ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科医、母親の負担軽減へ 飯田市立病院が助産師外来拡充

2009年01月08日 | 飯田下伊那地域の産科問題

コメント(私見):

昨年の今頃、当地域の産科連携システムにおける連携先の2つの病院(下伊那赤十字病院、西沢病院)の常勤産婦人医が他県に転勤して、常勤産婦人科医不在となりました。また、開業の先生のお一人が、健康上の理由からしばらくの間休診することになりました。連携先が次々になくなって、それまでうまく稼働していた産科連携システムが急にうまく機能しなくなってきた時に、突然、当科の常勤産婦人科医のうちの2人が3月いっぱいで離職する意向であることを申し出てきました。

当地域の産科医療提供体制は再び崩壊寸前の危機に陥って、4月を無事に乗り越えられるかどうかも全くわからない状況となりました。ちょうどその頃、舛添厚生労働大臣が当施設を視察目的で訪問されましたので、産科医療の危機的状況を直訴しました。

窮余の策として、4月以降の『里帰り分娩と域外在住者の分娩の制限』に踏み切るとともに、『助産師外来の大幅拡充』や『メディカル・クラークの業務拡大』など、思いつく限りのさまざまな危機打開策を試みました。

各方面よりご支援をいただき、信州大産婦人科からの医師派遣により常勤産婦人科医数も何とか維持され、分娩制限も徐々に解除でき、昨年(1月~12月)の当科の総分娩件数は計990件で、一昨年の総分娩件数996件とほぼ同程度まで回復してきました。地域の開業の先生からの母体搬送受け入れ要請には、すべて応えることができました。多くの人々に支えていただいて、当医療圏の産科医療提供体制は、今のところ何とか持ちこたえています。

産科や小児科の医師不足の問題は全国的に深刻な状況であり、一つの医療圏の中だけでいくら努力しても限界があると思います。また、 一つの医療圏で産科医療提供体制が崩壊すると、大量のお産難民が発生して、周辺の医療圏に流れ込んでしまうので、産科医療の崩壊が急速かつ波状的に全県的規模で広がってしまう可能性があります。 ですから、「自分の所属する医療圏さえ問題がなければ他は関係ないんだ」というわけにもいきません。全県的な課題として、各医療圏が協調して、この問題に取り組んでゆく必要があると思います。

****** 南信州新聞、2009年1月1日

産科医、母親の負担軽減へ 飯田市立病院が助産師外来拡充 助産師のやりがいアップ

 昨年4月、飯田市立病院(同市八幡町)は産婦人科医が5人から最低1人減少することから、「里帰りと域外出産の中止」に踏み切った。同時に助産師外来の拡充を実施、現在の状況をまとめた。

 出産制限が始まった2008年4月、市立病院では「助産師外来の拡充」を試みていた。助産師外来を外来病棟に移転し、診察室3室と超音波検査を行うエコー室を設けた。助産師3人と検査技師1人が常駐し、正常な経過のみ、助産師と検査技師による妊婦健診を行うようになった。

 一般的に、妊婦は13~15回の妊婦健診を受ける。助産師外来ではこのうち約半分の7~8回を助産師と検査技師が担い、残りの半分は従来通り産科医が行う。異常が見つかったときや助産師だけの妊婦健診に不安があるときは、産科医と提携して対応する。

 市立病院ではこれまで、34週までの妊婦健診は地域の連携開業医で行うとし、34週以降を受け付けていた。しかし、妊婦健診の受診者が連携開業医以外の開業医にも流れ、そこで「待ち時間が長い」「予約が取れない」などの問題にもなっていた。また、市立病院の産科医にとっても、34週以降の妊婦健診をすべて見ることは負担になっていた。

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 助産師外来が始まって数ヵ月後、その開業医の負担が減り始めた。椎名レディースクリニック(同市小伝馬町)では、5月に90人だった妊婦健診が、8月には24人に減少。椎名一雄産婦人科医は「助産師外来の機能が整ってきた。市立病院で出産する人の妊婦健診が減り、若干外来に余裕ができた」と語る。

 妊婦健診を担う助産師にとっても変化があった。病棟師長の松村さとみ助産師は「すごく責任を感じている。若いメンバーは自分も妊娠や出産がまだなので、不安もある。けれどやりがいはある。みんな根本的にはお母さんと話したい。こういうお産をしたい、という思いを大事にしたい」と語る。

 さらに「上の子とのかかわりをどうしたらいいか」「立ち仕事が続いて心配」「周りの人のタバコが気になる」など、もっと身近で具体的な部分でのアドバイスにも力を入れることができるという。最近では、家庭に問題を抱えた妊婦も増えているといい、松村さんは「助産師が早い時期から関わることで何か解決できるのでは。気持ちの面では産婆さんがしていたときと同じようになれるといい。チャンスを与えてもらったので頑張りたい」と語る。

 妊婦健診に訪れた妊娠10ヵ月という下條村睦沢の女性(30)は「同性なので何となく安心感がある。出産経験のある人が話してくれるのは安心できる。何かあったら先生に診てもらえるし」と話した。

 助産師外来の拡充によって産科医や母親の負担が減少し、助産師のやりがいが高まっている。それぞれが役割分担しながら協力することが、飯田下伊那地方の産科医療を守ることにつながっている。

(以下略)

(南信州新聞、2009年1月1日)