大学に通うため上京した楡野卯月(松たか子)の前にはアパートの住人やクラスの仲間、サークルの先輩など、次々と新しい人々が現れる。しかし、わざわざ東京暮らしを選んだ彼女の真意は“高校時代に好きだった先輩が同じ大学にいるから”という何とも下世話(?)なものだったのだが・・・・。岩井俊二監督による1時間7分の中編。

 期待していなかったが、肌触りのいい佳作に仕上がっている。何よりも、ボロの出ないうちにサッと切り上げたのが正解。そしてそれにふさわしい題材を選んでいることだ。そのテーマとは、“四月”という独特の“気分”それ自体である。

 冒頭近くの、ドカ雪のごとく降り積もる桜吹雪のシーンは通常“ワザとらしい”と見られるが、作品自体が“気分”の映画であることを考えると納得できる。新しい生活を始める四月、初めての大学生活、初めて会う人々etc.不安と期待が入り交じったヒロインの甘酸っぱい心情の描写は、その後の大学の教室での自己紹介のシーンでピークを迎える。オフに構えたカメラとセリフの相乗効果により、まるで観ている自分が映画の中にいるような臨場感を醸し出す。私も、かなり昔大学に入りたての頃を思い出し、ノスタルジックな気分に浸ってしまった。

 思いを寄せる先輩(田辺誠一)とのからみも巧い。書店でバイトをしている彼の元へ客を装って何度も足を運ぶが、相手はなかなか気付いてくれない。その焦燥感の抑制された描写が、ラストの展開につながっていく(このシーンがどしゃぶりの雨であることも意表を突いて面白い)。

 一見偏屈な隣人(藤井かほり)や、主人公をフライ・フィッシング部に誘うヘンな同級生(瑠美)の扱いも面白く、途中挿入される劇中劇「生きていた信長」のおちゃらけぶりも楽しい。クールな色調の画面も印象的だ。

 映画はヒロインと先輩の恋の顛末は描かない。勉学や友人関係で悩みも出てくるであろう学生生活のその後も描かない。すべては“四月”という“始まりの季節”に収斂された“雰囲気”の描出がこの映画の役目であり、その意味での出来は申し分ない。

 ただ、松たか子に“田舎から出てきた純情娘”を演じさせるのは少し無理があるように感じる(爆)。でも、冒頭の“松本幸四郎一家勢ぞろい”のシーンには笑った。
コメント
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