遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

鑑定本12 天野浩伊知『東洋陶磁鑑定の極意』

2024年10月11日 | 骨董本・雑誌

珍しい東洋陶磁器の真贋判定の書です。

天野浩伊知『東洋陶磁鑑定の極意』五月書房、1996年。

非常に上質の紙(アート紙?)に、鮮明な写真をふんだんに載せて、東洋陶磁器、とくに、中国陶磁器の鑑定の勘どころを述べています。
著者、天野浩伊知は、大手企業の役員をつとめるかたわら、東洋陶磁器の研究を重ね、平成元年、東洋古陶磁研究所を設立しました。
この本は、彼が数多の東洋古陶磁器を蒐集するなかで得た経験をもとに、書かれています。品物の多くは、一流骨董店や海外オークションを経て、入手された物です。
したがって、われわれビンボーコレクターには高嶺の花の名品ぞろいです。

その中で、ひょっとしたら出会うかもしれない品をいくつかピックアップし、鑑定の勘所を紹介します。

1.龍泉窯青磁浮牡丹不遊環瓶(元時代)(現代(韓国)製の品との写真対比)
◎勘どころ
一、仿作は形状・模様が本歌よりも美麗である。
一、仿作は土に鉄分が少なく、高台土見せの部分が白く上がるか、または人為的に赤く変色させてある。
一、仿作は青磁釉に気泡が少なく透明感が不足する。
一、本歌は高台ぎわ釉切れの部分に醤油を流したようなニジミを見せることが多いが、仿作にはこれがない。
一、多分、値段が安い。

2.漢緑釉陶
◎勘どころ
一、壷や皿類は、逆さにして焼いたもので(伏せ焼)、釉は底部から口縁部にゆくほど厚くかかり、口縁部に垂れて釉だまりをつくるものさえある。重ね焼きしている。
一、銀化が好まれるので、仿作は殆ど銀化されている。そのため、これで馬脚をあらわす。本歌の銀化はヘラでこするとミクロの金粉となってハラハラと散るものが多いが、 仿作の銀化は最初から白色の釉をかけて焼成したものだから、銀化が剥落することはない。
一、最近、小壷や家鴨の類で総銀化の仿作が出現し、それはそれは美しい。壺はちゃんと伏せ焼で、重ね焼きで、本歌さながらの見事な出来である。色は絵具の緑と白をまぜあわせた釉調で、輝きは鈍く、全面一様に銀化している。                             
一、本歌は水につけると、はげしい異臭を発する。しかし、異臭のないものはすべて仿作というわけではなく、わずかな例外はあり得る。

3.李朝瓶
◎勘どころ
一、光沢のニブイものに贋物多し。
一、雨漏りは仿作にも出せるので過信せぬこと。
一、高台の土がピンクのものに贋物なしとの言があるが、総じて正しい。
一、高台内の底面が、豆腐の表面のように柔らかい感じで、多少ムラのある手によいものが多い。ツルツルの石のように硬い感じの底にはご用心。
一、瑠璃の瓶は素文のものも陰刻模様のものも、本歌は、釉の掛けかたが無造作でムラが多い。

4.古染付
◎勘どころ
一、虫食い、唐傘、模様運筆の軽妙洒脱さ。
一、高台の作り方――――素焼きをしないで生掛け製作のため、土の柔らかいうちに高台まですっぽり釉薬をかけてから、土と釉を同時に削り取って高台を作るので、土見せの部分は、ヘラあとが見られ、釉はスッキリと切れがよい。
一、時代のあがる上手のもの―――土が極細でソフトな感じのもの。土がピンクがかるもの。呉須の良質のもの。裏に文様のある皿類では、その文様が大きいもの。三足の皿の場合は足ががっちりと太いもの。
一、古染付は人気が高いので、業界に「買う時は康熙染付、売る時は古染付」の言があり、何かと古染付へもってゆきたがる。しかし日本向けに作られた純粋の小染付は、他の明末清初の青花磁器とは雰囲気が異なるので、明確に区別せねばなるまい。虫喰いがあっても、唐傘があっても、古染付と呼べないものは多々ある。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鑑定本11 三杉敏隆『海のシルクロード』、岩波新書『真贋ものがたり』

