遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

見台3.浄瑠璃見台

2022年03月31日 | 能楽ー工芸品

非常に重い蒔絵の箱です。

上面に6個の細長い穴があいています。

横に把手がついています。それを引っ張ると・・・

中からいろいろなものが出てきました。

どうやらパーツのようです。

蝶のような二枚の板(右上)に、家紋が描かれた薄板(右下)を差し込むと・・・

このような物が出来上がりました。

上側に突起が4個、下側には6個出ています。

下側の6個の突起は、最初の箱の穴にピタリと嵌まりました。

残る2枚の板は、一枚は突起があり、もう一枚には溝が彫られています。

突起を差し込み、ギュッとずらすと・・

一枚の板になりました。

裏側には、4個の溝がきられています。

この板をかぶせ、溝と突起を合わせ差し込めば、

頑丈な見台のできあがり。

残ったこの木は?

見台の下に差し込み、補強して完成。

お客さんの方から見ると、こんな具合になります。

見台、51.0x31.4㎝、台部、38.7x30.0x15.7㎝、高 47.8㎝。

重さは5㎏あります。先回の組立式観世譜面台の10倍、先々回の観世正式見台の20倍もの重さです。

浄瑠璃では、この見台をそのまま舞台で使用するので、豪華な蒔絵が施されているのですね。

正面には、松竹梅。

側面は・・

松に

梅。

 

浄瑠璃見台には、左右に大きなタフタのような房が下がっていて、いかにもっていう感じの品が多いですが、今回の品は何もなし。ならば、能に転用してもよいでしょう。

ということで、謡曲を習い始めてから10年間程、家ではこの見台で練習をしました。

それからずっとしまいっぱなしになっていました。

今回、久しぶりのお披露目。せっかくですから、謡いをひとくさり。

『卒塔婆小町』をしみじみと。

この曲は素人が謡うようなものではありません。ベテラン能楽師が、経験と研鑽をつんだはてに上演がゆるされる、位の高い難曲です。

卒塔婆に腰を掛ける年齢になった遅生、家で秘かに、小野小町の老境に浸ってみるは赦される!?(^.^)

 

 

 

 

 

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見台2.観世組立式譜面台

2022年03月28日 | 能楽ー工芸品

先回、観世流の公式見台を紹介しました。

ところが、うっかりこれを削除してしまいました。何とか回復する方法はないものでしょうか。

やむをえません。暇をみつけて、アップし直します。

そういう訳で、がっくりしながら、今日の品です。

平凡な木の箱(15x35x6cm)です。

なにやら、木の部品がいろいろ入っています。

二つの木を組合すと・・

台ができました。

棒をこの穴に差し込むと、

ピッタリと納まりました。

上部に、黒く細長い木部があります。

下の穴にクサビ(無くなっていたので、割り箸で代用^^;)をギュッと押しこめば、固定完了。

 

さらに、意味ありげなパーツが。

もう一つ、平らな板。

板を広げると倍の大きさになります。裏側には、溝が切ってあります。

この溝に、先ほどの意味ありげなパーツを差し込めば、ピッタリと嵌まりました。

これを、台棒の穴に差し込めば・・・

譜面台が出来上がりました(^.^)

裏側の穴の位置によって、譜面台の角度を変えることができます。止め棒は、これまた割り箸で代用(^^;

 

譜面台は上下に動かすことができます。台棒の黒い細木をギュッとおさえれば、譜面台が固定されます。高さ調節ができるのですね。

こういう可動部は、金属でできた西洋式譜面台を手本にして、日本流にアレンジして作ったのでしょう。

職人の技に一本(^.^)

昭和の初めごろの品でしょうか。注文した人もセンス有り。

左下に金で瓢箪が、右上には銀で月が描かれています。これは、観世流見台のマークですね。瓢箪と月が左右逆ですが堅い事は言わず、瓢箪横の汚れもやり過ごせば、実用品です。

