94年作品。主人公の孤独な老人・元木邦晴(浜村純)は、遠い昔に別れた兄・昌康の思い出の品である押繪を探している。彼の脳裏に浮かぶのは、裕福な家庭に育った少年時代の不思議な体験である。浅草の凌雲閣から双眼鏡で下界を見おろしてばかりいた兄は、いつかこの目で蜃気楼を見たいと思っていた。親の決めた縁談を嫌った兄の、どこか浮世離れした性格は次第にエスカレートし、縁日に見つけたからくり小屋の“八百屋お七”の押繪に心を奪われ、永遠に押繪の中で生きたいと願うようになる。そして・・・・。
せち辛い現在を疲れた身体を引きずって生きる主人公と、少年時代の回想シーンを平行させて描く手法はそう目新しいものではないが、この二つがやがてシンクロし、非現実の世界になだれ込んでいくところから俄然面白くなる。美しい兄嫁(鷲尾いさ子)と蜃気楼を求めて新潟までの旅に出る少年時代の主人公。途中何度も老人である現在の主人公と出会い、過去と現在の登場人物が入り乱れるようになる。
主人公は極度なロマンチストだった兄と別れたあと、兄と正反対の生臭い人生を歩むようになる。戦時中には特高警察の幹部になり、戦後追放され、誰からも相手にされず死を迎えるだけの身になった。街で特高時代にひどい目に合わせた老人と出会い、さんざんなじられても、ボケてしまって何がなんだかわからない。そんな彼が過去を回想しながら自らの人生と和解していく。
どこかジャコ・ヴァン・ドルマル監督の「トト・ザ・ヒーロー」を思い出させるが、あれほどの高みは感じられないながらも、内面世界の“旅”を描いた作者の野心的試みは成功しているといってよい。
カメラワークが秀逸で、寒色系を多用した透き通るような映像が魅力的だ。撮影は映画の仕事は初めてという町田博。かなりの才能を感じさせる。言い忘れたが原作は江戸川乱歩である。
それにしても、この映画が川島透監督の作品であることが信じられない。デビュー作「竜二」(83年)は別格として、あとは子供だましのお気楽ムービーばかり連発し、見放されていた彼だが、ここではそれまでの作風とはかけ離れた独自の映像世界を展開し、驚嘆するしかない。人間、変われば変わるものだ。
せち辛い現在を疲れた身体を引きずって生きる主人公と、少年時代の回想シーンを平行させて描く手法はそう目新しいものではないが、この二つがやがてシンクロし、非現実の世界になだれ込んでいくところから俄然面白くなる。美しい兄嫁(鷲尾いさ子)と蜃気楼を求めて新潟までの旅に出る少年時代の主人公。途中何度も老人である現在の主人公と出会い、過去と現在の登場人物が入り乱れるようになる。
主人公は極度なロマンチストだった兄と別れたあと、兄と正反対の生臭い人生を歩むようになる。戦時中には特高警察の幹部になり、戦後追放され、誰からも相手にされず死を迎えるだけの身になった。街で特高時代にひどい目に合わせた老人と出会い、さんざんなじられても、ボケてしまって何がなんだかわからない。そんな彼が過去を回想しながら自らの人生と和解していく。
どこかジャコ・ヴァン・ドルマル監督の「トト・ザ・ヒーロー」を思い出させるが、あれほどの高みは感じられないながらも、内面世界の“旅”を描いた作者の野心的試みは成功しているといってよい。
カメラワークが秀逸で、寒色系を多用した透き通るような映像が魅力的だ。撮影は映画の仕事は初めてという町田博。かなりの才能を感じさせる。言い忘れたが原作は江戸川乱歩である。
それにしても、この映画が川島透監督の作品であることが信じられない。デビュー作「竜二」(83年)は別格として、あとは子供だましのお気楽ムービーばかり連発し、見放されていた彼だが、ここではそれまでの作風とはかけ離れた独自の映像世界を展開し、驚嘆するしかない。人間、変われば変わるものだ。