2024年10月06日 | 骨董本・雑誌

今回は、中国古陶磁学者、三杉隆敏の著作、2冊です。


『海のシルクロード』恒文社、1976年。
岩波新書『真贋ものがたり』岩波書店、1996年。

三杉隆敏は、白鶴美術館、小原流芸術参考館などに勤務する傍ら、二十数回海外を歴訪し、世界中に散らばる中国美術品を調査しました。特に、トルコのトプカピ宮殿やイランのサライミュージアムにある中国陶磁器を詳細に調べ、中国焼物の海上交易史とも言うべき「海のシルクロード」を明らかにしました。
それをまとめたのが本書です。
副題には、「中国磁器の海上運輸と染付編年の研究」とあります。膨大な中国陶磁器(特に染付)や陶片の研究から、染付けの発生やその編年に関しても、元、明時代の陶磁器について、書かれています。
染付模様は、中心となる主模様と器の縁などに描かれる従属模様とに大別されます。この本では、主模様を、植物類、獣類、鳥類、魚類、象徴類に分けて、時代の特徴を記しています。

興味深いのは、従属模様です。三杉によると、従属模様は、時代とともにゆっくり変化するそうです。したがって、各時代の特徴を帯びやすいことになります。これを応用すれば、時代判定の有力な根拠となりうるわけです。

 

三杉隆敏 (岩波新書)『真贋ものがたり』岩波書店、1996年。


中国陶磁器の専門家、三杉隆敏のもう一つの本、『真贋ものがたり』(岩波書店、1996年)です。岩波新書でこのような本は珍しい。「「ほんもの」とにせもの、見極めの奥義」と帯にあります。内容は、第一章 埋もれた宝を求めて、第二章 贋物作りにかける情熱、第三章 社会を揺るがした真贋論争、第四章 真贋鑑定あれこれ、第五章 美術品とどうつきあうか、となっています。第一章では、沈没船からのお宝引き上げや盗掘について、第二章では、古今東西の贋物作りの背景とテクニックが、第三章では、永仁の壷事件や佐野乾山、正倉院御物の製作地論争などが記されています。贋物作りのテクニックでは、先回のブログで紹介した、和紙を2枚に剥ぐヒコーキとよく似たテクニックが紹介されています。著名人の葉書を二枚にめくって、表と裏を別々の品物に仕立て、本物を二つ作るのです。「ヒコーキ」に対して、こちらのテクニックは、「メクリ」の俗称がついています(^^; 他に、中国の竹細工品を煮込んで古作としたり、新しい緑釉壷にマニキュア液を施して銀化壷に変身させたりするなど、いろいろな技法が紹介されています。

第四章が、この本のハイライトです。真贋鑑定の奥義は、とにかく、「良い物をたくさん見る」ことにつきる、とのことです。と同時に、贋物もたくさん見る。そして、写真などで見ていた品物を、実物として目の前にしたとき、思っていたより大きく見える物は本物であると考えて良いとのことです。また、焼物では、形、重さ、模様などがチェックポイントとなります。焼物は焼成すると2割方縮みます。壷や瓶などでは、贋物の場合、肩の張出部分の計算がうまくいっておらず、真横から見ると、肩の部分が垂れ下がったり、上がり気味になり、本物のもつ緊張感がなくなります。模様に関しては、数多くの中国染付け磁器を見てきた著者ならではの意見が興味深いです。先述の本でも書かれているように、皿の従属模様は時代の様式を表しています。しかし、贋物作者は、中心部の主模様を描くのにエネルギーをとられ、周縁の従属模様は、つい、いい加減に描いてしまうらしい(^^;

本物と写しの問題は、古くからあります。でもそれは、マイナスのことばかりではありません。染付磁器の場合、世界史的にみれば、中国の名品に何とか迫ろうとして、必死でコピー品を作ってきた・・・その結果、技術の向上と広がりがもたらされたというのです。ベトナムの染付、日本の伊万里焼、ペルシャ、トルコ、エジプトの中国染付写し、さらには、ドイツのマイセン、オランダのデルフト、イギリスのチェルシーなどです。それどころか、本家の中国でさえ、いつの時代も、過去の名品を写すのにエネルギーをそそいできました。写しが、さらに新しい焼物を生み出す原動力となったわけです。
ただ、中国物を横に置き、限りなく本物に近くしようとした結果、多くの場合、きっちりし過ぎて堅苦しくなり、本物のもつ大らかな優美さがなくなってしまいます。本歌には、のんびりとした柔らかさやほのかな温かさが感じられるのに対して、写しの方は、堅苦しさが出てしまうのです。

