今回の品は、そのものズバリのタイトルがついた本です。B6判、400頁の本で、このようにビッグなタイトルがついていることに驚きます。しかも、通常の大きさの本であり、これまで紹介してきた鑑定本に較べるとずいぶん小型です。
野間清六、谷信一『美術鑑定事典』東京堂出版、平成4年。
【野間清六】1902-1966、美術史家。東京国立博物館学芸部長、女子美大教授。
【谷信一】1905-1991、美術史家。東京芸術大学教授、神戸大学教授。
本書で扱っているジャンルは、絵画、書跡、彫刻、陶器、金工、刀剣・刀装具、漆工、染織です。また、科学的鑑定や美術品の保存についても書かれています。さらに、落印や画家、書家、工匠の系図などが付録として載っています。
「鑑定事典」と銘うってある理由は、多数の中項目によって分類構成されているからです。
内容が非常に広範囲なので、美術品についてほり下げた記述はみられません。しかし、刀剣の見方など、普段、あまりなじみのない事柄について知ることができてます。また、この手の本としては珍しく、わずか数頁ではありますが、日本の仮面についての記述があります。野間清六が、『日本仮面史』などの著作がある仮面の研究者だったからですね。
なお、本書では、鑑定の根源である「鑑識」(鑑と識)について次のように述べています。
中国最初の国家である殷帝国から、紀元一年前後四百年にわたって栄えた漢帝国に至るまでの約二千年におよぶ長い時代の中国では、天上の神を祭る時に、神への捧げ物を入れるための銅器が造られた。・・・これらの祭祀用の銅器、いわゆる祭器には、製作に関する文字が施されていて、それは表面よりも高く鋳出された凸文字と表面に刻みこまれた凹文字の二種類がある。そしてこれらの祭器にある文字を読む学問が漢代からあったが、その凸文字を読解することを鑑、凹文字を解読することを識、併せて、こういう文字解読を鑑識といった。・・・さらに・・・造形物そのものの諸性質を判別することも鑑識ということの中に含まれるようになった。
また、「鑑賞」という言葉にもふれられています。
今はただ何となく美術品などを味わう意味に漠然と使われているけれども、江戸時代後期の収集家の間では、もう少し厳密に、鑑は作品の真偽を弁じ、賞とは作品の高下を定めることであると、二字にわけて考えていたのである。だからその精神は、ともに作品の価値を決めるという知識的な主旨であったのが、現代になってもっと感覚的内容に変化してしまったのである。
鑑定は、本来の鑑識や鑑賞を踏まえていないと、浅薄なものになってしまいそうですね(^.^)