冬の京都は底冷えという表現がぴったりで芯から冷える。にも拘らず京都出町座は満席だった。この作品が第71回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したこと、三つの物語からなる短編集であることなど話題性があった。
偶然をテーマにした物語は一つの作品の上映時間が約40分程。ちょうどドラマを1本見る長さである。第一話は「魔法(よりもっと不確か)」。タクシーの中で仲の良いつぐみ(玄理)から最近出会った男性の話を聞かされたモデルの芽衣子(古川琴音)は、その男性が自分の元彼カズ(中島歩)であると気づきある行動を起こす。第二話は「扉は開けたままで」。作家で大学教授の瀬川(渋川清彦)に単位取得を認められず就職内定が取消しになったゼミ生の佐々木(甲斐翔真)が、同級生の奈緒(森郁月)を利用して瀬川とのスキャンダルを起こさせようとする。奈緒は瀬川を誘惑するが…。第三話は「もう一度」。高校の同窓会に参加するため地元へ戻って来た夏子(占部房子)は、駅のエスカレーターで偶然学生時代に交際していた女性とすれ違う。二人は20年ぶりの再会に興奮し、あや(河井青葉)の自宅へ向かい思い出話で盛りあがる。
日常生活の中で起こる単なる偶然を必然にかえて私達は物語を紡いでいる。偶然の出来事に意味を持たせることで人生のストーリーを作りあげていく。しかし第二話では偶然は想像の域をこえて思わぬ方向にいく。奈緒が瀬川との録音データを送信する時に佐川急便の配達があり、夫や子どものはやしたてる声に煽られ瀬川を佐川と打ち間違えてしまう。誘惑に動じない瀬川の強い意志により奈緒が自分の人生を見つめ直すかに見えたが、そういう展開にはならなかった。
第一話では芽衣子が二人の前から立ち去るという肩すかしにあい、第二話では思わぬ展開に唖然とし、第三話では赤の他人という元々成立していない関係から物語が立ちあがる様子に、不思議な感動を覚える。この作品はフィクションである映画を観るという体験に想像の域をこえた新たな視点を与えてくれる。
冒頭から映像が鮮明で画面が引き締っている。シューマンの「子どもの情景」が軽快に流れる。俳優達が各々に役にはまっていて魅力的だ。なかでも渋川清彦が秀逸。研究室で奈緒が彼の小説を朗読しながら意図的にドアを閉める。そのドアをそっと開けにいく姿に何ともいえない可笑しみがある。まさに緊張と緩和を彷彿とさせる場面だ。他にも思わず笑いがこみあげる箇所があり、作品にはコメディ要素がちりばめられている。
映画を観終わってフロアに出た時、そこに佇む一人の人物の姿に足が止まる。私の記憶のなかに住む人物だが誰だかわからない。振りきって帰ろうとしたが後ろ髪がひかれるとはこのことだ。名前もそもそも関係性すらわからない。思いきって近づき「あの…」と恐る恐る声をかけた。場外で「偶然と想像」の第四話が始まろうとしていた。(春雷)
監督・脚本:濱口竜介
撮影:飯岡幸子
出演:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉
偶然をテーマにした物語は一つの作品の上映時間が約40分程。ちょうどドラマを1本見る長さである。第一話は「魔法(よりもっと不確か)」。タクシーの中で仲の良いつぐみ(玄理)から最近出会った男性の話を聞かされたモデルの芽衣子(古川琴音)は、その男性が自分の元彼カズ(中島歩)であると気づきある行動を起こす。第二話は「扉は開けたままで」。作家で大学教授の瀬川(渋川清彦)に単位取得を認められず就職内定が取消しになったゼミ生の佐々木(甲斐翔真)が、同級生の奈緒(森郁月)を利用して瀬川とのスキャンダルを起こさせようとする。奈緒は瀬川を誘惑するが…。第三話は「もう一度」。高校の同窓会に参加するため地元へ戻って来た夏子(占部房子)は、駅のエスカレーターで偶然学生時代に交際していた女性とすれ違う。二人は20年ぶりの再会に興奮し、あや(河井青葉)の自宅へ向かい思い出話で盛りあがる。
日常生活の中で起こる単なる偶然を必然にかえて私達は物語を紡いでいる。偶然の出来事に意味を持たせることで人生のストーリーを作りあげていく。しかし第二話では偶然は想像の域をこえて思わぬ方向にいく。奈緒が瀬川との録音データを送信する時に佐川急便の配達があり、夫や子どものはやしたてる声に煽られ瀬川を佐川と打ち間違えてしまう。誘惑に動じない瀬川の強い意志により奈緒が自分の人生を見つめ直すかに見えたが、そういう展開にはならなかった。
第一話では芽衣子が二人の前から立ち去るという肩すかしにあい、第二話では思わぬ展開に唖然とし、第三話では赤の他人という元々成立していない関係から物語が立ちあがる様子に、不思議な感動を覚える。この作品はフィクションである映画を観るという体験に想像の域をこえた新たな視点を与えてくれる。
冒頭から映像が鮮明で画面が引き締っている。シューマンの「子どもの情景」が軽快に流れる。俳優達が各々に役にはまっていて魅力的だ。なかでも渋川清彦が秀逸。研究室で奈緒が彼の小説を朗読しながら意図的にドアを閉める。そのドアをそっと開けにいく姿に何ともいえない可笑しみがある。まさに緊張と緩和を彷彿とさせる場面だ。他にも思わず笑いがこみあげる箇所があり、作品にはコメディ要素がちりばめられている。
映画を観終わってフロアに出た時、そこに佇む一人の人物の姿に足が止まる。私の記憶のなかに住む人物だが誰だかわからない。振りきって帰ろうとしたが後ろ髪がひかれるとはこのことだ。名前もそもそも関係性すらわからない。思いきって近づき「あの…」と恐る恐る声をかけた。場外で「偶然と想像」の第四話が始まろうとしていた。(春雷)
監督・脚本:濱口竜介
撮影:飯岡幸子
出演:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉
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