遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

藍九谷?染付水車・水草・鳥紋瓢形皿

2022年07月31日 | 古陶磁ー全般

古物をあつかっていると、おや!?と疑問を持つものにしばしば遭遇します。

最近、伊万里コレクターのDr.Kさんが、古伊万里写しではないかとの疑念がもたれる皿をブログアップされていました。そんな品なら人一倍!との確信が私にはあります(^^;   そこで、古伊万里、しかも駆け出しの頃の品ではなく、最近入手した疑問品について報告します(ガラクタ蒐集人生も終盤というのにこの有り様(^^;)。

以前のブログで、焼成時に大きな窯疵のある物に色絵を描いた瓢形皿を紹介しました。いわゆる藍九谷が古九谷に変身したレア品です。

下の写真が、その品(5枚)です。

元々の品は、左下の部分(水車、水草、鳥)だけが染付で描かれていて、全体の三分の二は白い皿です。

このタイプの皿は、藍九谷瓢形皿として、時々市場に出ます。

これは、どうしても揃えておかねばなりません。

ということで、入手したのが下の品です。

15.4㎝x11.4㎝x2.8㎝。江戸前期?

わずかのジカンを除けば、ほとんど無疵の品が6枚揃いました。

しかし、いま一つ納得がいきませんでした。

そこで、両者を較べてみました。

形態はほぼ同じです。今回の品(15.4㎝x11.4㎝x2.8㎝)は、古九谷皿(17.2㎝x11.8㎝x3.7㎝)より一回りほど小さいです。

そこで、左下の染付部分を詳細に比較してみました。

古九谷:

今回の品:

両方とも、ダミや墨はじきの技法を駆使して不思議な絵を描いており、出来栄えに遜色が無いように見えます。

 

左:古九谷         右:今回の品

 

 

しかし・・・・

ん!?! 二匹の鳥ですが!!??

念のため、顕微拡大をしてみました。

古九谷:頭(左)と足(右)

今回の品:頭(左)と足(右)

古九谷の方の鳥は、眼玉や足がしっかり描かれています。それに対して、今回の品は、鳥からは程遠いものです。これでは飛べません(^^;  

染付の絵全体では、両者の違いはあまりないように思えますが、細部の描写には大きな違いがみられます。やはり、今回の品は、本歌をなぞってあるのですね。

実は、この品を入手した時から、違いに気がついていました。それは手取りです。皿を手に持った感じが違うのです。

特に裏側。

どちらも、付け高台で、中皿にしては高めの高台です。しかし、今回の品の高台には厳しさが感じられません。古九谷皿の方は、やや内向きに付けられた高台を手に持つと、皿の方からもグッと押し返してくるような力強さがあります。それに対して今回の品は、小綺麗にまとまった素直な高台で、何とも物足りない(^^; 

また、両品とも、陶板を型にギュッと押し当てて造った瓢型の変形皿です。皿は大きく3つの部分に分かれています。この時、皿に歪みが残るので、焼成した時に窯疵が多く発生します。その疵をうまく色絵で修正したのが以前紹介した古九谷皿なのです。その皿をよく見ると、型押しでできた3つの部分の境界ははっきりとした稜線になっています。ところが、今回の皿は稜線があいまいです。型に押す時、力を手加減しているのです。焼成時に不良品ができるのを避けたのですね。

また、両者、形は同じですが、大きさが違います。今回の品は、古九谷皿よりも一回り小さいです。これは、本歌の皿を手本にして、後から似た品を作ったからだと思われます。陶磁器は、焼成により、1割ほど縮むのです。そこまで考えを巡らしてコピー品を作ることは稀です。私が今までに遭遇してきた偽物の多くは、本物より一回り小さい(^^;

以上を総合すると、今回の品は、江戸前期の藍九谷染付水車水草鳥紋瓢形中皿をまねて、近年に作られたコピー品であると結論付けざるをえません(^^;

 

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能画27.奉納額『鼓を打つ若衆』

2022年07月29日 | 能楽ー絵画

今回の品は、板に描かれた人物画です。

縦 46.3㎝x横 45.8㎝。江戸中期~後期。

神社仏閣に奉納された板絵額です。

上下の端に、釘を打った跡があります。実際に掲げられていたのでしょう。そのわりには、絵が非常に鮮明に残っています。

若者が小鼓を打っています。小鼓の上達を願って奉納したのでしょう。広い意味で、絵馬の一種と考えて良いと思います。

非常に珍しい図柄です。

「施主 下町 何某」とあります。

「淀屋勇吉」がその人なのでしょうか。それとも、この絵を描いた絵師の名前?

