ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

長野県、岩手県の周産期医療の状況

2008年12月25日 | 地域周産期医療

****** 朝日新聞、長野、2008年12月23日

ドクターカー、出動年270回 こども病院

 こども病院では93年の開院当初から、「ドクターカー」が活躍している。医師と看護師が同乗し、新生児を温める保育器が備わった救急車だ。出動は年間約270回。中村センター長は「ドクターカーなしに、長野の周産期医療は機能しない」と話す。

 12月のある日の午前9時。ドクターカーが信大病院に向かった。前日に同病院で生まれた男児に心疾患があることがわかり、受け入れの依頼があったのだ。男児は1600グラム余り。低出生体重児は温めながらでないと運べない。

 車内で男児の状態についての書類を確認しながら、廣間武彦・新生児科副部長は「安定していると聞いている。信大の先生が処置をしてくれたからこそ」と話す。

 20分弱で信大病院に到着。台車で保育器を運びながら、4階のNICU(新生児集中治療室)へ向かった。

 医師と看護師合わせて10人ほどが待ち構えていた。いくつもの管につながれた赤ちゃんが横たわっている。「呼吸数は? 血圧は?」。廣間医師が信大の医師らに矢継ぎ早に尋ねる。「顔見知りだからこそ、スムーズに引き継ぎができる」と周りの医師が教えてくれた。保育器に移すため、看護師が管を抜き始めると赤ちゃんが消え入りそうな声で泣いた。3人がかりで保育器に移しNICUを出た。

 午前10時40分、こども病院に到着。3階のNICUには循環器科、放射線科の医師らが既に待機していた。手際よくレントゲン撮影をした後、心臓の超音波検査をした。

 この直前、塩尻市内のある病院から新生児の受け入れ依頼が入った。ドクターカーを当初使う予定だった母親の搬送を急きょ通常の救急車に切り替えた。臨機応変に対応することで、「どんな状況でも基本的に受け入れる」と廣間医師は話した。

(朝日新聞、長野、2008年12月23日)

****** 読売新聞、長野、2008年12月16日

新生児対応9病院で、人材育成が急務

 札幌市で昨年11月、緊急搬送された未熟児が7病院で受け入れてもらえず、その後死亡したケースなどで、「新生児集中治療室」(NICU)の不足という問題点が浮かび上がった。県内にはNICUと、それに準じた施設が計9か所あり、県健康づくり支援課は「この9病院で責任をもって受け入れる態勢になっている」と説明している。

 県内のNICUは、県立こども病院(安曇野市・21床)、信州大病院(松本市・6床)、長野赤十字病院(長野市・9床)、飯田市立病院(飯田市・3床)の4か所。

 このほか、新生児科医が少なく、24時間常駐できないなど、厚生労働省の施設基準は満たしていないものの、NICUと同等の設備をもつ病室が、県厚生連佐久総合病院(佐久市・12~15床)、波田総合病院(波田町・6床)、諏訪赤十字病院(諏訪市・6床)、県厚生連北信総合病院(中野市・5床)、県立須坂病院(須坂市・4床)にある。夜間の緊急時には医師を呼び出すなどして、NICUに準じた役割を果たしているという。

(読売新聞、長野、2008年12月16日)

****** 朝日新聞、岩手、2008年12月22日

周産期医療 県内の現状は

 東京で、脳出血を起こした妊婦が8病院から受け入れを断られた末に死亡した問題は、周産期医療が抱える深刻な課題を浮き彫りにした。産科医、小児科医とも、単位人口あたりの医師数が全国最低水準の県内ではどうなっているのか。母親と赤ちゃんの命を守る現場の取り組みを岩手医大准教授・福島明宗医師(50)に聞いた。

    ◇

 ――県内で搬送依頼のあった妊婦が受け入れられない事例はありましたか

 岩手は東京と違い、県土が広い上に病院が少ないですから、我々が受け入れを断ったらその妊婦はもう行くところがなくなってしまう。「たらい回し」はあってはならないし、あり得ません。

 ――ベッドが満床だったり当直医が対応できなかったりする事態はないのですか

 岩手医大の場合、県内のいくつかの大きな病院と役割分担して、診る症例の基準をある程度決め、地域で完結する症例は地域で完結するようにしています。

 患者の適切な搬送振り分けを行うため、搬送の必要な症例が発生すると、患者の情報
を搬送元の医師から医大に送ってもらう。症状を判断し、我々の方で受け入れ可能な近くの病院を探して搬送元と搬送先の橋渡しをしています。

 医大で診る必要がなければ、最寄りの病院で受け入れてもらうことで、医大のベッドが満床で受け入れのできなくなる事態を回避する。我々はこの仕事を「搬送コーディネート」と呼んでいます。

 東京の問題は、このコーディネートが機能しなかったということです。

 ――搬送依頼はどのくらいあるのでしょうか

 ここ数年、岩手医大の受け入れ件数は年間120件前後ですが、総合周産期母子医療センターに指定され、県内各病院とのネットワークを作った直後の02年ごろは約170件でした。当時は、各病院に症例を振り分けずにすべて医大で引き受けていたので、大まかには、差し引き年間50件くらいをコーディネートしているのだと思います。

 ――当直はどの程度あるのでしょうか

 医大では1人当直、1人自宅待機(宅直)という態勢です。1人当たり週に1、2回。若手は月4、5回くらい当直しています。医局には20人余りの医師がいますが、診療応援などでほかの病院にも医師を派遣していますので、全員がそろうことはまずありません。本来当直は複数置かなければなりませんが、現状では不可能です。

 小児科はもっと大変です。救命救急センターと循環器医療センターにも当直が必要なので、病棟とあわせて毎日3人が当直しています。

 ――どんな対策が必要ですか

 究極的にはもちろん医師を増やすしかありませんが、すぐには望めないでしょう。それ以外では若い医師のモチベーションを上げるためにも、私たちがボランティアでやっているコーディネートの仕事を、公のものとして認めて欲しいですね。これが機能しなくなれば、現在まで築き上げてきた岩手県の周産期医療システムは崩壊します。

 また、さらなる医師の集約化が必要だと思います。身近に産婦人科医がいない地域の
住民の方の切実な不安も理解できますが、医師が疲弊しないようなシステム作りが必要です。そうしないと周産期医療に携わる医師の減少に歯止めがかからないと思います。

    ◇

■ 総合周産期母子医療センター 

 母体・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)などを備え、24時間体制で、妊娠22週以降の妊婦と生後7日未満の新生児を表す「周産期」を対象に、高度な医療を提供する。県内では唯一、岩手医大付属病院が指定を受けている。総合周産期母子医療センターの規模と機能を縮小した「地域周産期母子医療センター」は、県立中央、久慈、大船渡の3病院。

(朝日新聞、岩手、2008年12月22日)