ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

大淀病院事件・第1回口頭弁論の報道

2007年06月27日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

この事例は、本来、担当医個人の責任に帰する問題というよりは、むしろ、地域の周産期医療システムの不備に帰する問題だと思われます。

周産期医療システムが整備されてない地域では、分娩中に何か異変が発生するたびに、担当医が苦労して母体搬送の受け入れ先を探し出さねばなりません。近隣に受け入れ先がどうしても見つからなければ、県外のはるか遠方の病院にも受け入れ可能かどうかを打診しなければなりません。

母体搬送の受け入れ先がなかなか見つからないのは、地域の周産期医療システムの問題であり、担当医個人の責任ではありません。

もしも、『地域の医療システムの不備によって生じた問題なのに、担当医個人が結果責任を問われる』ということになれば、医療システムが整ってない地域では医療に従事できなくなってしまいます。

参考:

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

周産期医療システムの不備は、誰に責任があるのだろうか?

****** 読売新聞、2007年6月26日

大淀病院妊婦死亡 町・医師争う姿勢

民事訴訟第1回弁論「脳出血、救命できず」

 大淀町立大淀病院で昨年8月、出産時に意識不明になった妊婦が相次いで転院拒否された末に死亡した問題で、遺族が「脳検査も治療もせず放置した」として同町と担当医を相手に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一裁判長)であった。被告側は「重篤な脳内出血のため救命できず、死亡との因果関係はない」と請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。

 この日は、亡くなった○○○○さん(当時32歳)の夫で原告の□□さん(25)が「医師からは命を助けようとする必死さが全く伝わってこなかった。妻は一度もわが子を見ることも抱くこともできなかった」と時折、涙ぐみながら訴えた。

 これに対し、被告側は「子供の命も重大な危機に直面したが、何の障害も残さずに助かっており、医師の処置の正しさを証明している。県医師会なども『医師に責任がない』との見解を表明した」と反論した。

夫ら記者会見「休診は逃げ」と反論

 弁論終了後、夫の□□さんら遺族が記者会見。「子どものために頑張りたい」と、真相解明と病院の責任追及に向けて改めて決意を語った。

 □□さんは、被告側が全面的に争つ姿勢を見せたことに「これから争いが続く悲しみに、耐えられるか不安もある」と揺れる心境を吐露したが、「このままでは、なぜ母親が亡くなったのかを子どもに伝えられない」と真実を明らかにする思いを述べた。

 また、被告側が弁論で、同病院の産科の休診を「(今回の問題で)正当な批判の域を超えてバッシングされ、撤退を余儀なくされた」と説明したが、それについては、□□さんは「自分たちは続けてほしいと願っている。病院の”逃げ”だと思う」と反論した。

 ○○さんの義父の△△さん(53)も「病院側は当初、違う理由を説明していた。今回の問題を理由にするのは卑劣で、□□の心が傷つかないか心配」と涙を浮かベて訴えた。

 また、県警による業務上過失致死容疑での捜査について、被告側が「警察は.『立件しない』としている」と述べたことに対し、△△さんは「県警からは『今もまだ一生懸命やっています』という報告もあった」と否定した。

(読売新聞、2007年6月26日)

****** 毎日新聞、2007年6月26日

奈良・妊婦転送死亡:賠償訴訟 初弁論、夫が涙の訴え 両親も癒えぬ悲しみ

 ◇「命助けようとする必死さ伝わらなかった」

 ◇娘の死、産科医療に生かして--両親も癒えぬ悲しみ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった同県五條市の○○○○さん(当時32歳)の転送が難航した上、死亡した問題で、夫□□さん(25)と10カ月の長男◇◇ちゃんが町と担当医師に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の初弁論が25日、大阪地裁(大島眞一裁判長)であった。□□さんは「命を助けようとする必死さが伝わってこなかった」と涙ながらに意見陳述。被告側は「早く搬送していても救命の可能性はなかった」と全面的に争う姿勢をみせた。【高瀬浩平、撮影も】

 この日、○○さんの両親も傍聴。母(58)は終了後、「あの子は天国から見守ってくれたと思います」と涙を浮かべた。

 □□さんが意見陳述に立つと、母は胸に抱いた○○さんの遺影に「見守っててね」と語りかけた。手にした赤い巾着(きんちゃく)袋の中には安産のお守りと、○○さんの回復を願って写した般若心経。「奇跡が起きて良くなりますようにと、わらにもすがる思いでした。あの子の枕元にずっと置いていました。奇跡は起きませんでした」と袋をさすった。

 弁論で、母は被告側の「社会的なバッシングで大淀病院は周産期医療から撤退した」との意見表明に心を痛めた。「○○の死で病院が閉鎖に追い込まれたかのような主張。○○も『そうじゃないでしょ』と言いたいと思う」と少し口調を強めた。