小鼓を打つ姿勢、右手、左手の形など、実際の演奏の様子をかなり忠実に描写しています。

小鼓は、能だけでなく歌舞伎や舞踊などにも使われますから、この若者が何用の鼓を打っているのかはわかりません。が、膝の横の扇子に注目。能の小鼓の場合、打つ前に、帯に差した扇子を取って、右端に置きます。ですから、この若者は、能の小鼓を打っていると考えて良いでしょう。

これまで紹介してきた能画は、能の一情景を想像で描いたタイプAの能画、あるいは、能舞台の一場面を描いたタイプBの能画のどちらかでした。今回の品はA、Bの範疇に入らないので、タイプCの能画とします。今後、タイプA、Bに入らないその他のものは、便宜上、すべて、タイプCとします(^.^)

 

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能画26.月岡耕漁、板絵『実盛』、版画『実盛』

2022年07月27日 | 能楽ー絵画

今回は、板に描かれた能画です。

20.9㎝x28.5㎝。江戸~明治。

この品は、江戸の板絵ということで入手しました。

老武者が描かれています。しかも、シテ一人が描かれたレア物!

老武者の能と言えば、『頼政』か『実盛』、いずれも、滅びの美学が主題です。しかも、主人公は老人。『頼政』の後シテは、精悍な頼政面を着け、角ばった頼政頭巾を被っています。一方、『実盛』は、尉の面を着け、烏帽子を被っています。ですから、この絵は、『実盛』の後シテを描いたものであることがわかります。

【あらすじ】 平家の軍勢は加賀の篠原で木曾義仲に破られて敗走したが,斎藤別当実盛はただ一騎踏みとどまって奮戦した。赤地錦の直垂に萌葱の鎧というその晴姿を見て,手塚太郎光盛が名のりかけたが,実盛はわざと名のらず,手塚の家来を馬の鞍に押さえつけて首を押し切った。しかし老武者のこととてしだいに疲れが出て,ついに手塚に討たれた。(『世界大百科事典』より)

前半では、諸国行脚の遊行上人が、加賀国篠原で説法を行っていると、一人の老翁が訪れ、自分は實盛の亡霊だと言って去ります。後半、夜に上人が供養をしていると、實盛の亡霊が老武者の姿で現われます。そして、木曽義仲の前に自分の首が差し出され、洗われて、髪を染めていた墨が流れ白髪が現れたこと、手塚太郎光盛に討たれて無念の最期をとげたことなどを語り、姿を消します。

実はこの品、絵は古く思えるのですが、キャンバスの板にあまり時代を感じられないのです。

非常に分厚く絵具が塗られていて、細かなジカンが一面に入っています。これが古く感じられる理由だったのですね。

そうこうしているうちに、浮世絵師の流れを引く明治の能画の大家、月岡耕漁の能楽図絵をまとめて入手しました。

その中の一枚がこれです。

月岡耕漁『實盛』。25.5㎝x37.9㎝。明治35年。

大変よく似ています。

大きさはほとんど同じ。

装束の模様まで一緒。赤地錦の直垂を着ていますが、板絵の方の赤色は退色しています。

これはもう、決まりですね。今回の板絵は、江戸の品ではなく、明治期、能画絵師、月岡耕漁によって描かれた物です。最初にこの品を入手した時は、シテを単独に描いた江戸能画、しかも板絵でこれはレア品、と早合点しました。先回の古画に続いて、2匹目のドジョウとはいきませんでした(^^;

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能画25-2.古画『黒塚(安達ケ原)』『紅葉狩』『弱法師』

2022年07月25日 | 能楽ー絵画

今回は、残りの古画3枚です。

『黒塚』(観世流は『安達ケ原』)

般若面を着け、打杖をもっています。

三角形の鱗模様の衣裳をまとっていますから、強い怒りと恨みで蛇になった鬼女です。

このようなシテが登場する能は、『道成寺』、『葵上』、『黒塚』の三つです。『道成寺』は先回紹介したの古画の内の一つでした。同じ演目で2枚は考え難いので、『葵上』『黒塚』に絞って良いでしょう。『葵上』は、光源氏を葵上に奪われた六条御息所の怒りと怨念の物語です。一方、『黒塚』は、自分の一番恥かしい所を見られてしまった山に棲む女が主人公で、約束を破られた怒りと哀しみが主題です。

いずれも、裏切られ、怒りと怨念に憑りつかれた鬼女ですが、『葵上』の六条御息所は大臣の娘、『黒塚』の鬼女は山里に棲む卑しい身分の女です。同じ鬼女ながら、舞台で演じられる時、微妙な違いがあります。『葵上』に登場する鬼女にはどことなく気品があり、『黒塚』の鬼女は粗野で荒々しい感じがします。

そういう観点でもう一度この絵を見てみると、『黒塚』とするのが妥当なように思えます。

 

