ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

漢方医学について

2008年01月22日 | 東洋医学

中国大陸で生まれて発達した中国伝統医学には非常に長い歴史があります。後漢時代に張仲景という人が当時の薬草を中心とした治療体系を「傷寒雑病論」(しょうかんざつびょうろん)としてまとめたとされています(その原本は伝わってません)。「傷寒雑病論」は、後に、急性熱性疾患を中心とした「傷寒論」(しょうかんろん)と、慢性疾患(雑病)について書かれた「金匱要略」(きんきようりゃく)に分かれ、現在に至っています。

中国医学は5-6世紀ごろ日本に伝わり、本場・中国での発達の影響を受けながら、日本国内でも独自の発達をしてきました。江戸時代中期以降の日本漢方界は、「傷寒論」を最大に評価して、そこに医学の理想を求めようとする流派(古方派)によって大勢が占められるようになりました。現在の日本漢方界でも、「古方派」の影響を受け継いでいる医師が多いようですが、その他にも、「後世派」、「折衷派」、「一貫堂医学」など、いろいろな流派が存在しています。

また、現在の中国医学は「中医学」と言われてますが、中医学と日本漢方とでは、それぞれ別の発展をしてきましたので、今では、用語、処方する薬剤、病気への対応方法など多くの点で異なっています。日本で中医学を実践している医師もいます。

産婦人科では、更年期の不定愁訴などに対して漢方薬が処方される場合が比較的多いです。私も、以前は、更年期障害の患者さんには片っ端からホルモン補充療法を実施してましたが、最近では、乳癌のリスクを考慮して、以前ほどにはホルモン補充療法が実施しにくくなりました。そこで、苦し紛れに、更年期障害で薬を希望する患者さんに、「加味逍遥散」(かみしょうようさん)などの漢方薬を処方してみますと、中には、「この薬でたいへん楽になりました」と言って喜ばれる場合も少なくありません。人によっては、「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくっさん)、「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)、「柴胡加竜骨牡蛎湯」(さいこかりゅうこつぼれいとう)、「女神散」(にょしんさん)などが有効の場合もあります。

妊娠中の感冒に対しては通常の解熱剤や感冒薬は少し使いにくい面もあるので、患者さんの症状に応じて、「桂枝湯」(けいしとう)、「麦門冬湯」(ばくもんどうとう)、「苓甘姜味辛夏仁湯」(りょうかんきょうみしんげにんとう)などの漢方薬を処方する機会も比較的多いです。

妊娠中は麻黄(まおう)の入っている「葛根湯」(かっこんとう)や「小青竜湯」(しょうせいりゅうとう)は避けて、かわりに「桂枝湯」(葛根湯の麻黄ぬきバージョン)や「苓甘姜味辛夏仁湯」(小青竜湯の麻黄ぬきバージョン)にすべきとの記載が日本産婦人科医会の研修ノート(産婦人科と代替医療)にありました。

手術後の腸管癒着に対して「大建中湯」(だいけんちゅうとう)が有効で、外科医もよく処方してます。

癌の治療では、ガイドラインに従って標準治療で対応するのが基本ですが、癌が再発して標準的な化学療法が無効となってしまった患者さんなどに対して、患者さんの希望に応じて、例えば、「十全大補湯」(じゅうぜんたいほとう)、「補中益気湯」(ほちゅうえっきとう)、「人参養栄湯」(にんじんようえいとう)などの漢方薬を処方して、しばらくの間、自宅で元気に過ごしていただいたような経験も比較的多いです。代替療法の多くは、過去の治療実績が少なく、費用も自費となってしまいます。漢方治療の場合は、過去に二千年以上の治療実績があって、多くは保険診療で対応できるというメリットがあります。

西洋医学と東洋医学とを統合し、それぞれの長所を生かして、補完しあっていくのが理想だと思います。

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