遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

素人修理で能管を蘇らせました

2024年03月24日 | 能楽ー実技

能管は、竹で出来ているので、非常にデリケートな楽器です。

天候、季節によって音色が左右されるのは当然としても、経年の劣化が頭痛の種です。竹の繊維がびっしりと走っていますから、長さ方向には強いのですが、横方向には弱い。したがって、ヒビや割れが生じやすいのです。ヒビ、割れは、笛には致命的です。調子が狂うだけでなく、極端に鳴らなくなってしまいます。

長 39.1㎝、径(最大) 2.3㎝。重 165g。

かなり以前に入手した能管です。

ヒビや割れが多くあります。

低い音は出るのですが、肝心の高音がうまく出ません。それで、ずっとほうってありました。

プロの笛師に依頼すれば何とかなるでしょうが、そこまでする価値があるかどうか・・・・・ 

思いきって、内側にジャージャーと水を流してみました。

サッと水を切り、吹いてみたところ ・・・・・

見事に鳴るではないですか

理由はわかりません。おそらく、微細な隙間に水が入り込んで、共鳴が起こりやすくなるのでしょう。

こんな禁じ手はご法度!?

実は、長く能楽囃子の名手として活躍された故F師も、国宝級の名管に水を流して吹かれたこともあったとか

この品、こりゃあ案外、ポテンシャルのある能管かも知れない・・・意を強くして、自分で修理をすることに決めました

あちこちに、割れがあります。

そこを、漆で埋めていきました。

細い割れ目でも、なかなか埋まりません。

磨きと塗りを繰り返す必要があります。

管尻は特に損傷が激しい。

まだ、埋め、塗りの途中です。

とりあえず、ひと乾きするまで待ちました。

歌口(吹口)の左奥に詰めた蜜蝋を補填。

頭金は、金の牡丹。

蝉の部分には、朱で銘らしきものが書かれています。

これはひょっとして、名管かもしれません

おそるおそる吹いてみたところ・・・・うん、これはいける。

やや細身の能管で、音量や迫力は少し物足りませんが、音の出しやすさは、これまで使ってきた十数本の能管の中でピカ一です。

「お調べ」を吹いてみました(下のYutube)。能が始まる直前に、楽屋から聞こえてくる囃子がお調べです。笛、大鼓、小鼓がそれぞれ短い試し演奏をして、調子を整えます。能の舞台は、ここから始まっているのです。しばらくして、囃子方が登場して配置につき、能が始まります。慣れてくれば、お調べを聞いて、その日の能舞台のおおよその出来具合(特に音楽的側面)を予想することができます。

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五年越し、能管「真の寝取り」が上がりました

2024年03月12日 | 能楽ー実技

コロナで、能もすっかりご無沙汰でした。

遅まきながら再開して半年、ようやく能管の難曲が上がりました。コロナでの中断があったとはいえ、五年もかかってしまいました。

「寝取り」とは、能楽の笛の特殊な奏法の一つです。「寝取り」には、「真の寝取り」、「恋の寝取り」などがあります。

今回の「真の寝取り」は、小鼓とともに演奏される場合は、「置鼓」ともよばれます。翁付の能や老女物の能の始まり、ワキの登場の場面で演奏されます。

笛方にとって、重い習い事で、いわば一子相伝の秘曲です。師匠と私とは、丁度、親子の年齢差、でも一子相伝の親と子が逆転しています(^^; 

素人の手におえる曲ではありませんし、何かにつけ形式や慣習を重んじる伝統芸能界では、たいそうな手続きが必要です。が、そこは能楽界のヌーベルバーグ(古い言葉(^^;)の師匠、先の知れている私に一花咲かせるとの心遣いなのでしょうか、とにかくやってみようということになりました。

始めてみると、さすがに難曲、まず息が続きません。拍子が無いようで有るようで、つかみどころがない。さらに、緩急や間のとり方が難しい。特殊な指使いはもとより、口使い(そんな言葉はないのですが)も忙しい・・・・何とかのりきり、今日を迎えました(^.^)

よかったら、Youtube聞いてみてください。

 

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竹製能管筒

2023年01月10日 | 能楽ー実技

今回は、能管筒です。これは、能管を保管するための品ではなく、能管を入れて腰に差し、能舞台に上がる物です。笛方は、舞台に座ると、この筒からおもむろに能管を取り出し、右ひざに立てて待ちます。目立ちませんが、結構重要なアイテムです。

似たような品が多いので、今回は代表的な3本をとりあげました。

まず、一番オーソドックスな能管筒(写真中央)です。

ボロボロになった笛袋に入っていました。袋からすると江戸期か?

