10月16日に厚生労働省が開催した「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会」において、国内で製造された新型インフルエンザワクチンの臨床試験の結果が報告され、13歳以上への新型インフルエンザワクチン接種回数を見直し、1回とする意見がま とめられたそうです。新型インフルエンザワクチンは当初、効果を得るためには2回の接種が必要とされていましたが、1回の接種でも効果があるとの結果が出たことで、数に限りがあるワクチンを大幅に節約でき、より多くの人に接種できる可能性が出てきました。厚生労働省は来週中にも接種の回数を正式に決めるそうです。
新型インフルエンザ: ワクチン接種を前に自治体悲鳴 「準備間に合わない」
新型インフル: 妊婦向けに防腐剤が入ってないワクチンが100万人分供給される見込み
「新型インフルエンザに感染した妊婦はまず内科受診を」 日本産科婦人科学会が注意喚起
****** NHKニュース、2009年10月16日
国産ワクチン 接種1回で効果
国内で製造された新型インフルエンザワクチンの臨床試験について、16日、中間報告がまとまり、2回必要だとされていた接種は1回でも十分に効果があることがわかりました。これによって、13歳未満の子どもを除いて接種は基本的に1回となる見通しで、当初の計画よりも多くの人に国産ワクチンが接種できる可能性が高くなりました。
厚生労働省は、国内メーカーが製造したワクチンの効果などを確認するため、先月、健康な成人の男女200人を対象に臨床試験を行いました。中間報告は16日にまとまり、厚生労働省は1回の接種で十分に効果があることがわかったとして、ワクチンの専門家を集めた会議で報告しました。これを受けて、会議では、これまで2回必要だとしてきたワクチンの接種を、13歳未満の子どもを除いて1回とする意見をまとめました。一方、13歳以上でも感染すると重症になりやすい持病のある人で、医師が免疫がつきにくいと判断した患者は、2回目のワクチン接種を行うとしています。これによって、輸入ワクチンの対象となっていた中学生や高校生などにも国内産のワクチンを接種できる可能性が高くなり、厚生労働省は来週、接種の回数を正式に決めることにしています。
(NHKニュース、2009年10月16日)
****** 産経新聞、2009年10月17日
新型インフル: 1回接種、自治体は「寝耳に水」
新型インフルエンザワクチンの接種開始を19日に控え、厚生労働省の専門家会議が従来の「2回接種」から「1回接種」に方針転換したことで、自治体や医療機関に混乱が広がっている。当初のスケジュールでも休日返上で準備に追われていたのに、1回接種となれば準備の態勢を変える必要があるからだ。厚労省は来週中にも接種回数を決定するが、関係者は「なぜ今ごろ」と不満を隠さない。
厚労省が各自治体に具体的な供給計画を示したのが今月2日。開始まで2週間程度という厳しいスケジュールに自治体から不満の声が上がっていた。
さらなる1回接種への方針転換で不満はピークに達している。「1回接種になれば対象者が広がり、周知の方法も変わる。寝耳に水だ」。千葉県の担当者は怒りをあらわにする。
16日の専門家会議は1回接種でも効果は変わらないとし、これまで2回としていた接種回数を、13歳以上は基本的に1回ということで合意した。厚労省は「9月にできあがった国産ワクチンの接種試験の結果がこの時期になった。これ以上早くはできなかった」と弁明する。
千葉県は医療従事者の接種が始まる19日の準備に追われている状態。「19日もやっとなのに…」と話すだけに、現段階で態勢を変更するのは容易ではない。11月中旬には医療従事者以外の妊婦や持病のある人の接種を始めなければならないが、接種可能な医療機関のリストがいつ公表できるのかも決まっていないという。
約11万人が接種を受ける東京都。19日の接種開始は間に合わず、1週間ずれ込む事態となっている。
