珍しい東洋陶磁器の真贋判定の書です。
天野浩伊知『東洋陶磁鑑定の極意』五月書房、1996年。
非常に上質の紙(アート紙?)に、鮮明な写真をふんだんに載せて、東洋陶磁器、とくに、中国陶磁器の鑑定の勘どころを述べています。
著者、天野浩伊知は、大手企業の役員をつとめるかたわら、東洋陶磁器の研究を重ね、平成元年、東洋古陶磁研究所を設立しました。
この本は、彼が数多の東洋古陶磁器を蒐集するなかで得た経験をもとに、書かれています。品物の多くは、一流骨董店や海外オークションを経て、入手された物です。
したがって、われわれビンボーコレクターには高嶺の花の名品ぞろいです。
その中で、ひょっとしたら出会うかもしれない品をいくつかピックアップし、鑑定の勘所を紹介します。
1.龍泉窯青磁浮牡丹不遊環瓶(元時代)(現代(韓国)製の品との写真対比)
◎勘どころ
一、仿作は形状・模様が本歌よりも美麗である。
一、仿作は土に鉄分が少なく、高台土見せの部分が白く上がるか、または人為的に赤く変色させてある。
一、仿作は青磁釉に気泡が少なく透明感が不足する。
一、本歌は高台ぎわ釉切れの部分に醤油を流したようなニジミを見せることが多いが、仿作にはこれがない。
一、多分、値段が安い。
2.漢緑釉陶
◎勘どころ
一、壷や皿類は、逆さにして焼いたもので(伏せ焼)、釉は底部から口縁部にゆくほど厚くかかり、口縁部に垂れて釉だまりをつくるものさえある。重ね焼きしている。
一、銀化が好まれるので、仿作は殆ど銀化されている。そのため、これで馬脚をあらわす。本歌の銀化はヘラでこするとミクロの金粉となってハラハラと散るものが多いが、 仿作の銀化は最初から白色の釉をかけて焼成したものだから、銀化が剥落することはない。
一、最近、小壷や家鴨の類で総銀化の仿作が出現し、それはそれは美しい。壺はちゃんと伏せ焼で、重ね焼きで、本歌さながらの見事な出来である。色は絵具の緑と白をまぜあわせた釉調で、輝きは鈍く、全面一様に銀化している。
一、本歌は水につけると、はげしい異臭を発する。しかし、異臭のないものはすべて仿作というわけではなく、わずかな例外はあり得る。
3.李朝瓶
◎勘どころ
一、光沢のニブイものに贋物多し。
一、雨漏りは仿作にも出せるので過信せぬこと。
一、高台の土がピンクのものに贋物なしとの言があるが、総じて正しい。
一、高台内の底面が、豆腐の表面のように柔らかい感じで、多少ムラのある手によいものが多い。ツルツルの石のように硬い感じの底にはご用心。
一、瑠璃の瓶は素文のものも陰刻模様のものも、本歌は、釉の掛けかたが無造作でムラが多い。
4.古染付
◎勘どころ
一、虫食い、唐傘、模様運筆の軽妙洒脱さ。
一、高台の作り方――――素焼きをしないで生掛け製作のため、土の柔らかいうちに高台まですっぽり釉薬をかけてから、土と釉を同時に削り取って高台を作るので、土見せの部分は、ヘラあとが見られ、釉はスッキリと切れがよい。
一、時代のあがる上手のもの―――土が極細でソフトな感じのもの。土がピンクがかるもの。呉須の良質のもの。裏に文様のある皿類では、その文様が大きいもの。三足の皿の場合は足ががっちりと太いもの。
一、古染付は人気が高いので、業界に「買う時は康熙染付、売る時は古染付」の言があり、何かと古染付へもってゆきたがる。しかし日本向けに作られた純粋の小染付は、他の明末清初の青花磁器とは雰囲気が異なるので、明確に区別せねばなるまい。虫喰いがあっても、唐傘があっても、古染付と呼べないものは多々ある。