故玩館の蔵書(というほどの物でもないですが(^^;)には、いくつかのジャンルがあります。
私が気に入っているのは、昔のトンデモ本の類です。
なかでも、日常の色々な知恵、技術、言い伝え、まじないなど、生活笑百智とでもいうべき本が面白いです。
どさっとあるので、適宜、紹介していきます。
江戸時代には、様々な生活トリビアが集められ、出版もされています。
今回は、江戸時代、肉筆『萬法秘術集』です。
15.4x23.2㎝、27丁。嘉永2年。
この題名の版本は無いようです。
いくつかの生活の知恵を巷から集めて書き記した物だと思います。
このような書物も写本というのでしょうか?
何回かに分けて、ブログで内容を紹介していきます。
文字石ニ入書様
墨に猿の膽をすりまぜて石に文字を書ば
二三分ばかりしみ入るなり
石に文字を書き入れる方法
墨に猿の膽をすりまぜて、石に文字を書けば
2,3分ほど浸み入る。
分:長さの単位。約3mm。
紙に判をおして数枚通る法
印肉の中へ亀の尿りを入て押ば一度ニ拾枚位通る事奇妙なり
数枚の紙に一度に判を押す方法
印肉の中へ、亀の尿を入れて押せば、一度に
10枚位紙を貫いて押せる事、不思議だ。
高地に池を堀水なきを出す法
井戸の中へ木綿を入焼てふたをして置バ
自から水生する事妙なり
高い所に掘った池に、水が無くても出す方法
井戸の中へ木綿を入れ、焼いて蓋をしておけば、
自然に水が出てくる事、不思議だ。
暑気の時食物の臭ぬ法
蕃椒(とうからし)を食物の上にのせて置バ夏ニくさ
らぬ事妙なり
暑い時、食べ物が臭くならない方法
蕃椒(とうからし)を食べ物の上にのせておけば、夏に
腐らない事、不思議だ。
焼物われたるをあとなく次法
汞粉(はらや)を小麦の粉にくわし玉子の白みを
入てねりまぜてつぐ也
割れた焼物をあとかたなく継ぐ方法
汞粉(はらや)を小麦粉に加え、卵の白みを
入れて練り混ぜ、継ぐ。
汞粉(はらや):軽粉、伊勢白粉(いせおしろい)。水銀に明礬を加えて作った白粉。高級化粧品。明治初期に禁止。
青梅を枝ともに貯へる法
枝折を葉ともにわらにてまき別に
梅をむきて水につけ酢を出して其
酢壱升ニ寒の水壱升入合て其中に
さし置バいろかわらす
青梅を枝ともに蓄える方法
折った枝を葉と一緒に、藁で巻き、別に
梅を剥いて水に浸け、酢を出す。
その酢一升に寒の水一升を入れ合わせて、
その中に入れておけば、色が変わらない。
水に消さる玉火の法
樟脳 小半 焔硝 五分 硫黄 三匁
右三品ふのりにてねり丸メてかわかし
串にさして火を燈し流せバ十町斗り
きへすして流るゝ事妙なり
水で消えない玉火の方法
樟脳 小半 焔硝 5分 硫黄 3匁
この3品をふのりで練って、丸めて乾かし、
串にさし、火をつけて流せば、10町ほど
消えずに流れる事、不思議だ。
小半:重さの単位、一斤の四分の一。四半斤。約150g。
分:粉類に多く用いられる重さの単位。約0.375g。
匁:重さの単位、約3.75g。10分。
一寸八里の松明の法
くのきを百日程池水に付て置後にこまかに
たたき松明とすれバ一寸にて八里行るゝなり
但木の廻り四寸斗り
一寸八里の松明の方法
クヌギの木を100日ほど池の水に浸けておき、
その後、叩いて細かくし、松明にすれば、1寸の長さで
八里も行くことができる。
但し、周囲が4寸ほどの木を用いること。
珍しいですね。
書いてある中身も珍しく、面白いですね。
数枚の紙に一度に判を押す方法など、試してみたくなりますね。
意味不明なのも多いですが、トライしてみようかなというものも結構あります。
ただ、水銀を使って焼物を継ぐのはチョット。また、亀の尿は何とかなるとしても、猿のキモはどうやったら手に入るのでしょうか(^^;
こう言うのが、私は好きなんだなあ?と自覚した所です。
今は、伝わっていない秘伝と言う事で、遅生様は秘術多押印家元を名乗れるのでは?
次はどんな秘伝がとワクワクしています。
拙句
花ばかり見上げる下の草満開
(桜の花見で上ばかり見ていますが、座った草も実は満開。春爛漫ですね)
この種の品を最初に目にしたときは、「何だこりゃ」と思ったのですが、その後、類書や写本をいくつか入手し、江戸時代の生活の知恵に興味をもつようになりました。奇想天外なのも多く、面白いです。
最後のクヌギの松明ですが、水に浸けるのは、木を柔らかくして裁断しやすくするためでしょうか?
それと、クヌギは元々、他の木々よりも燃えやすい?
何れにしても、先人の知恵、活かさぬ手はないです!
書き手のクセが掴めるとわりと進みますが、それまでに何か月もかかかります。
書かれている事柄は半信半疑です。松明の木を水に浸けておくとなぜ長持ちするのか、よくわかりません(^^;