能管と龍笛
今使っている笛のいろいろです。
全部同じように見えますが、この内、能管ではない物があります。
さあ、どれでしょうか?
笛、 笛、 笛
正解は、写真の下部の2本です。
龍 笛
この2本は、龍笛です。
龍笛は、能ではなく、雅楽で使われる笛です。
姿形は能管と区別しがたいですが、似て非なる物です。
音程が違います。
吹き方も異なります。
能管では、笛に体をぶつけるようにして吹くのに対して、龍笛の方はずいぶん上品です。
能管とは
能管の構造
能管が、龍笛など通常の横笛と異なる理由は、能管の構造にあります。
能管の内には、上図にあるような大きさの竹筒(ノド)が入っています。煤竹をわざわざ切断し、内側にノドを挿入した後、元に戻し、樺を巻いて補強します。大変手間のかかる作業です。
その結果、歌口(吹き穴)から入った息は、筒の中で一度圧縮されます。
結果として、龍笛(リコーダーと同じ西洋音階)とは異なる音程になります。
また、能管特有の大きく、鋭い音が得られます。
龍笛2本をのぞいた残りの5本が能管です。
能 管
こんなにあって、どーする?
そこは、コレクター魂、と言いたいところですが、
蒐集癖がしみついてしまった人間の哀しい性。
あれも、これも、となってしまうのです。
能管には、一本一本に個性があります。
簡単に音がでるけれど音色がもう一つ、手強い品だがはまれば凄い、高音はいいが低音がイマイチ、季節や天候で気まぐれ、などなど。
また、自分の技量がすすんでくると、ワンランク上の品が無性に欲しくなります。
そんなわけで、こんなに集まってしまいました(だいぶ整理しましたが)。
私のイッピン
では、これらの中でよりすぐりは?
私のイッピン
上の写真の一番下の品、これが私のイッピンです。
前述のように、能管の製作は大変手間がかかるので、龍笛より高価です。
財布の軽さを考えると、由緒正しい品など望むべくもありません(能管に限らず、あらゆる故玩がそうですが)。
そこで、ジャンクすれすれの品に手を出すのです。
一種の賭です。
この品も、何十年と埃をかぶり、ボロボロでした。吹くとかすかに音が。
そこで意を決して、当代一の笛師、田中敏長氏に修復を依頼して、できあがったのがこの能管なのです。
で、具合は?
柔らかいなかに奥深い響きを秘めた、得も言われぬ音色!
しかし、この極太能管、哀しいかな息が続かない。
古稀過ぎの呼気にはキツイ(^^;)。
実際に使用する時は、能管筒とセットで。
能楽笛方は、この状態で、胸元に挿して舞台に立ちます。
また、能管の左端には、頭金と呼ばれる金具(龍笛の場合は、錦布)が、装飾されています。
頭 金
八割り返し能管
先のイッピンは、私には手ごわすぎるので、今使っているのは、次の品です。
少し、細め。
断面に特徴があります。
いくつかに割れたものを接合してあるように見えます。
これは、八つ割り返しという特殊な製法の能管なのです。
八つに割った竹筒(この場合は九つ)を、裏表ひっくり返して、再度、筒形にしたものを素材にします。
結果として、竹の表面の堅い部分が、能管の内側に来ます。
そのため、能管特有の鋭い音色がさらに増すと言われています。
八つ割り返し能管の作り方
能管吹きなら、一度は手にしたい八つ割り返し能管。
使い始めて、半年ほどです。
八割能管の調子も大分上がってきました。
能管道楽も、かなり終盤にさしかかって来たようです。