ヒトの出産では、母児が一定の頻度で死亡するのは避けられませんし、いろいろな原因で児に脳性まひが一定の頻度で発生するのも避けられません。しかし、母児の死亡率や脳性まひの発生頻度を少しでも減らすために、周産期医療関係者は日夜努力してます。
母体死亡、死産などの母児のリスクは、分娩時に集中します。分娩のほとんどは正常に経過しますが、ひとたび分娩時に母児の異常が発生した場合は、助産師、産婦人科医、小児科医、麻酔科医などが一致協力して、迅速かつ適切に対応する必要があります。
分娩経過中に母児の状態が急変した場合には、異常発生後30分以内に児を娩出できる周産期医療体制が必要です。異常が発生してから、救急車を呼んで、どこの病院が受け入れてくれるかなかなか決まらず大騒ぎしているようでは、絶対に間に合う筈がありません。
分娩は、女性の長い一生の中でたった1回か2回かのイベントです。輝かしい新しい人生の出発点であるはずです。そこでむざむざ命を落としていたんでは、夢に描いていたその後の人生が全くなくなってしまいます。ですから、いざという時には迅速かつ適切に母児の異常に対応できるような分娩環境を選択すべきだと思います。より安全な分娩環境を選択することは、これから生まれてくる赤ちゃんに対する親としての責任でもあります。もしも自分が居住する地域にそのような周産期医療体制が整備されてなければ、分娩時に妊婦さん自身が周産期医療体制の整備された地域に出向いて、より安全な分娩環境を選択できるようにした方が得策だと思います。
****** 共同通信、2009年10月8日
出産時に世界全体で年間200万人の母子が死亡
米研究グループが報告書
【要約】 米ジョンズ・ホプキンス大などの研究グループがまとめた報告書によると、年平均の死産数は約102万人、出産直後に死亡する母子は90万4000人。また出産時に死亡する母親は約53万6000人で、このうち約42%が出産中に死亡しており、アフリカと南アジアが母子の全死者数の4分の3を占めているという。報告書は、こうした死亡例の多くは基本的な衛生管理、帝王切開など救急治療を行う医師の訓練などで防止できると述べている。しかし一方では、貧困がこうした死亡を招く主因の1つであり、富裕国ではほとんどの母親が経験のある医師や助産婦の立ち会いの下で出産しているが、貧困国ではそうした例は少ない。またほとんどの母子死亡例は医師や看護師が少ない都会から離れた農村部で発生しており、世界全体の年平均1億3600万人の新生児のうち6000万人は病院などの医療施設がない場所で出産しているという。
(共同通信、2009年10月8日)