遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

陶胎七宝大花瓶の補修跡

2021年05月30日 | 陶磁胎七宝

先回のブログで、私としては記録的な大きさの陶胎七宝大花瓶を紹介しました。

 

しかし、この大花瓶、当初から違和感がありました。

1.他の陶胎七宝に較べて、手取りが重い。

2.他の陶胎七宝に較べて、色調に落ち着きがない。

3.器体の肌合いが、下部と上部で異なる。

 

1.については、産地がこれまでの京焼とは違うことによると思われます。

2.これも、1.と同じです。この品はおそらく横浜近辺で作られた品ではないでしょうか。

3.は最も深刻です(^^;

こんな手間のかかる贋物をわざわざ作っても、ペイしません。

考えられるのは、疵の補修です。

そこでもう一度、下から上まで詳しく見てみました。

大花瓶の上部の七宝の表面が少しぼやけています。

神経を集中して指で触ってみると違いがわかります。

陶器や七宝の表面はガラス質ですから、ヒヤッとした感じがします。これは、熱伝導度が大きく、指先から熱が奪われるからです。ところが、塗料がぬってあるとプラスチックで覆われているわけですから、熱が伝わり難く、ヒヤッとした感じはしません。

また、物の本によく出てくる10円玉で擦るのも有効です。表面の平滑度が違いますから、滑り具合や音の違いになって表れます。

どうやら、上部の七宝部分には、その下の陶器の輪状部もふくめて、透明な塗料が塗ってあるようです。

 

陶胎七宝部の下方部は透明塗料が剥げて、本来の地がのぞいています(^^;

この部分は大きく剥がれています。

写真で青い三角形の部分は、左方の青い地と異なります。左側の青部は陶胎七宝の青色、写真ではわかりずらいですが、ジカンがあります。それに対して、右方の三角形の青い部分はスベスベです。七宝釉ではなく、青いパテが充填されています。

この品の金属植線による地模様は渦巻きですが、右青三角形の部分にはそれがありません。この場所が、大きく傷ついていたことがわかります。透明塗料の剥がれ部分を見ると、渦巻き模様が途中で切れています。塗料の上に描かれていたのですね(^^;

 

さらにその下のクリーム色の輪状陶磁部をよく見ると、左側のジカンに見える部分は、非常に細い筆で黒線を描いてあることがわかります(顕微写真機が壊れてしまい、拡大写真が撮れません)。

 

 

口の内側にも剥がれがあります。この部分は、外側と異なり、クリーム色のペイントがべったりと塗ってあります。

大きく剥がれた部分は、陶胎があらわれ、薩摩系に特有のジカンが一面にあります。ニュウのような線も見えます。

またそこには、本来の蔓の一部があらわれています。つまり、口内の模様は、オリジナル模様の上をなぞって新たに描かれていることがわかります。

 

奥までペイントは塗られています。

 

このように、非常に手のこんだ補修がなされていることがわかりました。

おそらく、英国のプロによる修復でしょう。

さて、どうするか。

このままでも、何とか鑑賞には耐えます。

しかし、いったん補修物とわかってしまったからには、オリジナルがどのような物であったかを知りたいと思うのは人の常(^.^)

Dr.Kさんにならって、秘密のベールをあばくことにしましょう。

作業に一週間以上はかかると思います。

 

今回の教訓:大きさに 目を奪われて 疵花瓶。

全く、トホホの経験でした(^^;

 

陶胎七宝関係はまだまだ続きますが、とりあえず第一部、終(^.^)

 

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陶胎七宝花紋耳付大花瓶

2021年05月28日 | 陶磁胎七宝

前回の陶胎七宝ブログで、尺オーバーの大花瓶を紹介しました。

これに気をよくして、少しでも大きな陶胎七宝をと、品物探しを始めました。そして見つけたのが今回の品です。

最大径14.6㎝、口径11.8㎝、底径12.3㎝、高37.8㎝。重2.56㎏。明治。

 

大きく、重い陶胎七宝花瓶です。

胎土は、やはり薩摩系のクリーム色陶土。

様々な花柄模様が、泥七宝で施されています。

胴体中部には、薩摩系の彩色がなされています。

 

上部、口の内部には色釉で唐草のような模様が描かれています。

 

底には、伊万里焼風に蝶と花が描かれています。

 

90度ずつ回転します。

 

両側にある耳にも花が描かれ、本来の獣耳が牡丹耳になっています(^^;

 

さらに90度回して、最初の反対側:

 

窓の内、外には、様々な花。

地を埋めているのは、これまで紹介した陶胎七宝のハート形ではなく、渦巻き型の植線です。

 

さらに90度回転:

 

 

 

この品の見どころは、胴の窓の中に見られる様々な花や木でしょう。

大輪の朝顔。

藤の花。

松?の花?

ススキとトンボ。

梅の花。

桜の花。

葡萄。

コスモス?紅葉?

 

これでもかというくらいの花、さらに胴中部には派手な彩色。

とても日本人向けとは思えません。明らかに輸出品ですね。

こうやって並べてみると、今回の品がいかに巨大かがわかります。

陶胎七宝の限界に近い大きさか!?と、一人悦に入っていました。

しかしそこには、思わぬ落とし穴が!