 父(60)も「娘は亡くなったのに、被告側が被害者だと言っている感じがした。なぜ亡くなったのか、なぜ脳内出血が起きたのか究明してほしい」と訴えた。

 母の悲しみは癒えない。一日に何度も仏壇に手を合わせ「どうしてる?」「○○ちゃん。安らかになれたらいいね」と話しかける。24日に墓参りし、「正しい道が開かれますように見守ってね」と祈った。

 父も「寂しさや悲しみは和らぎ、薄らぐことがない。日がたつにつれて増していく感じ。娘は妻として母としての夢があった。子どもにどんな服を着せよう、どんなお弁当を作ってあげよう、と言って、普通の平凡な生活を望んでいたと思う。夢を閉ざされて無念だっただろう」と話した。訴訟については「娘の死を産科医療の充実のために生かしてほしいというのが親としての思いだ」と話した。

(毎日新聞、2007年6月26日、大阪朝刊)

****** NHK奈良のニュース、2007年6月26日

妊婦死亡裁判 病院争う姿勢

 去年、大淀町の町立病院で妊婦が出産中に意識不明となって死亡したのは医師の診断ミスが原因だと夫らが訴えている裁判で、病院側は、「出産中に大量の脳内出血を起こし、どのような処置をしても助けられなかった」と全面的に争う姿勢を示しました。

 この問題は、去年8月、大淀町の町立大淀病院で、○○○○さん(当時32)が出産中に脳内出血で意識不明となり、ほかの19の病院に受け入れを断られて大阪の病院まで運ばれた末、8日後に死亡したものです。
 原告で夫の□□さんら2人は、「脳内出血を疑わせる兆候があったのに、産婦人科の主治医が放置したため容態が悪化し、死亡につながった」として、病院を運営する町と主治医に損害賠償を求めています。
 25日は大阪地方裁判所で1回目の裁判が行われ、被告の町と医師側は、「医師は放置していないし、妊婦が大量の脳内出血を起こしていたことを考えるとどのような処置をしても命を救うことはできなかった」と反論し、全面的に争う姿勢を示しました。
 この問題が明らかになった後、大淀病院はことし3月一杯で産科を休診しましたが、これについて被告側の弁護士は、「今回の件でバッシングを受けた結果だ。原告らの誤った主張は医療界をあげて断固正していく」と批判しました。これに対し、原告の□□さんは裁判の後、「病院には産科を続けて欲しかったが、事故の検証もせずに廃止を決めてしまった。逃げたとしか思えない」と話していました。

(NHK、2007年6月26日)

****** 朝日新聞、2007年6月25日

病院側「産科医療全体の問題」と反論 奈良妊婦死亡訴訟

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、出産中の妊婦が19病院に転院の受け入れを断られた末に死亡した問題をめぐり、遺族が町と担当医師に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁で開かれた。被告側は意見陳述で「産科診療体制の問題を特定の医師や医療機関の責任に転嫁している」と述べ、全面的に争う姿勢を示した。

 被告の同病院産婦人科(現・婦人科)の男性医師(60)側は、医師は早く搬送先が見つかるよう努めた▽早く転院できても助かった可能性はない――などと主張。「社会的制裁を受け、病院は産科医療からの撤退を余儀なくされた」とした。

 一方、長男の出産後に脳内出血で亡くなった○○○○さん(当時32)の夫で原告の□□さん(25)も意見陳述に立ち、「もう少し早く別の病院に搬送されれば助かったのではないか、という思いが頭から離れない」と声を震わせて訴えた。

(朝日新聞、2007年6月25日)

******* 共同通信、2007年6月25日

「遺族は責任を転嫁」 妊婦死亡で町が争う姿勢

 奈良県大淀町立大淀病院で出産時に意識不明となり、約20の病院に転院を断られた後に死亡した○○○○さん=当時(32)=の夫□□さん(25)らが大淀町と担当医に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一裁判長)で開かれ、町側は争う姿勢を示した。

 町側代理人は「診療体制の問題点を特定の医師、医療機関に責任転嫁しようとしており、到底許容できない」と主張。提訴を「正当な批判を超えたバッシング」と批判し「結果として病院は周産期医療から撤退、県南部は産科医療の崩壊に至っている」と述べた。

 遺族側の訴えについては「脳内出血は当初から大量で、処置にかかわらず救命し得なかった」と反論した。

 これに先立ち意見陳述した□□さんは、転院先の医師から「あまりに時間がたちすぎた」と伝えられたことを明かし、おえつしながら「もう少し早ければ助かったということ。それが頭から離れません」と訴えた。

 閉廷後、□□さんは記者会見し「病院側は(周産期医療を)続けようと何か努力したのか。逃げたとしか思えない」と反論した。

 訴状などによると、○○さんは昨年8月8日未明、分娩(ぶんべん)のため入院していた大淀病院で意識不明となり、約20の病院から受け入れを断られた後、転送先の医療機関で男児を出産したが、16日に死亡した。大淀病院の担当医は、晋輔さんらが脳内出血の可能性を指摘したのに適切な処置をしなかったという。

(共同通信、2007年6月25日)