口径 3.6㎝、底径 3.1㎝、長 39.1㎝。江戸?

ボディは紙です。黒漆を全体に塗り固めています。いわゆる一閑張(いっかんばり)です。金具が失われています。

かなり使い込まれ、口元の漆が剥げています。

筒底には、穴が開いています。

黒漆に、華麗な蒔絵をした物もあります。ぐっとお値段が上がります。

次の能管筒(写真左)は樹脂製です。

口径 3.7㎝、底径 3.3㎝、長 40.2㎝。昭和。

かなりしっかりとしています。その分、重い。

樹脂製の能管筒は、扱いやすいです。が、熱成型しただけの粗雑な造りの物が多いです。その中で、この品は、内部を削って整えてあり、塗りも本格的です。しかし、樹脂は樹脂(^^;

さて、今回のブログのメインはこの品(写真右)です。

口径 3.3㎝、底径 3.0㎝、長 39.8㎝。明治?

非常に珍しい能管筒です。特注品でしょう。

形は同じですが、通常の一閑張(紙ー黒漆製)ではなく、竹でできています。竹という素材は通常少しひしゃげていますが、この品はほぼ真円に内外を削って成形しています。竹の内側を丸く削るのは、かなりの技と手間が要る作業です。その結果、筒の厚さは非常に薄く、手で持っても竹であることを感じません。

底が節になっていて、やはり水抜きの穴が開いています。

竹の繊維が縦に走っているので、薄くても強度があります。

途中には、節を削った跡がみえます。

しかし、竹は横方向の力には弱い。経年の劣化で、割れ目ができています。私が漆で補修しました。イマイチ(^^;

ま、上品な蒔絵の方に自然と目が行くので、割れ目は目立たないでしょう(^.^)

こうやって、3種類を並べてみると、

竹製能管筒の風格が際立ちます。

手にするとさらに違いが実感できます。ふわりと軽い。

プラ製 159g、紙漆製 が83gに対して、この品は、わずか47gなのです。

竹は高いポテンシャルをもった素材ですね(^.^)

 

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祝ブログ4周年!『小鼓型蒔絵野弁当』

2023年01月08日 | 能楽ー実技

気が付いてみれば、Yahooブログ以来、4年が経ちました。相変わらずブログネタ探しに汲々しています。で、毎度のことですが、節目にはらしい物をと考え、浮かんだのがこの品です(賀状は予告編(^^;)

上径 20.1㎝、底径 20.2㎝、高 27.5㎝。江戸中期ー後期。

煌びやかな蒔絵が施された小鼓型の野弁当です。

普通の野弁当箱には、上部に把手がついていますが、今回の品はなにもありません。運搬用の箱が失われたのか、それとも、はじめから、お座敷用野弁当として作られたのかはわかりません。

四段重箱と取り皿5枚が組み込まれています。

 

幅 19.2㎝、奥行 17.1㎝、高 20.2㎝。

四段重、各箱の高さは、下から、6.0㎝、5.1㎝、4.4㎝、4.0㎝と順に小さくなっています。これまで多くの重箱を紹介してきましたが、これほどはっきりと大きさに違いのある品は初めてです。

一方、皿の方は、

幅 18.9㎝、奥行 16.8㎝、高 1.0㎝。

5枚とも同じ大きさです。

重箱の蓋の横(箱側面も)と皿の表には、金で似た模様が描かれています。

本体はどうでしょうか。

もちろん、木製ですが、本体の上面は小鼓の皮、側面は小鼓の胴の形になっていて、かなりリアルに漆蒔絵で小鼓が表現されています。

蒔絵は、すべて梨地です。

たとえば、本体の底面は、

 

