遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

李朝?瀬戸?『鯉滝登り図徳利』

2022年08月12日 | 古陶磁ー高麗・李朝

よくわからない物シリーズ第3弾、今回は、李朝か瀬戸の物か迷っている品です。

胴径 10.8㎝、口径 3.2㎝、底径7.9㎝、高さ 20.9㎝。李朝?瀬戸?

口元が欠けています。私が金継ぎで直しました。

器の表面には、ジカンがビッシリとあります。胴には、大きな疵があります。火が入っているので、成型時にできた疵をそのままにして焼成したことがわかります。器表には小傷が多くあり、長く使われてきた品物特有の味わいがあります。

陶磁器に白釉を掛け、さらに地呉須で素朴な絵付けをしています。縦向きの魚の上方には、草花のようなものが描かれています。薄く細い線が縦に何本も走っているのは水でしょう。どうやら、魚(鯉?)が滝登りをしている図のようです。

徳利の下端ギリギリまで、尾鰭が描かれています。 

この品は、数十年前に、地元の骨董屋で求めた品です。店主によると、李朝か瀬戸は、産地ははっきりしないとのことでした。瀬戸、美濃の古い陶磁器にも、数は少ないですが、淡い呉須で絵付けした物があるからです。

以来、李朝か?瀬戸か?もやーーーっとした気分を抱えたままです。このもやもやをはっきりさせるのが、ガラクタコレクターの断捨離(^^;

灰色がかった白釉にビッシリとジカン。

拡大図。

 

畳付けにも釉薬が施され(擦れて地が半分むき出し)、かわりに底が丸く釉剥ぎされています(屋号のような墨書有り)。胎土は粘土質の素朴な土、石咬みも見られます。

奇妙な魚です。頭の形からすると、背と腹が逆です。それとも、背びれは省略して、腹ひれのみ描いた? こんな魚は、李朝陶磁器に時々見られます。

さらに、魚の鱗に注目!

点々と描かれた鱗の部分が、弾けて穴があいているのです。

拡大図。

呉須を濃く塗った部分が、どうして破裂するのかわかりません。熱により、胎土の成分と反応してガスが生成するのでしょうか。

そうこうしているうち、東京の日本民芸館の展示品の一つが目にとまりました。李朝の大壷で、魚が描かれています。なんと、鱗の部分が弾けて、穴があいているではありませんか。

どうやら、今回の徳利は李朝の品と考えて良さそうです。

なかなかに味わいのある徳利です。

下戸の身としては、アルコールを入れるより、野の花(^.^)

コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青白磁貼花染付辰砂鉄絵菊蘭虫紋瓶

2021年09月12日 | 古陶磁ー高麗・李朝

今回は、李朝白磁の瓶に、珍しい装飾が施された品です。

最大径 22.6㎝、口径 4.7㎝、高台径 12.7㎝、高 36.3㎝。重 2.8㎏。李朝後期。

 

貼花で菊が表されています。花の部分が、暗赤紫色の辰砂になっています。

縦に大きなニュウが走り、多数のジカンとつながっています。

もう一つ、蘭と思われる植物が染付で描かれています。

釉薬は、薄い青磁釉に見えますが、単なる濁りのある上釉かも知れません。拡大して見ると、気泡以外に、白い結晶上の単片が数多くみられます。

 

菊の左上方には、昆虫が二匹飛んでいます。

一面にジカンが現れた所もあります。

 

反対側にも、似た蘭菊模様が表されています。

 

 

 

この面の菊には、汚れのようなものが付いています。

拡大して見ると、これは汚れではなく、鉄釉のようです。

あちこちに、シミ、汚れのように見える茶色の部分がありますが、菊の茎を鉄釉で塗っていたのですね。

茶色くない部分でも拡大して見ると、黒茶色の点々が見えます。

鉄釉の中に含まれていた鉄分(金属鉄)が析出したものでしょう。

最初の写真にあるもう一つの菊紋や虫紋には、肉眼で茶色の部分がみえませんが、拡大すると、所々に、鉄分が観察できます。

どうやら、正面、背面の菊の両方、そして虫紋には、薄い鉄釉が施されて焼成がなされたようです。

今回の器の最大の特徴は、辰砂と鉄釉の併用です。辰砂は、銅の還元による赤系統の色(酸化第一銅)です。銅の酸化色は緑(酸化第二銅)です。一方、鉄釉の茶色は、鉄の酸化(酸化第二鉄)によってもたらされます。還元色は青(酸化第一鉄、青磁)、さらに還元が進めば、金属鉄が析出します。一般の焼成では、還元よりも酸化が容易にすすみます。還元色を得るには、特別な焼成法によらねばなりません。

今回の品は、菊花の辰砂はきれいに発色していますが、鉄釉はほとんど発色していません。強い還元的雰囲気で焼成されたためでしょう。還元と酸化は相反する条件ですから、鉄釉と辰砂を同時に発色させるのは困難なのですね。