『紅葉狩』

この絵もまた鬼系の能画です。

面は、般若ではなく、顰(しかみ)です。頭は乱れた赤毛(赤頭)で、打杖を持っています。

このようなシテが登場する能は多くあります。紅葉狩、羅生門、舎利、雷電、大江山、土蜘蛛、飛雲。この絵から得られる情報で、演目を特定することは不可能です。

そこで禁じ手(^^;   先回と今回、2回にわたって紹介している古画6枚ですが、マニアックな能や奇をてらった能ではなく、どうやら、一般に馴染みのある能のシテを描いているように思われます。その点からすると、この絵は『紅葉狩』の後シテ、紅葉狩りの酒宴で寝入ってしまった平惟持に襲いかかる鬼と考えても良いのではないでしょうか(^.^)

 

『弱法師』(よろぼし)

若い男性の立ち姿です。

 

よく見ると、右手に杖を持っています。

能では、シテの持ち物として、鬼女などが持つ打杖以外に、通常の杖がよく使われます。しかし、老人や幽霊の場合が多く、若者が持つのは、盲者の杖に限られます。盲目の若者が登場する能は、『弱法師』と『蝉丸』です。なお、田村の前シテも杖のような物をもっていますが、これは箒であり、ずっと長いです。

さて、『弱法師』と『蝉丸』のどちらでしょうか。『弱法師』は、人の讒言を信じた親から追放された俊徳丸が、盲目となり、乞食となって放浪したあげく、天王寺で偶然父親に発見され、親子は故郷へ帰って行くという物語です。梅の香りが漂う境内の情景が広がり、諦観と透明な美しさが入り混じった不思議な感動が惹起されます。『蝉丸』では、天皇の子でありながら、盲目のため捨てられた蝉丸が、やはり皇女ながら、逆髪という障害をもって放浪する姉と出会い、互いの悲運を嘆き合います。

『弱法師』と『蝉丸』、どちらも似たような盲人の面を着けるので、顔の表情から見分けるのは難しいです。

ただ、蝉丸は初冠や角帽子を被っている姿がほとんどですが、弱法師に被り物はありません。

ですから、この絵は、『弱法師』の主人公、俊徳丸の姿だと思います。なお、この絵の若者の顔は、一般的な盲人の面よりも少し目が開き気味です。これは、薄眼を開けた半眼の状態を表しているのではないでしょうか。

今回の3枚の能画の特定は非常に苦しかったです。無理やりの感も否めません(^^;  江戸時代の能画のほとんどは、複数の人物を登場させ、さらにキーワードになるようなアイテムも描きこんでいます。これは、能画に啓蒙的意味合いが込められていたからと推察されます。ところが、先回、今回と紹介してきた古画は、シテのみを素っ気なく描いています。言わば、シテのみで勝負(^^; 絵師は、どんな人を対象に、勝負したのでしょうか。疑問はつのるばかりです(^.^)

 

 

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能画25ー1.古画『高砂』『道成寺』

2022年07月23日 | 能楽ー絵画

今回の品は、非常に時代のある能画です。

屏風剝しと思われ、全部で6枚あります。

時代は江戸前期、大きさは、幅29cm、長さ39cmほどです。

6枚の古画を3枚ずつ、2回に分けて紹介します。

『高砂』

高砂の尉です。

高砂の姥です。

いずれも、力強く描かれ、江戸前期の人物画によく見られる描き方です。

尉が熊手を持っているので、『高砂』とわかります。

姥が右手に持っているのは、箒でしょう。

 

『道成寺』

女面をつけた人物です。

これは誰?

左手に扇を持ち、横向きに構えています。

左足を上げています。先回紹介した扇型奈良絵『道成寺』(下図)と同じところを描いています。

鐘入り前、小鼓との緊張したやり取りで、長ーーーーい沈黙のと、やっと一歩をすすめる場面です。その後、鐘に入った女は、蛇に変身する訳ですが、その予兆として、長絹の裾は、三角形の鱗模様になっています。

また、周りには、白っぽい丸模様が、点々とあります。拡大して見ると、剥げているのではなく、銀泥が塗られていることがわかりました。どうやら、桜の花のようです。物語の前半部、里の女がまず、不気味に謡い始めます。「花の外には松ばかり。花の外には松ばかり、暮初めて。鐘や響くらん。」実際の舞台には何も無いのですが、これで桜が咲き乱れる春の季節が表されます。この絵は『道成寺』の舞台の一場面を描いたものですが、実際には見えない桜花を散らしているのが珍しい。タイプBの能画に、タイプAの要素を加えているのですね(^.^)

 

今回の品は、いずれも、能舞台の一場面を描いたBタイプの能画です。特筆すべきは、人物を一人(主にシテ)しか描いていないことです。この描き方は、明治以降の能画には多く見られますが、江戸時代の絵画では大変珍しいものです。

今回の絵には、一人分の情報しかありません。先回の『羽衣』の松のようにヒントとなる小物類も描かれていません。ですから、能の演目を探り、絵のタイトルをつけるには、苦労しました(^.^) それでも、今回はまだわかりやすい方でした。次回の品(残りの3枚)には手こずりました(^^;

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