        ・・・・・To be continued(^.^)

 

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古伊万里染付二四孝詩句紋輪花小皿

2021年05月26日 | 古陶磁ー全般

昨日のブログで、古伊万里コレクターのDr.Kさんが、「染付 蝶文 輪皿が花大深皿」を紹介されていました。

例によって、おお、似たような皿があったはずと思い、棚を捜したところ、今回はすぐに見つかりました(^.^)

古伊万里の輪花小皿4枚です。

すべてに、小ホツがあります。

径 11.0㎝、高台径 6.2㎝、高 2.3㎝。江戸中ー後期。

 

この皿は、20年ほど前、名古屋骨董祭で求めた物です。この日は、これという品も見当たらず、かといってこのまま手ぶらで帰るのもなんだし、と思い、購入しました。傷有りですから、それなりのお値段。図録にも登場するタイプの品だし、まあいいかと自分を納得させました(^.^)

 

小さい皿のわりには手が込んでいます。

外周の口紅の内側に筋状の陽刻(写真ではほとんど見えません)、その内側を染付のドットでぐるっと囲み、見込には全面に細かな陽刻模様が施されて、漢詩が書いてあります。

手掛かりは漢詩。

『深山逢白額、努力転精風、父子倶無恙、脱身纔甲中。揚香』

これは、中国の親孝行な子供24人(二十四孝)の一人、揚香のお話ですね。

「父と暮らしていた娘、揚香は、二人で山へ出かけた時、虎が襲い掛かろうとしました。揚香は、父を助けるため、身を賭して虎に立ち向かいます。心をうたれた虎は、尻尾を巻いて退きました。」

 

かなり細かな陽刻が、全面に施されているのですが、写真ではわかりずらいです(^^;

唐子娘が虎に立ち向かうところを彫っています。

娘は斜め左方向、虎に向かっています。

虎は下向きです。「虎」の字の上に足、左方にグルグル巻いた尻尾、下方に顔があります。

周りの岩や草花まで細かに表されています。

実は、この皿、買ってから一度も取り出したことがありません。眺めてみたのは今回が初めてです(^.^)

どのような型を用いたのでしょうか。まるで、鋭い片切り彫りのように見えます。こんなに小さな皿に、壮大な物語を精細に陽刻する伊万里の技術に驚きました。

 

 

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陶胎七宝窓草花紋盤口大花瓶

2021年05月24日 | 陶磁胎七宝

どうやら、陶胎七宝という品が明治初期に作られ、欧米に輸出されたらしい、と考えるようになってから暫くして、棒に当たりました(^.^)

それが、この陶胎七宝大花瓶です。

口径 12.7㎝、底径 12.5㎝、高 32.2㎝。重さ 1.7㎏。明治初期。

尺越えの堂々たる大花瓶です。

先回のブログで紹介した品とよく似た品です。ただ、大きさが非常に違います。

 

反対側:

 

両横側:

 

上部の内側には、京薩摩らしく色絵で花が描かれています。

 

底の造りは前回の品と一緒。銘がありますが、読めません。

 

実はこの品、さる骨董店の隅にひっそりと置かれていました。

聞くと、「どこの品かよくわかりません。中国かも知れない」と主人。

確かに、この手の泥七宝は、中国で多く作られてきました。明末の品であれば、相当古格があります。しかし、この品は新しい。みんはみんでも、民国あたりの物なら売り物にならないので、主人もどうしたものかとためらっていたと思います。

それもそのはず、陶胎七宝の絶対数は大変少なく、私の実感では、七宝百個のうち一個くらいの割合でしかありません。通常の骨董店では、一生に一個扱うかどうかでしょう。

「きれいですね。家に飾ってみたいですね」とかなんとか当たり障りのない事を言って、値段交渉。私としては、大変お値打ちに入手することができました(^.^)

 

窓の中に、レンゲの花?

 

テッセンと菊。

 

両サイドは幾何学紋。

 

肩のあたりをめぐるあずき色の帯も、先回の品と同じです。

 

台のついた底も、先回と同じ、輸出向け製品の形です。

 

先回の花瓶と並べてみると、両者、一回り以上大きさがちがいますが、色形など、同じところの産であろうと思わせる造りです。

例によって、資料をひっぱりだしました。

似たような品が載っています。

特別展「七宝」、名古屋市博物館、1989年

陶胎七宝「花文花瓶」、高 29.0㎝

これくらいの大きさが、陶胎七宝の限界でしょうか。

博物館に、3㎝アヘッド(^^;

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陶胎七宝蝶紋盤口花瓶

2021年05月22日 | 陶磁胎七宝

しばらく横道にそれましたが、陶胎七宝に戻ります。

口径 9.3㎝、底径 9.4㎝、高 22㎝。明治初期。

輸出向けと思われる陶胎七宝花瓶です。

素地は、これまでと同じく、卵色の柔らかな京薩摩系の陶器です。

これまでの品と同ように、ハート形の地模様が一面に施され、空色の地に、デザイン化された蝶が散りばめられています。

回してみると、

 

 

全部で、8匹います。

 

大きな口造り。

 

底部は、輸出陶磁器に多く見られる造りです。

 

図柄はこれまで紹介した陶胎七宝と類似のものですが、この品では、あずき色の上釉が好んで使われています。

ピカピカと光輝く近代七宝に対して、陶胎七宝は元々素朴です。しかも、今回のあずき色釉のように、あざやかな赤ではなく、渋い色の七宝が、欧米で受け入れられたとは驚きです。

いずれにしろ、陶胎七宝が輸出されていたのは確かなようです。

そう考えると、不思議なもので、品物を見る範囲がおのずと広がってきて、こんな所に、という具合に、陶胎七宝をはじめとする毛色の変わった品を拾いあげることができるようになりました(^.^)

 

 

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