能管は、竹で出来ているので、非常にデリケートな楽器です。
天候、季節によって音色が左右されるのは当然としても、経年の劣化が頭痛の種です。竹の繊維がびっしりと走っていますから、長さ方向には強いのですが、横方向には弱い。したがって、ヒビや割れが生じやすいのです。ヒビ、割れは、笛には致命的です。調子が狂うだけでなく、極端に鳴らなくなってしまいます。
長 39.1㎝、径(最大) 2.3㎝。重 165g。
かなり以前に入手した能管です。
ヒビや割れが多くあります。
低い音は出るのですが、肝心の高音がうまく出ません。それで、ずっとほうってありました。
プロの笛師に依頼すれば何とかなるでしょうが、そこまでする価値があるかどうか・・・・・
思いきって、内側にジャージャーと水を流してみました。
サッと水を切り、吹いてみたところ ・・・・・
見事に鳴るではないですか
理由はわかりません。おそらく、微細な隙間に水が入り込んで、共鳴が起こりやすくなるのでしょう。
こんな禁じ手はご法度!?
実は、長く能楽囃子の名手として活躍された故F師も、国宝級の名管に水を流して吹かれたこともあったとか
この品、こりゃあ案外、ポテンシャルのある能管かも知れない・・・意を強くして、自分で修理をすることに決めました
あちこちに、割れがあります。
そこを、漆で埋めていきました。
細い割れ目でも、なかなか埋まりません。
磨きと塗りを繰り返す必要があります。
管尻は特に損傷が激しい。
まだ、埋め、塗りの途中です。
とりあえず、ひと乾きするまで待ちました。
歌口(吹口)の左奥に詰めた蜜蝋を補填。
頭金は、金の牡丹。
蝉の部分には、朱で銘らしきものが書かれています。
これはひょっとして、名管かもしれません
おそるおそる吹いてみたところ・・・・うん、これはいける。
やや細身の能管で、音量や迫力は少し物足りませんが、音の出しやすさは、これまで使ってきた十数本の能管の中でピカ一です。
「お調べ」を吹いてみました(下のYutube)。能が始まる直前に、楽屋から聞こえてくる囃子がお調べです。笛、大鼓、小鼓がそれぞれ短い試し演奏をして、調子を整えます。能の舞台は、ここから始まっているのです。しばらくして、囃子方が登場して配置につき、能が始まります。慣れてくれば、お調べを聞いて、その日の能舞台のおおよその出来具合(特に音楽的側面)を予想することができます。