「接種回数が変われば、各自治体への配布量が変わる。接種開始の作業が山場を迎えているこの時期に、なぜなのか」と悲鳴を上げる。
1回接種について、医療関係者は「希望者が接種できる」と歓迎する一方、患者と接種希望者が同時に殺到する懸念もある。
吉祥院こども診療所(京都市)の今井博之所長は「海外では早い段階で2回目のワクチンの効果は限定的との報告があった。国がこれまで調査してこなかったツケが回った」と指摘。すでに季節性ワクチンで予約が埋まっているといい、「小児は集団接種にするなど工夫がない限り、医療機関がパンクする」と危惧(きぐ)している。 【長島雅子】
(産経新聞、2009年10月17日)
****** 読売新聞、2009年10月17日
新型インフル、国産ワクチン1回接種
優先対象の13歳以上
新型インフルエンザの国産ワクチンについて、厚生労働省は16日、これまで2回接種としていた方針を見直し、優先接種対象者のうち13歳以上は、原則1回接種とすることを決めた。
専門家らの意見交換会が同日開かれ、健康な成人に実施した臨床試験の結果、1回の接種で有効性が確認されたとする報告があり、合意に至った。
厚労省は来週にも接種計画を見直す。対象者のうち、優先順位が低かったグループの接種スケジュールが前倒しになるほか、輸入ワクチンを使用することが前提だった中高生などの接種対象者にも国産ワクチンが使える見込み。
国産ワクチンの臨床試験は、9月17日から国立病院機構で、20歳以上の健康な成人を対象に実施。通常量のワクチンを接種した96人中72人(75%)で新型インフルに対する免疫物質(抗体)が増加した。
一方、副作用は接種者全体のうち45・9%に見られ、多くは局所の腫れや痛みだったが、ショック症状など重い副作用が2人に出た。
1回接種となるのは医療従事者のほか、▽妊婦▽持病のある人▽1歳未満の乳児の保護者▽13歳以上の中高生▽65歳以上の高齢者。
持病のある人で免疫力が低下している人などは、主治医らの判断で2回接種できる方向で検討している。13歳未満の小児は、通常の季節性インフルエンザワクチンと同様、2回接種を維持する。
◇
厚労省は16日、都道府県ごとの医療従事者への接種開始日を公表した。それによると、47都道府県のうち、大阪、京都、沖縄など23府県が19日に接種を開始。23道県は「19日の週」に、東京都は翌週の26日にそれぞれ開始する。
未成年8割以上、新規患者64万人
国立感染症研究所は16日、全国約5000医療機関を対象にした定点調査で、今年7月上旬以降のインフルエンザ患者数が累計で、約234万人に上ったと公表した。また、10月5~11日の1週間の新規患者数は約64万人で、これを年代別で見ると、8割以上が未成年だった。内訳は0~4歳が約4万人、5~9歳が約16万人、10~14歳が約23万人、15~19歳が約10万人で、小中学生の世代で特に感染が広がっている。
(読売新聞、2009年10月17日)
****** 共同通信、2009年10月16日
国産ワクチン1回でも効果 新型インフル、臨床研究で より大勢に接種の可能性
国内メーカーが製造した新型インフルエンザワクチンの有効性と安全性を確認する臨床研究の中間報告がまとまり、1回の接種でも免疫の指標となる抗体価の上昇がみられ、一定の効果が期待できることが分かった。厚生労働省が16日開催した専門家の意見交換会で報告された。
新型インフルエンザワクチンは当初、効果を得るためには2回の接種が必要とされていたが、1回でも効果があるとの結果が出たことで、数に限りがあるワクチンを大幅に節約でき、より多くの人に接種できる可能性が出てきた。この日の会議では、健康な中高生以上について1回接種とする方向性が示された。これまで、海外メーカーが製造したワクチンでも同様の結果が報告されている。
臨床研究は、先月中旬から国内4カ所の医療施設で実施。北里研究所(埼玉県北本市)が製造したワクチンを使って、健康な20~59歳の男女200人を対象に、3週間の間隔をあけて2回接種する。1回につき通常量の0・5ミリリットル接種するグループと、2倍の1ミリリットル接種するグループの2グループに分けた。