以上の記述でもわかるように、この本は、類書にくらべれば、贋物(写し)に対して比較的寛容だという感想をもちました。佐野乾山論争についても、否定的な記述をしていません。また、大英博物館など、世界の美術館、博物館では、積極的に贋物を収集して研究を深めようとしているそうです。

著者は、本書を次のように締めくくっています。
本物と贋物には、虚栄や欲心など、人間の業のようなものが見え隠れするが、それらを含め、人間らしさの一面であり、人類の歴史を美術というフィルターを通して見つめなおした、という思いがある。
そして言います。
もしあなたがその品物を気に入っているのであれば、「ほんもの」「にせもの」の判断はあなたの心の中にこそあるのではないだろうか。

<岩波新書に誤りあり>
このように、本書は、中国陶磁器の研究家が、フィールドワークで得た豊富な経験、知識を基にして書き下した真贋物語です。贋作を機械的に切り捨てるのではなく、「贋」と「真」との関係を有機的にとらえ直して、そこから「真」を考えようとする姿勢は、新鮮で示唆に富んでいます。
しかし、そのような本にも誤りがありました。「第四章 真贋鑑定あれこれ」のなかの、「赤外線ランプによる判定」です。


よく知られた、ブラック・ランプ(ブラックライト) を用いる方法です。補修のために接着剤などの樹脂が使ってある品にブラック・ランプを照射すると、その場所が蛍光色に光るのです。でも、これは  赤外線ランプではありませんね。紫外線ランプです。
どうやら、単なるミスプリではないようです。著者も編集者も、赤外線ランプと思い込んでいたのですね。
赤外線をあてても、分子の運動が激しくなる(温度が上がる)だけで、光は放出されません。赤外線よりずっとエネルギーの大きな光、紫外線を照射したとき、紫外線を吸収した分子は不安定な励起状態に変化し、その後、元の状態(基底状態)に戻る時、光(エネルギー)を放出します。これが蛍光です。陶磁器や絵画の補修に用いられる材料の中には、そのような性質をもつ成分(分子)が含まれている場合があります(すべてではない)。
ちょうどこの本が書かれた頃、赤外線〇〇のような暖房器具が盛んに宣伝されていたので、おもわず、「赤外線ランプ」となってしまったのでしょうか(^.^)

コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鑑定本10 佐々木三味『骨董にせもの雑学ノート』(原著『書画・骨董 贋物がたり』)

2024年10月02日 | 骨董本・雑誌

今回の品は、もともとは、戦前に出され、その後絶版となり、幻の名著といわれていた本を、大澤晋之輔が校訂をくわえ、平成7年にダイヤモンド社から発刊された物です。

 佐々木三味『骨董にせもの雑学ノート』ダイヤモンド社、1995年(原著『書画・骨董 贋物がたり』河原書店、昭和12年)。

かつては、骨董入門者必読の書として、骨董業界の若い人たちが回し読みしてきたといわれています。
著者の佐々木三味は、明治26年生れの茶道研究家、雑誌『茶道』を主宰し、茶界の世話人として長く活躍しました。彼は、骨董の売買に直接かかわることがなかったので、骨董界の裏事情を忌憚なく書物に書けたわけです。
この本には、贋物造りのテクニックがこれでもかというくらい出てきます。


