長野県内の最近の年間総分娩件数は2万件程度で、分娩を取り扱っている産婦人科医が、(1次施設、2次施設、3次施設を合計して)まだ120人程度は県内に残っているものと仮定すれば、産婦人科医1人当たりの年間分娩件数は平均すれば160~170件程度ということになります。
従って、完全に手遅れになってしまう前に、医師を適切に再配置することができれば、県内の主要中核病院の常勤医達が今後も働き続けられる職場環境を、何とか維持できるかもしれません。
例えば、産婦人科医5~6人、助産師30~40人、新生児科医、麻酔科医との連携も緊密で、産婦人科医1人当たりの年間分娩件数が150~200件程度の2次施設であれば、それほど過酷な職場環境ではないので、その施設での医療提供活動を長期的に維持していくことも可能かと思われます。
それぞれの医療圏で産科医療の立て直しのための精一杯の努力をすることも大切です。しかし、各医療圏において、それぞれバラバラに、自力で必要な医師を確保して産科医療の態勢を立て直そうとすれば、結局は、少ない医師を医療圏間や病院間で無秩序に奪い合うことになってしまって、かなりの無理があります。
将来的には、各医療圏の利害関係から離れて公平な第3者的立場から、県全体の医師の配置バランスを勘案して、医師の配置をうまくコーディネートするようなシステムを立ち上げていく必要があると思われます。
****** 信濃毎日新聞、2008年1月12日
現実見据え試行錯誤を
態勢立て直しの動き
2005年夏から1年足らずの間に、出産を扱う施設が6施設から3施設に半減した飯田下伊那地方。
自治体や医療関係者でつくる懇談会の議論を経て、出産を主に飯田市立病院、妊婦健診を周辺の医療機関が担う「連携システム」を打ち出した。妊婦が持ち歩くカルテを作り、どの施設でも対応できるようにするなど先駆的な工夫も取り入れる。
05年度に年間500件だった市立病院の出産件数は、06年度は約1000件に倍増。山崎輝行・産婦人科部長(54)は「連携システムで外来の負担が減ったので、何とか乗り切れた」と話す。
だが、そのシステムも順風ではない。
地域では3施設(下伊那赤十字病院、西沢病院、平岩ウイメンズクリニック)が妊婦健診のみを受け持ってきたが、常勤医の退職などで、常時健診を受けられる所が今春以降、1施設(平岩ウイメンズクリニック)になる見通し。5人いる市立病院の産科医も転科などで減少するため、4月からは里帰り出産の受け入れを休止する。
「システムがあっても動かす人がいなければどうしようもない」と山崎医師。県内の「モデルケース」と期待される連携システムは、医師不足の「壁」に突き当たり、苦闘を続けている。
飯田下伊那地方の連携システム 飯伊地方では2005年以降出産を扱う施設の減少で約850件の受け入れ先がなくなった。このため緊急的に、出産は主に飯田市立病院、妊婦健診を他の医療機関が分担するシステムを構築。県内の産科医、小児科医でつくる県の検討会も07年3月、広域圏ごとの医師の重点配置を提言しており、飯伊のシステムを「周産期医療を崩壊させないためのモデル」と紹介している。
(中略)
県内各地で産科医療を立て直す動きが始まっている。「特効薬」は簡単に見いだせない。行政や医療関係者、そして住民が「医師がいない」現実を直視し、試行錯誤を重ねるしかない。
(信濃毎日新聞、2008年1月12日)