中間報告では、2回目の接種前に採血し、抗体価の上がり方などを調べた。すると、採血できた194人のうち、0・5ミリリットル接種のグループでは96人中75人(78・1%)で、1ミリリットルのグループでは98人中86人(87・8%)で、免疫効果が期待できる抗体の保有が確認された。これらの数字は、国際的な評価基準に照らして「効果あり」と判断できるレベルだという。
副作用は全体の45・9%にみられ、接種部位の発赤や腫れが多かった。このうち2人に、アレルギー反応であるアナフィラキシーなどの「高度の有害事象」が現れた。
この結果を受け、厚労省は専門家の意見も踏まえて接種回数を決める方針。国産ワクチンは、来年3月までに2700万人分製造される見通しだが、これは2回接種を前提にした数字で、1回の接種で済めば単純計算で2倍の5400万人分になる。
(共同通信、2009年10月16日)
****** m3com医療維新、2009年10月16日
新型ワクチン接種、「13歳以上は1回」で専門家合意
厚労省が意見交換会を開催、決定は大臣が週明けに行う予定
村山みのり(m3.com編集部)
10月16日、厚生労働省の「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会」において、13歳以上への新型インフルエンザワクチン接種回数を見直し、1回とする意見がまとめられた。
合意された方針では、(1)13歳未満の小児については2回接種(今後の臨床試験の結果により1回接種に見直す可能性あり)、(2)13歳以上18歳未満は1回接種(今後の臨床試験の結果により2回接種に見直す可能性あり)、(3)18歳以上は1回接種(妊婦、基礎疾患を持つ患者も含むが、これらの接種希望者については希望・主治医の判断により2回接種も可能)となる。この意見は長妻昭・厚生労働大臣へ報告され、来週初めに大臣の決定が発表される予定。
意見交換会への列席者は厚労省担当者の他に、尾身茂氏(自治医科大学教授)、田代眞人氏(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長)、川名明彦氏(防衛医科大学教授)の3人。また庵原俊昭氏(国立病院機構三重病院長)と岡部信彦氏(国立感染症研究所感染症情報センター長)の2人が電話参加した。
意見交換会では、9月17日から国立病院機構病院4施設で行われた、新型インフルエンザ国産ワクチンの免疫原性についての臨床試験の中間結果が報告された。対象者は200人の健康成人で、北里研究所製造のワクチンを通常量(15μg:皮下注射)と倍量(30μg:筋肉注射)接種した。
1回目接種の3週間後、15μg1回接種群ではHI抗体価が40倍以上の人が96人中75人(78.1%)、30μg1回接種群ではHI抗体価が40倍以上の人が98人中86人(87.8%)だった。また、抗体価が4倍以上上昇し、HI抗体価が40倍以上の人の割合は、15μg1回接種群では96人中72人(75.0%)、30μg1回接種群では98人中86人(87.8%)。抗体価変化率は15μg1回接種群は14.5倍、30μg1回接種群は35.0倍だった。HI抗体価値の変化率が4倍以上の人の割合は、15μg1回接種群は83.3%、30μg1回接種群は93.9%だった。
副反応は接種者全体のうち45.9%に見られた。H5N1ワクチンの66.1%に比べて低かったが、15μg皮下注群は58.8%と30μg筋注群33.3%に比べ、発赤、腫脹の頻度が高かった(手技の違いによる差)。高度の有害事象として、アナフィラキシー反応、中毒疹が各1例認められた。