今日は、気分を新たにして、『砧』。聞かせどころの「砧の段」ですが、和洋折衷譜面台のおかげで顔をあげて謡うことができました。調子もまずまず(^.^)

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鼓箱と小鼓

2022年03月24日 | 能楽ー工芸品

先のブログで、江戸時代の粋な鼓箱を紹介しました。このような鼓箱は特別の品です。

一般には、必ずしも鼓に箱が付いているわけではありません。現在では、裸の品の方が多いです。

けれども、長年鼓を扱っていると、いろいろな鼓箱が自然に集まって来ます。そこで、今回、まとめて眺めてみる事にします。

5個あるので、A~Eまで番号をふりました。

鼓箱A:

29.4㎝ x 22.8㎝、高 22.7㎝。江戸後期ー明治。

桐で出来ていて、金具が付いています。内側には、古紙が貼られています。上面は、わずかにアールになっています。

 

鼓箱B:

29.0㎝ x 23.4㎝、高 27.8㎝。昭和。

頑丈な木でできています。比較的新しい品です。戦後? 蓋の上面はフラットです。

 

鼓箱C:

29.2㎝x23.6㎝、高23.3㎝。大正。

桐製で、上面がわずかにアールになっています。外側は、柾目の桐ですが、内側には節があります。よくみると、外箱の内側に、別の桐板を入れて2重にしてあります。前桐の箪笥のように、見える所が柾目になっているのですね(^^;

 

鼓箱D:

29.7㎝ x 22.2㎝、高 23.6㎝。江戸時代。

相当古い鼓箱です。上面のアールはきついです。内側には、金蘭の布地が貼ってあります。品物の時代は、江戸中期よりも遡るかも知れません。もともとは全面漆塗りだったのですが、今はかなり剥げています。下地の砥粉が現れて白くなっているところは、汚れに見えてみすぼらしい。早く、黒漆を塗らなければ(^^; 

 

鼓箱E:

28.9㎝ x 22.0㎝、高 23.1㎝。現代。

保管と運搬を兼ねた箱です。外での練習や鼓の会の時には、必要な小物一式とともに、この箱に入れて持ち運びます。かなりの数の小鼓を持っていますが、実際に使う物は限られています。最近は、家での練習以外は、蕪蒔絵小鼓がmy小鼓。この箱に入れて、お出かけ(^.^)

 

さて、ここで問題です。

以上、5種類の鼓箱A~Eを紹介しましたが、その中に次の写真のどれかが入ります。小鼓a~eは、どの鼓箱と組み合わさっているでしょうか。

いくらなんでも、これは難しすぎますね。ヒントも兼ねて、若干の説明をします。

小鼓a:蕪蒔絵小鼓

江戸中期の名品です。外での稽古、発表会にはこの鼓を使います。粗相はできないので、大切に持ち運びしています。そのために、専用に作られた鼓箱を使っています。

 

小鼓b:

芭蕉の葉をモチーフにした装飾が施されています。どことなく、大正モダンの香りが漂います。

 

小鼓c:

笹の葉が描かれた鼓です。新しい物です。

 

小鼓d:

黒無地の鼓、いわゆる烏胴です。非常に使い込まれていて、黒漆が擦りきれています。木も枯れていて、軽いです。江戸初期まで遡るかも知れません。私の持っている鼓胴のなかでは、一番古いです。

 

小鼓e:

松葉が全面に描かれた鼓です。先回の根引松蒔絵菓子皿とよく似た蒔絵が施されています。但し、鼓の場合は曲面に描くので、蒔絵の難易度は上がります。江戸後期~明治頃の品だと思われます。

以上、鼓箱A~Eと小鼓a~eのなかから、時代などを参考にして、鼓箱と小鼓の組み合わせ(5組)を作って下さい。

連絡は、メッセージを送る(頁左上)からお願いします。

エントリーされた方には、もれなく、『故玩館への招待』(論創社、2009年、全173頁)を贈呈します。

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根引松蒔絵菓子皿(5枚)