ところが・・・

白磁陽刻青花辰砂鉄絵草虫瓶『世界美術全集 東洋編11.朝鮮王朝』小学館、1999年。李朝後期。

美術全集に、似た品がありました。蘭菊模様に、虫が飛んでいます。

「またか!」と思われる方も多い事でしょう(^^;

こちらの品は、染付、辰砂、鉄釉の3色がみごとです。タイトルには、白磁陽刻・・・・とありますが、写真で見る限り、やはり薄い粘土の型を貼り付けて凸模様をあらわした貼花だと思います。染付部分も、貼花になっているようにも見えます。

これは、比較的近年、民家で使われていたものが骨董屋の目にとまり、世に知られるようになった品です。現在、韓国の国宝になっています。

この品のように、染付、辰砂、鉄釉を同時に施すのは困難で、類例が非常に少ないのです。

私の品は、図録の品とは、上釉、染付のタッチ、貼花の仕方などが微妙に異なりますが、カンニュウの入り方などはよく似ています。時代も、李朝後期はありそうです。真赤な偽物とするには、カワイソウ(^.^)

 

 

 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新羅須恵器壷

2021年09月10日 | 古陶磁ー高麗・李朝

新羅系と思われる須恵器の壷です。

最大径 21.4㎝、口径 14.6㎝、底径 14.1㎝、高 18.0㎝。新羅時代。

堅く焼き締まった壷です。

現在、こういう品は、あまり人気がありません。いかにも地味だし、考古学的には中途半端(^^;

しかし、須恵器は、陶磁器史上、一つの区切りとなる焼物だと思います。轆轤の冴え、高温焼成、美しいフォルム。釉薬と絵付けを除けば、完成度の高い焼物と言ってよいでしょう。

朝鮮半島の須恵器の技術は日本へ伝わり、各地で須恵器の生産が大規模に行われ、中世陶、六古窯にも影響を与えました。朝鮮半島の須恵器が、日本の生活文化に及ぼした影響の大きさは、はかり知れません。

さて、今回の品です。

口、肩、胴に、櫛目紋がぐるっと4本回っています。縦方向にも櫛目でアクセントがつけてあります。

特にこれといった見所のある品ではないですが、胴に黒く艶のある部分がいくつかあります。

火表になって、炎が回ったのでしょう。反対側は白っぽいです。

こういったところが、景色と言えば景色(^.^)

底は焔から遠いので、ほとんど白に近いです。

いっそ全体が白っぽくなって、中世陶の白瓷になれば、数十倍の値になるのですが(^^;

いくつか欠けがあります。口の欠けは非常に古いですが、高台の疵は最近できたばかり。この品、一時は、けっこうな頻度でお使いになっておられました。その時の疵でしょう。気軽に花を入れるには向いているのです。

欠けがそれほど気にならないのが、この品の最大の特徴か(^.^)

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本人が使っていた李朝箪笥

2021年09月09日 | 古陶磁ー高麗・李朝

先のブログで、李朝の箪笥バンダチを紹介しました。

実は、同じような品がもう一つあります。

幅 83.6㎝、奥行 42.5㎝、高 78.3㎝。李朝時代。

先のバンダチより一回り半小さいです。

使われている松もそれほど良い材ではありません。また、先の品のように、木材を組んで箱を作っているのではなく、単に釘で打ち付けただけの箱です。

 

前金具は、かなり豪華に見えます。

把手は打出しです。

が、金具の金属は薄くペラペラなので、写真右上のように、端が捲れている所があります。

このバンダチは古い物なのですが、上手品とはとても言えません。

鍵は、時代物。

このバンダチの価値は、内部にあります。

前蓋を開けると、内側の板に、何やらベタベタと。

日本語とハングル混じりの紙が貼ってあります。

 

バンダチの蓋の内側が一番きれいに残っています。

これは、野菜品種の紹介、宣伝パンフレットですね。戦前、日本統治下の朝鮮で出されたものです。内側にも、同じような紙がいっぱい貼られています。なかには、昭和16年や18年と読める物をもあります。

どうやら、この李朝箪笥は、戦前、朝鮮半島に滞在していた日本人の農業関係者が使用していた物のようです。

李朝と日本人と言えば、まず。浅川伯教、巧兄弟が浮かびます。まだ誰も注目していなかった、陶磁器をはじめとする李朝の文化に美を見出し、その保存に尽力した稀有な日本人です。特に、浅川巧は、農業技術者として赴任して熱心に指導する一方で、日本統治下で毀されていく朝鮮文化を守りました。彼は人々の中で暮らし、40歳で朝鮮の土となりました。今でも人々は、彼を敬愛し、追慕しています。

浅川巧が亡くなったのは昭和6年ですから、このバンダチの貼り紙(昭和18年前後)とは合いません。が、もしかしたら兄伯教(昭和21年帰国)とは何らかの関係があるかも知れません。

浅川兄弟がその美を見出した、李朝の白磁を置いてみました。

以前のブログで紹介した絵画です。

李景朝『白磁のある静物』

やはり、李朝の白は独特の雰囲気をもっていますね。

実は、遅生の大学時代の親友は、浅川兄弟の遠縁にあたる人でした。このバンダチを手元に置いておいたら、と言ったら、スペースがない、との返事。彼は、都会のマンション暮らしなのでした(^.^)

 

 

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

黒高麗扁壷(小山富士夫旧蔵?)

