昨日のつづき。
じつは化け猫の話が好きで。
これは九州のどこかの民話。
ある男が、山の中で道に迷い、日も暮れようというころ、
一軒のお屋敷にたどりつきました。
宿を乞うたところ、美しい女にこころよく迎え入れられ、
「さあどうぞ、お風呂もわいておりますから」。
ところがそこは化け猫屋敷。
お風呂に入った人はみんな猫になってしまうのです。
男はあやういところで逃げ出しますが、
猫女があとから追いかけてきて、
「こらー、猫になれー」とひしゃくでお湯をかける。
なんとか逃げ切った男、あとでふと気がつくと、
お湯のかかった耳と腕に、ちょこっと猫の毛がはえていて、
それは一生とれませんでした。
(…どうして猫になるのが嫌なんだ?
わたしだったら、喜んでなっちゃうのに)
子どものころは、なにより怖かったです。化け猫と狼。
ポーの『黒猫』は読んだこともないのに、どこかで
ちらっと話に聞いて、もうそれだけで怖いの。
狼は、シートン動物記ですね。
本を貸してくれた子をひそかにうらんだくらい怖かった。
(そのくせ、熱心に繰り返し読みました…)
昔は、町なかをふらふらしている野良犬がけっこういて、
そういうの、みんな怖かったな。
「走ると追いかけてくるから走っちゃ駄目」とか言われて。
人食い鮫の映画をTVで見たあと、お風呂に入ったら、
湯船に足がつけられないの。鮫が出そうで。
それは20年くらい前の話。
さすがにこの年になりますと怖いモノはぐっと少なくなりました。
猫なんて、飼ってみれば、どれもこれも怠け者でおばかさんな
小動物にすぎないし、狼だってそうかもしれない。
いまは、よその子にうっかり話しかけたりすると
「不審者だ!」と言われるそうだから、べつに世の中全体が
昔より安全になったというわけではないでしょう。
だけど、怖いものは人間だけ、っていうのもかえって怖いので。
どこかに、ないかな、化け猫屋敷。