妊娠初期の胎児を超音波断層法の矢状断面で観察している時に、項部(後頸部)付近の皮膚が浮き上がって膨隆した形に見えることがある。膨隆した部分は無構造で、超音波が透過した抜けた形であるため、これを胎児項部透過像(NT: nuchal translucency) とよぶようになった。
******
NT (nuchal translucency)
(左:正常例、右:NT肥厚例)
Fetal Diagnostic Centers, Dr. DeVore
(NT肥厚例、5.8mm)
OBGYN.net, Daniel Cafici
(NT肥厚例、4.1mm)
OBGYN.net, Joseph Allen Worrall
(NT肥厚例、3.7mm)
OBGYN.net, Mario Ernesto Libardi
(NT肥厚例、13mm)
OBGYN.net, Martin Horenstein
(日本産婦人科医会研修ノートNo.74。必ずしも項部に最大厚みがみられるわけではない。このNTは項部で2.6mm、後頭部で3.8mm)
******
NTの臨床的意義
1992年にNicolaidesらが、妊娠初期の胎児のNTの幅とダウン症の発生頻度に正の相関がみられることを報告した。さらにその後の研究によって、妊娠初期の胎児のNT肥厚例では、染色体異常、先天性心疾患、中枢神経疾患、消化器疾患、泌尿器疾患、神経筋疾患、代謝障害などの疾患に罹患している可能性があることが明らかとなってきた。すなわち、妊娠11~13週の胎児の正中矢状断面で計測し、NTの幅が3mm以上の場合に、Down症などの染色体異常や先天性疾患などの胎児異常の確率が増加するといわれている。
しかしながら、NT肥厚例であっても染色体異常も先天異常もない児が数多く存在するという事実を決して忘れてはならない。NTは胎児異常の可能性を示すものであって、確定診断にはならない。
NTは染色体異常や先天異常のマススクリーニング法として欧米で急速に広まった検査項目であるが、現在の我が国ではこのようなマススクリーニング法が容認される状況ではない。NTは推奨される検査項目ではないので積極的にNT計測を実施する必要はないが、NTを検査するつもりがなくても、CRLなどの他の目的で超音波検査を行った際に、NTが確認できてしまうこともある。
「胎児異常に関する情報提供」の希望有無の確認がとれてない妊婦にNTの増大が認められた場合、妊婦に告げるべきか、などの取り扱いについて現時点では学会などの指針はないが、患者と十分なコミュニケーションをとり、インフォームドコンセントを行うことが大切である。