これらの結果から、治験調整医師は、(1)1回接種後の抗体保有率、抗体陽転率、抗体価変化率とも30μg接種群の方が優れているが、15μg接種群も30μg接種群も1回摂取でEMEAの評価基準(文末を参照)を満たす、(2)CSL(スプリット、アジュバントなし)のデータ、Novartis(スプリット、MF59入り)のデータと比較しても遜色はない(comparable)、(3) 15μg1回接種でEMEAの評価基準を満たすこと等を考慮すると、HAタンパク量15μg1回接種で効果的な免疫反応が期待できる、とコメントしている。
また意見交換会の議論では、(1)米国やオーストラリアなどで、ワクチン接種は1回で効果があるとの報告がなされている(FDAのホームページ)、(2)先進諸外国では、新しい型のインフルエンザウイルスが出現しない限り、年少児を除いてほとんどの人がインフルエンザに対する基礎免疫を獲得しているため、1回の接種で追加免疫の効果があるとする考えが一般的である、(3)日本におけるインフルエンザワクチンの接種回数に関する近年の研究結果を検討し、65歳以上の高齢者については1回の接種で十分有効であるとの結論に至っている、といった点も考慮された。
臨床試験は健康成人のみを対象としたものだが、田代氏は13歳以上18歳未満(中高生に該当する年代)への1回接種の効果について「1977年からAソ連型が流行しており、ほとんどの人がこれに暴露している。中学・高校生の年代もソ連型ウイルスにプライミングされており、成人と同様の抗体レスポンスが起こることが十分に予測される」と述べた。
岡部氏はこれに同意しつつも、「1回で免疫は上がるだろうと思うが、もし時間があるのであればパイロット試験を行い、中学・高校生のデータを取った上で判断した方が確実ではないか」と慎重な対応を促した。この発言を受け、中学・高校生への接種開始が1月後半以降となる見込みであることから、厚労省側は1回接種を前提としつつ、小規模試験を行うことを了承した。
妊婦については、「免疫状態が極めて異常であるということはなく、健康成人と同様に考えて良い」として1回接種で合意。基礎疾患を持つ人について、庵原氏は「喘息や糖尿病の患者と、白血病、抗がん剤使用者、HIV感染者など、著しい免疫不全患者は分けて考える必要がある」と指摘。免疫不全者は不活化ワクチンでは免疫が付きにくいため、アジュバント入りワクチンの使用も含め検討することが望ましいとした。ただし、今回はアジュバント入りの国外産ワクチンの輸入を待つと接種が遅れるため、まず国内産ワクチンを接種し、今後副反応などの観点も含めて検討する方針とされた。基礎疾患のある患者については医師の裁量でワクチンの2回接種も可能とされ、その具体的基準などについては今後Q&Aなどで示される予定。
このほか、臨床試験において報告された有害事象がいずれも重篤であることから、詳細をさらに調べることなどが要望された。今回の議論は国産ワクチンに関するものであり、国外産ワクチンの接種回数については輸入・接種がなされる12月-1月頃改めて検討される。なお、ワクチンが1回接種となった場合の費用については、当初の2回接種の場合の1回目の料金3600円が据え置きとなる方針。
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インフルエンザワクチンの有効性の国際的な評価基準
参考:EMEA評価基準(HI抗体価)
・18-60歳 以下の3つのうち少なくとも一つを満たすこと
1) 抗体陽転率 「HI抗体価が接種前に<10倍かつ接種後40倍以上」または「HI抗体価の変化率が4倍以上の割合 >40%
2) 抗体変化率 幾何平均抗体価(GMT)の接種前後の増加倍率 >2.5倍
3) 抗体保有率 HI抗体価40倍以上の割合 >70%
・60歳以上 以下の3つのうち少なくとも一つを満たすこと
1) 抗体陽転率 「HI抗体価が接種前に<10倍かつ接種後40倍以上」または「HI抗体価の変化率が4倍以上の割合 >30%
2) 抗体変化率 幾何平均抗体価(GMT)の接種前後の増加倍率 >2倍
3) 抗体保有率 HI抗体価40倍以上の割合 >60%
(m3com医療維新、2009年10月16日)