私が大学を卒業した二十数年前は、地域中核病院でも産婦人科は1人医長体制の病院がまだ少なくありませんでしたし、今と比べても、医師不足ははるかに深刻で、医師の勤務もはるかに過酷だった気がします。
それでも、当時は、それが普通だと思って、何の疑問もなく生きてましたし、その旧システムで世の中全体が何とか回ってました。
しかし、時代はどんどん変遷し、医療を提供するシステムも大きく変化し、旧世代の医師達の慣れ親しんできた古いやり方では、もう世の中が全然うまく回らなくなってきました。地域の住民の方々にも、それを理解していただく必要があります。
今、矢面に立ってジタバタしている旧世代の医師達も、10年後には、ほとんど全員が第一線を退いていることでしょう。時代の大きな変化に対応できない古い体質のままの病院は、今後はどんどんこの世の中から消滅していくことになります。この世の中に生き残っていくためには、うまく世代交代して、時代の変化にも迅速に対応していく必要があると思います。
****** 信濃毎日新聞、2008年1月13日
医師確保 取り組みは
(略)
資金貸与 効果少しずつ
県衛生技監 桑島昭文氏
県内で産科など診療科の休廃止がここまで相次ぐとは正直、予想していなかった。昨年1年間で11の病院が14診療科を休廃止した。昨年末には国立病院機構長野病院(上田市)で産科医引き揚げ問題が起きるなど、今後の予測が付けにくい状況だ。
県は、即戦力となる医師のほか、研修医や医学生の確保など、できることはなんでもやろうと考えている。県外から県内に就職する医師を対象にした研究資金貸与制度は6人が利用するなど、少しずつ効果は上がっている。だが、即効性は見込みにくい。
県の検討会は昨年3月、「緊急避難」として産科9カ所、小児科で10カ所の連携強化病院を選定し、医師を集約化することを提言した。危険なお産や救急搬送を24時間体制で受け入れる病院がなければ、地域の診療所も安心してお産を扱えない。連携強化病院を「砦(とりで)」として守らなければならない。
住民の安心には、病院や診療所、介護施設などが連携し、救急からリハビリ、介護まで地域で完結する医療体制が理想だ。長野県は長寿県でありながら医療費が低い。この特徴を地域医療の魅力として全国に発信し、医師確保に役立てたい。
(中略)
大学病院 競争力向上を
信大病院長 勝山努氏
勤務医不足の原因が、医師養成数の抑制や勤務医に不利な診療報酬改定など、国の医療政策にあったことは事実だ。ただ、厚生労働省だけの責任ではない。
反省すべきは、大学医学部が国の政策決定にほとんど発言してこなかったことだ。きちんと声を上げ、制度を修正していればここまでの事態にはならなかった。
2004年度からの新臨床研修制度は、前近代的な医師の教育、供給システムの改革が狙いだ。確かに大学病院に残る研修医が減り、各地の病院への医師の継続的な派遣が難しくなっている。だがそれは、地方の大学病院が一般病院や都会の病院との競争に負けているからだと言わざるを得ない。大学病院としては、臨床研修の充実を徹底する以外に選択肢はない。
信大病院は「卒後臨床研修センター」を儲け、専任教員として医師1人、看護師2人を配置、各診療科も研修プログラムの充実に努めている。医師と同様に不足が深刻化している看護師の研修体制も整えている。
教育や研究も大学の役割だが、地域住民が期待する最高の医療を提供し、それを支える人材を養成することも重要だ。大学病院としての競争力を高めていきたい。
(信濃毎日新聞、2008年1月13日)