ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

親拒んでも15歳未満輸血、信仰より救命優先…学会指針案

2007年06月25日 | 医療全般

コメント(私見):

「エホバの証人」の信者への輸血についての関連5学会の従来の指針では、『18歳以上の患者の場合は、(親の意思に関わりなく、)本人の意思を尊重する。12歳未満の患者の場合は、(本人、親の意思に関わりなく、)救命を優先する。』とされ、12~17歳の患者に対しての対応策は示されていませんでした。

今回、12歳~17歳の患者に対する学会としての対応策の素案が示されました。すなわち、

『15~17歳の患者については、本人と親の双方が拒めば輸血は行わないが、それ以外の場合は輸血を行う。15歳未満の患者の場合は、(信者である親が拒んでも)治療上の必要があれば輸血を行う。18歳以上の患者の場合は、従来通り、本人の意思を尊重する。』 

年内にも、関連5学会の共通指針としてまとめられる予定とのことです。

医療現場で緊急の輸血が必要となるような場合には、患者さん本人は出血性ショックで意識がない場合もあるし、その場にいる御家族の中にもいろいろな意見があって、直ちに輸血を行うかどうか?の意思決定を迫られ、非常に緊迫した状況となります。医療現場の判断で、どのように治療方針を決定したとしても、後に各方面から問題視される可能性があります。12~17歳の患者に対する方針が一律にはっきりと示されてないと、医療現場では非常に困る場合もあり得ますので、公式のルールを一律に決めておく必要があります。従って、この件についての関連5学会の公式ガイドラインを早急にまとめていただきたいと思います。

参考:

妊婦が輸血拒否で死亡 「エホバの証人」信者

****** 読売新聞、2007年6月24日

親拒んでも15歳未満輸血、信仰より救命優先…学会指針案

 信仰上の理由で輸血を拒否する「エホバの証人」信者への輸血について、日本輸血・細胞治療学会など関連5学会の合同委員会(座長=大戸斉・福島県立医大教授)は、15歳未満の患者に対しては、信者である親が拒否しても救命を優先して輸血を行うとする指針の素案をまとめた。

 「信教の自由」と「生命の尊重」のどちらを優先するかで悩む医療現場の要請に応えて検討を始め、「自己決定能力が未熟な15歳未満への輸血拒否は、親権の乱用に当たる」と判断した。

 合同委員会はこのほか、日本外科学会、日本小児科学会、日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会の国内主要学会で組織。年内に共通指針としてまとめる。

 エホバの証人への対応はこれまで、日本輸血・細胞治療学会(当時は日本輸血学会)が1998年、18歳以上の患者は本人の意思を尊重し、12歳未満の場合は、家族が反対しても輸血を含む救命を優先するとの指針をまとめていた。しかし12~17歳については、発育途上で判断能力に個人差があるとして対応策を示していなかった。

 今回の素案では、治療法に対してある程度の自己決定ができる年齢を、義務教育を終える15歳に設定した。15~17歳の患者については、本人と親の双方が拒めば輸血は行わないが、それ以外、例えば本人が希望して親が拒否したり、逆に信者である本人が拒み親が希望したりした場合などは輸血を行う。

 15歳未満の患者に対しては、本人の意思にかかわらず、親が拒んでも治療上の必要があれば輸血する。18歳以上については、これまでの指針通り、親の意向にかかわらず本人の意思を尊重する。

 大戸教授によると、エホバの証人信者が子への輸血を拒否する事例は、大学病院など全国100以上の病院で少なくとも毎年数例は起きていると推定される。

(読売新聞、2007年6月24日)

****** 毎日新聞、2007年6月24日

<エホバの証人>15歳未満なら輸血 学会が信者治療指針案

 信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」の信者の治療について、日本輸血・細胞治療学会など関連5学会の合同委員会は、患者が15歳未満の場合、親が拒否しても輸血を実施するとの指針案をまとめた。「自己決定能力がまだ未熟な段階での輸血拒否は親権の乱用に当たる」と判断した。今後、エホバの証人との意見交換や5学会での調整を進め、年内に指針を決める。

 同学会(当時は日本輸血学会)は98年、12歳未満では両親の反対があっても輸血などの救命措置を優先するとの指針をまとめた。18歳以上は本人の意思を尊重した対応を取る。12~17歳については対応策を示さなかったが、小児科医などから方向性を示したほうが好ましいとの声が上がっていた。

 合同委員会は、自己決定ができる年齢として、義務教育を終え、民法上で遺言のできる15歳以上が適切と考えた。

 最高裁は00年、信者の意思に反し説明なしで輸血を行った病院などに損害賠償を命じる判決を出し、自己決定に基づく治療は定着しつつある。

 合同委員会座長の大戸斉・福島県立医大教授は「子供時代の考えは成長とともに変化する。治療拒否が信念かどうか、慎重に見極める必要がある」と話す。

 エホバの証人の信者が輸血を必要とする治療例は、全国で年間1000件程度発生し、約1割が15歳未満と推定されている。【田中泰義】

(毎日新聞、2007年6月24日)

****** 共同通信、2007年6月25日

15歳未満、親拒否でも輸血・学会指針素案、信仰より救命優先

 宗教上の理由から輸血を拒否する「エホバの証人」信者の治療をめぐり、日本輸血・細胞治療学会など五学会の合同委員会(座長・大戸斉福島県立医大教授)が、患者が15歳未満の場合は、信者である親が反対しても輸血を行うとする指針の素案をまとめたことが24日、分かった。

 今後、関連学会や信者側の意見も聞き、年内に共通指針としてまとめたいとしている。

 輸血・細胞治療学会は、エホバの証人に関する指針を1998年に策定。この時は、親が反対しても輸血する年齢を12歳未満、18歳以上は本人の意思を尊重するとしたが、12―17歳の患者については一律の規定を設けていなかった。

 大戸教授によると、近年、宗教上の理由による子どもの治療拒否が「児童虐待」に当たるとの判断が司法の場で示されたことや、白血病などの治療で子どもの輸血の要否の判断に常時直面する小児科医からの要望を受け、昨年から合同委で検討を開始。「自己決定能力が未熟な15歳未満への輸血拒否は親権の乱用に当たる」と結論づけた。

(共同通信、2007年6月25日)