ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

補足(子宮頸がん予防ワクチンについて)

2007年06月11日 | 婦人科腫瘍

コメント(私見):

米国でも子宮頸がんが原因で毎年3700人が死亡していることから、全米で約20州が、十代の女性への子宮頸がん予防ワクチン接種を義務化することを検討しているとのことです。しかし、『若年層の性行為を助長する』などの批判もあって、ワクチン接種義務化に関して米国で大きな論争になっているそうです。

ワクチン接種の費用が約360ドルと高価なことも問題のようです。また、開発されたばかりのワクチンなので、副作用や免疫持続期間などに関するデータがまだ多く得られてないのも問題です。

現在、米国で承認されている子宮頸がん予防ワクチンは、米国メルク社製の「ガーダシル」のみで、HPV16、HPV18に対する感染予防効果が認められています。それに対し、最近、オーストラリアで初めて承認された英国グラクソ・スミスクライン社製の「サーバリックス」だと、HPV16、HPV18以外の高リスクHPVに対する感染予防効果も認められ、免疫持続期間も長いというようなデータが得られているそうです(日本臨床細胞学会ランチョンセミナー、金沢大学・井上教授)。今後、「サーバリックス」の方も世界各国で承認されることになるでしょうし、製薬会社間の激しいシェア争いが世界中で展開されることになるのかもしれません。

日本でも、十代後半の若者のクラミジア感染症の急増が問題となっています。十代後半で子宮頚部細胞診で異常がみつかる者も少なくないです。子宮頸がん予防ワクチンは、HPVに曝露される前に接種する必要があるので、ワクチン接種を義務化するのであれば、接種時期は十代前半でないと意味がないかもしれません。日本でも、近い将来、このワクチンの接種を義務化するかどうか?に関して論争になるかもしれません。

この子宮頸がん予防ワクチンの接種は、将来的な戦略として、次世代での子宮頸がんの発生率を減らそうという試みです。すでに現在がん年齢に達している人たちの場合は、毎年、子宮頸がん検診(細胞診検査)を受診していく必要があります。

参考:子宮頸がん予防ワクチンについて

****** 産経新聞、2007年4月4日

子宮頸がんワクチン、10代に義務付け 性行為助長と米で論争

 【ニューヨーク=長戸雅子】性感染症を主因とする子宮頸(けい)がんの予防接種を、女子生徒に義務付けることの適否をめぐる論争が、米国で続いている。米医薬品大手が開発した初の子宮頸がん予防ワクチンの効果が期待される一方、接種義務年齢を10代としたため、「若年層の性行為を助長する」という批判を呼んだためだ。副作用を懸念する声もあり、各州で始まった接種を義務づける動きは、ここに来て足踏み状態となっている。

 このワクチンはメルク社製の「ガーダシル」(対象年齢は9歳から26歳)。女性がかかりやすい子宮頸がんの発症原因の70%を占めるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防に特化した機能を持つ。同社が行った臨床実験でほぼ100%の予防効果が得られたとして、昨年6月、申請から半年足らずで米食品医薬品局(FDA)にスピード承認された。

 HPVは主に性行為で感染する。米疾病対策センター(CDC)によると、HPVには米国内で毎年620万人が感染するとされる。一方、毎年新たに約9700人が子宮頸がんと診断され、3700人が死亡している。

 こうした現状にもかかわらず、保護者らが反発したのは、多くの州がワクチン接種を10代に義務付けようとしたためだ。「予防ができたと不適切な性行為容認につながりかねない」「親の監督権を侵害している」とする意見が続出した。

 なかでも女子中学生への接種を義務付けたテキサス州では、ペリー州知事に対し州議会が、知事命令を無効とする法案を提出。加えてペリー知事の元側近がメルク社のロビー活動をしていることも不信を呼び、知事は支持基盤の保守層から連日、抗議を受けている。

 一方、メルク社は2004年に、当時の主力商品、関節炎鎮痛剤バイオックスの副作用問題で、同剤の販売を中止したことがある。今回のガーダシルについても「3年の臨床検査期間では免疫がどれぐらい継続し、長期的なリスクがあるかどうかについての治験が得られない」と、副作用を懸念する声は根強い。

 ワクチンの効果を得るには3回の接種が必要で、費用も約360ドルに上ることも、接種義務化の動きを阻んでいる。

 現在、全米で約20州が接種義務化を検討中だが、フロリダ州では、共和党議員の強い反対で提案者の民主党議員が年内の法案審議を断念した。医学と倫理の問題に政治的思惑も絡んで、事態はさらに複雑化している。

(産経新聞、2007年4月4日)