金を主体に、銀が撒かれています。

本体の内側や皿の底は、

銀を主体に銀が撒かれています。

ハイライト部の小鼓胴は、

ギッシリと詰まった金が見事です。

似た品物が、シーボルトコレクションにありました(2016年展示)。

こちらの方は、把手が付いています。錫の徳利もついていますから、本当の野弁当箱です。大型にするため、鼓をもう一個増やしています。ですが、なぜか片一方の鼓胴は蒔絵がほどこされていません(写真では見えない)。手抜き?それとも仕様か?上部の鼓皮もリアルには描かれていません。小鼓道楽の遅生としては、今回の品をとりますね(^.^)

小鼓意匠を取り入れた当時の職人さんに敬意を表して、実際の小鼓と並べてみました。

左は、琵琶蒔絵小鼓(江戸中期)。

鼓の皮は、大きさも全く同じ。驚くほどの出来栄えですね(^.^)

 

 

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能管が増えました

2023年01月06日 | 能楽ー実技

竹花器のブログ紹介が一段落しました。他に、竹の物はないかと探したところ、灯台下暗し、能で使う笛、能管がありました。

コロナでぐずぐずしていて、謡だけでなく、小鼓と能管も一服状態が続いています。この二つの和楽器の演奏では、掛け声をかけたり、激しく息が飛んだりするので、コロナ下、単独で音を出すより仕方ないからです。したがって、大したことのない私の技量も足踏み状態(^^;

しかし、楽器だけならOKと勝手に自分に言い聞かせて、物色をしていました。その結果、あらたに能管を3本ゲット。コロナ下でも能管道楽の本領発揮といったところでしょうか(^.^)

この3本が、入手した能管です。以前のブログで、能管道楽、遅生の所蔵品、能管、5本を紹介しましたが、今回の品は、それらに勝るとも劣らぬ能管です。写真、下から順に紹介します。それぞれの特徴をもとに、適当な名称をつけました。

八割返し能管:

長 38.9㎝、最大径 2.2㎝、重 118g。

頭金は尖った金属。

この品は、竹をそのまま使った能管ではなく、竹を一度いくつか(八ッが多い)に割り、それを裏返して接着し、丸竹に作り直した材料を能管に仕立てています。

よく見ると、切り口には、八ッ割りの後が見えます。

吹いてみると、幅広い音域で素直に音が出ます。これは、八ッ割能管の特徴です。しかも、以前に能管道楽で紹介した八ッ割能管よりも力強い音です。八ッ割能管は作るのに手間がかかるため、通常の能管よりも高価です。が、この品はお値打ちにゲットすることができ、貧乏コレクターとしてはうれしい限りです(^.^)

金属補強能管:

長 39.2㎝、最大径 2.5㎝、重 145g。

通常の能管ですが、

下端が銀板で覆われています。

非常にきっちりと巻いてあり、継ぎ目もどこにあるかわからないほどです。能管は竹に少しでもヒビが入ると、全然音が出ません。それを金属で直したのでしょうか。しかし、このように覆うだけではヒビが入ったままなので、音は戻りません。すると、補強と装飾を兼ねた細工なのでしょうか。

このような品には初めて遭遇しました。鋭い音の出る能管です。

糸巻能管:

長 39.1㎝、最大径 2.7㎝、重 122g。

これといった特徴のない能管です。

しかも、歌口(吹き穴)の下側、口が当たる部分の塗りが剥げています。

巻きも、樺巻きではなく、チープな糸巻です。

うーん、これは駄品をつかまされたか(^^;

ということですが、

この3本を吹き比べてみると、最後に紹介した一番上の品が、抜群の音色なのです。多くの能管のように鋭い金属音ではなく、柔らかくまとわりつくような落ち着いた音色です。しかも、出し難い低音や高音も楽々と吹けてしまいます(私の技量でも(^^;)  これまで、10本以上の能管を吹いてきた能管道楽の私ですが、ついに、最良の伴侶をみつけたという次第です。

人と同じで、楽器も見かけによらないものですね(^.^)

 

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