内容は、書画の巻と焼きものの巻が全体の半分を占め、さらに、茶道具の巻、蒔絵の巻、金物の巻、古箱の巻、鑑定の巻と続きます。


書画では、まず、偽筆が挙げられます。著名人の作風を非常にうまくとらえ、偽作をつくるのです。有名な所では、良寛や頼山陽、太田蜀山人、貫名海屋、富岡鉄斎などです。頼山陽については、江州長浜の痴龍という人物が書く三陽の書は、玄人でも区別できなかったといいます。なかには、作者公認の偽筆(代筆?)もいたというから驚きです。
それから、変わったテクニックとして、書かれた作品を、2枚に剥ぐ手法があります。一枚の和紙は、案外簡単に2枚になるのだそうです。少し薄いですが、全く同じ物が出来上がります。これは、俗にいうヒコーキですね。飛行機が着陸する時、下に影が出来て、あたかも2台あるかのように見えることになぞらえたのでしょう。
焼きものについては、実にさまざまなテクニックが披露されています。
まず、雨漏りとよばれ賞玩されるシミは、お歯黒や酢を塗って火にあぶる。ただ、この方法では黒みが強く、薄紫色の本物の茶シュミに及びません。明末磁器の縁にできる虫食いは、上釉に用いる日の岡石のなかへ白玉粉を少し入れて焼きます。焼きあがった後、棒でコンコン叩くと、上釉がボロボロとこぼれ落ちて虫食いができるのです。茶碗の高台付近に出る鮫肌のようなブツブツはカイラギとよばれ珍重されますが、人口でカイラギを出すには、脂肪質の物を塗って上釉を掛け、焼成すればいいから簡単です。
漆の塗物で、数百年経った品にみられる断紋を手っ取り早く出すには、生地にモミ紙を張ってから漆を塗る。すると、絞りのある部分がぼこぼこ浮いて、表面に亀裂ができます。
銅器に時代をつけるには、希薄な硝酸を塗って、土に埋めておく。あるいは、汲み取り式便所の近くの土に埋めておく。上手い具合に緑青が吹いて、時代物に変化します。

贋物作りの裏話しは、まだまだ続きますが、著者の意図は贋物作者に知恵をさずけることではありません。贋物作りのあれこれを書くことによって、読者に真作の見方を教えているのです。

本書の序には、著者の意図が良く表されていると思います。

                序
 本書を目して罪悪の書となすか。
        そは贋物の製法を教ゆればなり。
 本書を目して虚構の書となすか。
         そは偽作者が自己弁護の遁辞のみ。
 本書を目して惨酷の書となすか。
         そは不正奸商が最後の悲鳴に外ならず。
                 本書の用は知る人ぞ知る、
                 敢てこれ世に問ふ所なり。
                                 ――著者――

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鑑定本9 中島信義『鑑定秘訣 美術類集』(明治28年)

2024年09月26日 | 骨董本・雑誌

今回は、明治時代の鑑定本です。

中島信義『鑑定秘訣 美術類集』青木嵩山堂、明治二十八年九月。

小さな和綴本(18x12.5㎝、厚1.5㎝)です。

上下、2巻ですが、今回の品は上巻のみです。

詳細に調べたことは無いのですが、明治に発行されたこの本が、いわゆる鑑定本の嚆矢ではないかと思います。

江戸時代、落款印譜集は発刊されていましたが、鑑定は、本阿弥家や古筆家などの職業鑑定人が行っていたので、鑑定のノウハウを明かすような本は出されませんでした。

明治に入って、骨董に関する雑誌が発行されるとともに、このような鑑定本が出されたのでしょう。

上下巻の目次を載せておきます。上巻は陶磁器、下巻は古鏡、銅像などの古銅や木彫などを扱っています。

上巻の陶磁器では、伊万里焼(石焼)、九谷焼(土焼)、薩摩焼(ヒビ焼)と雲鶴茶碗、呉須赤絵鉢、交趾焼など和漢の名品36品について書かれています。

鑑定秘訣 美術類集
(上巻)
  陶器之事

一 石焼染付并二赤絵 肥前伊万里
一 土焼赤絵 加賀九谷焼
一 ヒビ焼之一種 薩摩焼

  和漢陶器参考雑種之部
一 雲鶴茶碗
一 黄天目茶碗
一 人形手青磁茶盌
一 乾山 茶盌
一 珠光青磁茶盌
一 黄瀬尾葵紋茶盌
一 宋胡禄柿香合
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・

(下巻)
  古銅之事
花瓶之部
一 古銅花瓶之形
一 青銅
一 古銅花瓶中古之形
・・・・・・・・
 古鏡之部
一 古鏡 裏模様説明
・・・・・・・・
・・・・・・・・
 鰐口之部
・・・・・・・・
 鈴の部
・・・・・・・・
 銅像之部
・・・・・・・・
・・・・・・・・
 和漢古代之木彫及蝋石彫刻の部
・・・・・・・・
・・・・・・・・