2021年09月07日 | 古陶磁ー高麗・李朝

ガラクタ品が所狭しと転がっている故玩館です。ほとんどは裸、適当な合せ箱に入っていればマシな方です。が、ごくごく稀に、これは!と思わせる箱に納まっている物もあります。

道具を納める箱は様々ですが、古い挽屋や今回のような深い印籠蓋の角箱なら、期待度が上がります。

  (値札がついたママ(^^;)

真綿の上に鎮座しているのは、黒高麗と呼ばれる焼き物です。

すごい存在感です。

丸い壷を両側からギュッと押さえた扁平な形になっています。

最大径 14.8㎝、同位置短径 12.1㎝、口径 3.7㎝、底径 8.2㎝、高 19.7㎝。重 818g。李朝初期。

黒高麗と呼ばれる焼物は、高麗末期から李朝初期にかけて焼かれた物です。実際は、李朝の品がほとんどだと思います。独特の味わいをもっているので、好事家の間で珍重される品です。

今回の品は、通常の扁壷よりも扁平度が小さく、ふっくらとした造りになっています。酒を入れれば、相当な量になります(^^;

ダイナミックな釉薬の流れが上半部のあちこちに見られます。

 

上半部は艶があり濃い黒褐色です。見る角度によって、釉流れが銀から薄青に変化する複雑な味わいを醸し出しています。これは、釉薬中の鉄、マンガンなどの金属の効果だと思われます。一方、下半部はマットな褐色釉が薄くかかっています。まず、この鉄釉を全体にかけ、その後、鉄、マンガンの濃い釉薬を上半分に掛けたのでしょう。種類の異なる釉薬を、少なくとも2回掛けているのですね。

底部も、見た目より複雑です。高台内は、一見無釉に見え、白っぽい状態の表面が、畳付まで続いています。ところが、よく見ると、疂付の右上の白い部分が剥げています。そこから赤褐色の土がのぞいています。底部は、白化粧してあるのです。おそらく、底部だけでなく、器体全体に、刷毛で白土を塗っているのだと思います。

つまり、この扁壷は、最初刷毛で白釉を塗り、次に器全体(底部を除いて)に鉄釉を掛け、さらに上半部に鉄、マンガン釉を掛けた後、焼成されているのです。

これ程の品が、どうしてビンボーコレクターの所へやってきたのでしょうか。

グッと目を凝らすと、扁壷の平らな面の中央から、十字架のように大きなニュウが広がっているのがわかります。

反対側にも、同じようなクルスが。

大きな疵物だったのですね。だから私の所へ来た(^^;

それにしても不思議な割れ方です。こんな形のニュウは見たことがありません。しかも、扁壷の両面に、同じように走っています。ニュウ以外に、アタリ疵などはありません。どんな力を加えたら、こんなニュウができるのでしょうか。

古陶磁研究家として有名な小山富士夫(古山子)の箱書きがあります。

小山富士夫といえば、永仁の壷事件が思い出されます。加藤藤九郎らが仕組んだとされる偽の古壺が、1959年、重要文化財となりました。その時、文化財指定に尽力したのが、文部技官・文化財専門審議会委員であった小山冨士夫でした。しかしこの壷は後に贋作とされ、1961年、指定は取り消されました。小山は責任をとって職を辞し、その後は、作陶と古陶磁研究に没頭しました。事件について語ることはなかったと言います。

彼は、中国古陶磁研究の第一人者ですが、朝鮮陶磁器にも造詣が深く、黒高麗を好み、酒を愛したそうです。

昭和43年は、北鎌倉の自宅で作陶に没頭していた時期です。ひょっとしたら、この扁壷に酒を満たしたかも。

この壷に入った不思議なヒビは、決して外には表さなかった小山の心の内を静かに表しているのかも知れません。

なお、小山は敬虔なクリスチャン(クエーカー教徒)で、若い頃には、社会主義に傾倒するなど、多彩な顔をもった人物です。

 

ps. Dr.Kさんから、壺のニュウは、中に入っていた液体が凍って出来た可能性が高い、と教えていただきました。確かに、外部からの衝撃ではなく、内部からの力によってヒビが入ったとすると、この壺の不思議なニュウは納得がいきます。

 

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする