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「海の沈黙」(2024年 日本映画)

2024年12月04日 | 映画の感想・批評
世界的な画伯田村(石坂浩二)の大々的な回顧展で、一作品が贋作であると画家自身が言い出す。主催者などからはその発表を止められるが、本人が事実を公にしてしまう。その結果、「贋作を市の美術館に高額で買わせた」と汚名をきせられた画商は自死を選んでしまう。そこからこの話が始まる。サスペンスのようだが田村画伯の贋作の犯人はすぐにわかる。周囲から語られるばかりで、その人、津山竜次(本木雅弘)はなかなか登場しない。
田村、津山、田村の妻安奈(小泉今日子)は芸大時代の同期。津山と安奈はかつて恋人同士であった。津山が師である安奈の父の作品に上書きするという事件を起こし、画壇から追放され、今は贋作制作でインターポールからも手配される身。安奈は小樽に潜んでいる津村に会いに行く・・・・・。

配役の実年齢からくる人間関係の不整合さは残念。石坂と本木が師弟関係にしか見えなくて、話に入りづらい。中井貴一が「番頭」として津山に献身的に仕えるのもわかりにくいが贋作を描かせて儲けていたからなのだろう。ただ彼の料理はおいしそうだった。津山のもう一つの仕事である刺青の彫り師、清水美沙の役どころなどなど、?もいっぱい。

安奈の創るろうそくに描かれる顔、病の床につく津山の横で、まさしく涙を流すようにロウが溶け出てくるシーンにはしびれた。本題の絵画以外の小道具にも引き付けられる。本題の絵画は圧巻だ。幼い津山が、荒れ狂う海から戻る両親の為に焚く迎え火、それを海から見つめる幻想のシーン。ようやくその色をキャンバスに描き出し、津山は絶命する。冒頭の田村が回顧展で贋作と自身が判断した作品も素晴らしかった。

「美は美であってそれ以上でもそれ以下でもない」
私自身は美術を鑑賞するしか能のない人間なので、創作者の苦悩は想像だにできないが、これが本作の一番のテーマなのかと、そこは大いに共鳴できた。
大家である田村が贋作を「自分には出せない色、敗北として認める潔さ」も、ある種の心地よさがある。しかし、周囲は大混乱に陥り、死者までだしてしまうのだから、恐ろしい世界だ。

脚本家の巨匠倉本聰が長年にわたって構想した物語、同期デビューの本木雅弘と小泉今日子の共演というのも大きな話題、宣伝になっていた。
事前にチラ見したキネノートレビューに、「倉本聰版の幻の湖か」とあり、「え、これは失敗作なのか?」と逆に興味もわいた。
体調不良の身で観るレイトショー、それでも寝落ちすることなく引き込まれたのはさすが。
滋賀が舞台の「幻の湖」(橋本忍監督、脚本作品、1982年)、よくわからない映画だったなあ。私の見方がおかしかったのではなかったのだと、そっちをまず納得。

清水美沙がロシア風バーで飲むカクテル。砂糖が一つまみ載ったレモンのスライスをほうばり、ブランデーを一気に飲む!お酒とはまったく縁がないけれど、とてもカッコよくて憧れる。あとで調べたら「ニコラシカ」というショートドリンクらしい。
バラライカの生演奏が流れるお店、いかにも北海道、小樽のイメージ。この設定だけでも、十分に大人の世界、昭和のにおいの濃厚な映画だった。
(アロママ)

監督;若松節朗
脚本:倉本聰
撮影:蔦井孝洋
出演:本木雅弘、小泉今日子、石坂浩二、中井貴一、清水美沙


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