そのうちの一部、呉須赤絵鉢と祥瑞皿の部分は以下です。

せっかくですので、伊万里焼についての記述を載せておきます。   

 染付并二赤絵 時代鑑定之模範
   肥前伊万里
一 爰に顕すところの咄しハ肥前の伊万里焼にして人のよく知る焼物の
名所なれども此の土地に焼きしものハ何れも染付又ハ赤絵の錦手を出
すと云を知るに止まるのミ故に古伊万里の地薬及高臺又絲底の工
合を図して其製造の二三を左にしるしぬ
  最初造りたるもの皿鉢共に
  此の高臺の形なるべし

      甲
此の分地質(きじ)薄くして薬厚し

     乙
此の分地質(きじ)厚くして薬薄し

        順次底の形を変じて
        此の様を切るに至れり

           丙
此分地質薬ともに厚し

此ハ萬歴にある形に如何にも紛らハしき所あれとも
萬歴にハ天王日月の如き模様あり此ハ外に西遊
         記の模様あり中の見込にハ
            古代の龍を画がけり
この形ハ
(丙)の図
なるもの
同時位
に出来
たるものなり
呉須色薄し赤色
中分青黄えんじ
金とも施しあり
          菊形のものハ
     深鉢とも(丙)の
     図より時代遅
     れのものなり
          呉須色ハ上の品
     より濃し赤も
          又同し
                         此の形しハ菊形
                           より今少し新し
              きものにて菊形
                           と同しく呉須色
              濃くして赤も色の
              極めて深きものなり

一染付とハ素焼をしたるものへ呉須にて模様を画書きて上ハ薬を掛るも
のなり呉須ハ尤種類の多きものにて所々山より掘採もあり石を割り
て中より取出すもあるものになるが伊万里焼ハ元山に呉須出てたると
のことなり左もありなん古伊万里なるものの染付色を見るに藍色さ
へず幾分黒ずミたるを見れハ地呉須用ひたるものに相違なしと察
するところなり是が若し唐呉須をつかひしものなれバ藍色さへて薄
く奇麗に見ゆるものなり中古のものに至りてハ藍色薄くほんのりと
してさへたるものあり此等ハ地呉須に唐呉須を割りたるものと云の
説あり
一上薬元山より掘取たる石を製して掛けたるもの故薬ハ柔和に見得て
厚くかゝれるものなり中古に到りて上薬へ天艸を交たる薬りを掛る
により自然薬ハ薄くなりて品位を乏くする所あり此を趣き少なくな

ると云ふ意にして俗に流れるを憂ひ其後に到り又薬を厚くしたるも
のなり
最初の薬ハ極めて色さへず
厚くして柔らかなり中右ハ
色さへて薬薄く其後に至り
て薬の色又もとに復すれども
売刷りの肌何となく縮める心持
あり此頃に至りて呉須色さ
へず薄黒く見得る藍色とな
りたるハ地呉須のミを用る
ことになりたるものと見るべし

            此の形ある平鉢ハ中古の内最新のものなり明末に
      此形のものあるにより形のミ模したるものと知るべし

      此の形なるものハ
      八角形よりも今
      少し新しきものなり

一赤絵ハ其絵の具の赤き者を称して単に赤と云ひ緑青色のもの
を青と云ひ倣らハせたるものにして赤なるものハ紅柄及唐の土又白玉
とて所謂「ガラス粉種類のものなり其他日の岡なと云ふ石粉を入れ此
を乳鉢に入れて数カ月擦りたるものなり聞所によれバ古伊万里に施
しある赤い艶なくして薬の薄きと色のさへぬハ其頃白玉粉の上質に
乏しきが為多分にハ加へざるものなるやと云説あり中古に至りて稍
艶あるものを焼出せり其後ハ赤なるもの薬厚となり其敷ハ高く盛上
れたるものあるハ此尤白玉粉を充分に加へたるものと知るべし
青薬ハ尤白玉粉を多量に入たるものと云ことにて盛上りて就中艶あ
り古伊万里の青薬ハ真の艸葉色なり中頃のものハ萌黄又ハ鸚鵡緑り
なる色あり其後の色にも種々に変したることあれども色あい鄙して
真の青色なるもの多し