2022年03月22日 | 能楽ー工芸品

今回は、地味な漆器の皿、5枚です。

 

径 13.1㎝、底径 9.4㎝、高 1.7㎝。明治ー昭和。

外側が千筋になった黒漆塗り菓子皿です。

典型的な木轆轤挽きの品で、底が分厚く(1cm)、縁は薄く(1㎜弱)なっています。

これだけはっきりと木目が出ている漆器も珍しいです。

見込みには、3本の松が金で描かれています。

小さな絵ですが、精緻に描かれています。

5枚とも、非常によく似た描き方です。が、いつものように違い探しをすると、頭と目がこんがらかってくるの、今回はやめておきます(^^;

根引松は、地面からはえているような松、あるいはそれを抜いた根付きの松です。切らずに根が付いたままの若松は、地に足がついて順調に成長し続けるようにとの願いを込めて、正月飾りや縁起物に使われます。

実は、この松が、能舞台には必ず配置されています。

     (佐成健太郎『謡曲大観 首巻』より)

能が演じられている舞台の左方には・・・

橋掛かりとよばれる廊下があります。

役者や囃子方が舞台へ出入るする所です。橋掛かりは、単なる通路ではなく、重要な意味をもっています。

能では、しばしば、亡霊が主人公です。幔幕があがると、橋掛かりをゆっくりと舞台(現世)へ動いていきます。橋掛かりは、あの世とこの世を繋ぐ所なのですね。能の最終場面、亡霊は、橋掛かりを静かに移動して、幕の内に消えていきます。それを見送るワキ(旅の僧侶など)が、2度、足を踏んで、一曲の能は終わります(留め拍子)。

橋掛かりの脇に植えられているのが、3本の根引松です。右から一の松、二の松、三の松とよばれ、大、中、小の大きさの違いがあり、遠近感を出すようになっています(上の図では同じ大きさ(^^;)  また、面をつけているので視界が限られたシテにとって、根引松は大切な目印となります。

これは想像ですが、舞台後方の鏡板に描かれた大きな老松と橋掛かりの根引松(若松)とは、能が形成される過程で何か象徴的な意味をもっていたのかもしれません。

 

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鎌倉彫り風鼓笛紋盆

2022年03月20日 | 能楽ー工芸品

今回は、鎌倉彫りのような盆です。

32.8㎝x21.2㎝、高1.6㎝。 昭和?

 

黒色部、茶色部、彫り部の三段に彫られています。

黒や茶部は何か意味ありげなデザインですが、よくわかりません。扇?銀杏葉?

 

地の部分には、鼓の皮が彫られています。鎌倉彫りのような雰囲気ですが、これを鎌倉彫りと呼んでいいのかどうかわかりません。

よく見ると、皮の下に、笛らしき物があり、そばに桜の花びらが添えられています。

能の楽器の内、能管が表された工芸品は大変珍しいです。

せっかくですから、最近愛用している品(八割能管)を置いてみました。

今回の盆のように主張が少ない品は、じわっとした味わいが玄人好みかもしれません(^^;

ところで、これまでかなりの数の漆器を紹介してきましたが、いつも困っていることが一つあります。漆の表面が滑らかすぎて、電燈や窓など、いろいろなものが写りこんでしまい、写真を撮るのが大変なのです。

特に、黒漆の場合は、まるで鏡です(^.^)

なぜ、黒漆ではこんなにもはっきりと映るのでしょうか。

一つは黒色の効果でしょう。漆表面に映って反射して見える光は弱いのですが、他の色の場合、バックにある色によって、映った光が相対的にさらに弱くなると考えられのです。

もう一つの原因は、黒漆の特性にあると考えられます。黒漆は、他の色漆と大きく異なる面があるのです。古漆では良く知られている、『透ける』という現象も、黒漆ならではです。その理由を長年考え続けてきました。この間、ようやくそのメカニズムについて、一つの仮説にたどり着きましたので、いずれブログで紹介したいと思います(^.^)

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