黄薬ハ唐の土配合に黄色を見せたるものと云ことにて青薬より比
較してハ艶聊少なく盛上りもまた此に随がへり色合も何となくさへず趣
あり中古ハ唐白目の配合と云ことにて色もさへ艶もありて如何にも奇
〇になりたるハ次第に趣を失ふもとなり故に其後ハ一層甚しきもの
のミ多し
燕児薬ハ金の配合にて其色を見せたるものとあり極めて古き所ハ桃
色なり中古のものハ聊紫色を帯び其後ハ色野鄙にして紫に近きもの
なり
金ハ摺り金の合せ金とて古き品より近世のものに至る迄同様に見得
るものなれども古き物ハ金色濃し中古より次第に色薄となり白光
するものあり
染付錦手の時代ハ絵の具により見るの外なし
染付模様型費によりて時代を見るハ否なり古き品に西遊記の模様あれ
ハ中古にも其模様を寫して画がくことあり中古に花籠手又ハ散桜な
るものあれバ最新の物に其寫しあるを見しにより染付模様によりて
目利するものにあらず一に薬の地合二絵の具の色と艶とによるの
外なきものと知るべし

 

 

コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鑑定本8 お金と骨董の本、5冊

2024年09月23日 | 骨董本・雑誌

今回は、お金と骨董との関係を扱った本、5冊です。

杉江唐一『しろうと骨董実用ガイド』、加藤孝次『骨董経済学』、光芸出版編『骨董買いウラ話』、光芸出版編『骨董・アンチック価格図鑑』、渓水社篇『浮世絵価格事典』。

杉江唐一『しろうと骨董実用ガイド』啓明書房、昭和63年。

サラリーマン蒐集家を自認する著者が、その体験をもとに、しろうとのために書いた本です。『美と用と利 しろうと骨董実用ガイド』のタイトルにあるように、美と用と利から、骨董案内をしてくれます。特に、「利」について書かれているのが、この種の本としては珍しい。

加藤孝次『骨董経済学』秋元書房、昭和46年。

タイトルに、『〈買い方と売り方のコツ〉骨董経済学』とあるように、例を多く挙げて、骨董品の売り、買いのコツを実践的に述べています。扱われている品は、陶磁器とガラスが主ですが、漆器や古経切にまで話しは及んでいます。著者は有名なガラスコレクターなので、ガラス製品についての内容が充実しています。

光芸出版編『骨董買いウラ話』光芸出版、昭和57年。

タイトルに、『プロ・アマ体験集 骨董買いウラ話』とあるように、プロ、アマを問わず、骨董の買いの失敗談、裏話しを集大成したものです。有名な骨董店主から、市井の骨董愛好家まで、生々しい滑稽談がこれでもかというくらい載っています。書画、陶磁器から、漆工芸、木工品、ガラス、刀剣まで、よくぞこれほどと思えるくらい、手を変え品を変えて、贋物が横行しているのですね。

光芸出版編『骨董・アンチック価格図鑑』光芸出版、昭和58年。

非常に多くの骨董品(1000点ほど)について、写真と価格が載っています。品物は、陶磁器、ガラス、民具、文具、仏像など多岐多様です。また、人形やアクセサリーなど西洋アンティークも価格が載っています。いわゆる名品などではなく、我々にも手が届きやすい物ばかりです。どこかで見かけた気がする品物が多いです。どうやら、当時、東京にあった骨董ビルの品がまとめられているようでした。この時代に発行された本にしては、写真がかなりクリアーです(紙が良い)。

渓水社篇『浮世絵価格事典』光芸出版、昭和53年。

価格評価が難しい書画・骨董のなかでも、浮世絵は特別ではないでしょうか。同じ作者であっても、出来、図柄、刷り、保存状態によって、非常に大きく価格が異なるからです。この本では、皆目見当がつかない浮世絵の相場の目安を、作者、あいうえお順に記しています。それにしても多くの浮世絵作者がいるものです。この本には、数百人載っています。そのほとんどが、初めて目にする人です。浮世絵の世界も広く深いのですね。

我々ビンボーコレクターにとって、最初から最後までつきまとうのがお金の問題です。右も左もわからない駆け出しの頃は、こういう類の本を、それこそ藁をもつかむ気持ちで読み漁りました。で、何十年かたって読み返してみると・・・・・今も新鮮・・・お金と骨董の問題は、永遠に不滅です(^.^)

コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする