Vaginal Birth After Cesarian Section
・ VBACのための試験分娩を行う上で最も警戒しなければならないのは子宮破裂である。
・ 既往帝王切開が子宮下部横切開でも、試験分娩中に子宮破裂が起こる頻度は0.2~1.5%と報告されている。
・ 胎児が腹腔内に脱出していた場合の児の予後は極めて厳しく、迅速な開腹術によって児を救命しても、生存児に神経学的後遺症を残す危険性が高い。
・ VBACで発生した子宮破裂により母体死亡にいたるような例では経腟分娩には成功している例も多く、経腟分娩成功後の母体の厳重監視が重要である。
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前回帝王切開時の子宮切開方法とVBACにおける子宮破裂の発生率との関係(アメリカ産婦人科学会、1999)
子宮体部縦切開 4~9% (古典的帝王切開)
子宮T字切開 4~9%
子宮下部縦切開 1~7%
子宮下部横切開 0.2~1.5%
※ 自然子宮破裂の頻度: 0.007~0.02%
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既往帝王切開妊婦の分娩方法
米国における歴史的変遷
・ 古典的帝王切開の時代には、"Once a Caesarean, always a Caesarean"(一度帝王切開受けたのなら、ずっと帝王切開) が常識であった。
・ 1980年にNIHはVBACを推進する勧告を発表し、1996年のVBAC率は29.8%にまで達した。
・ その後、試験分娩群での子宮破裂の頻度上昇と児の予後の悪化、母体合併症の増加、医療費増大などの報告が相次ぎ、 エビデンスに基づきVBACの安全性をもう一度考え直す機運が高まった。
・ 帝王切開率は1996年の20.7%から上昇に転じ、VBAC率も1996年以降は低下しつつある。
・ 米国においては、現在、従来より慎重な対応が求められるようになり、十分なインフォームド・コンセントが強調される傾向にある。
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既往帝王切開妊婦の分娩方法
我が国の動向
・ 我が国のVBACのトレンドは、ほぼ米国の動向に追随する傾向にあり、1990年代における我が国のVBAC率は、現在よりもはるかに高率であった。
・ 最近は我が国のVBAC率も米国と同様に低下傾向にあって、既往帝王切開妊婦の分娩方法は原則として選択的帝王切開としている施設も少なくない。
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VBACのための試験分娩を実施する上での留意点
・ 既往帝王切開妊婦の分娩様式を決定する過程でインフォームドコンセント(説明と同意)は非常に重要である。VBACの利点とリスクを妊婦とその家族に十分に説明し、最終的には妊婦自身が分娩様式を決定するのが原則である。その話し合いの過程を文書に残すことが大切である。
・ 子宮破裂の正確な予測ができない現段階では、すべてのVBAC症例で子宮破裂を想定した分娩管理が求められる。すなわち、VBAC実施施設が満たすべき条件としては、胎児心拍連続モニタリング、産科医・新生児科医・麻酔科医の院内常在、緊急手術に対する24時間即応体制などが考えられる。
・ 子宮破裂の発生後に他施設へ緊急搬送された母児の予後は極めて厳しいので、妊婦自身がVBACを強く希望しても、自施設で子宮破裂に十分に対応できない場合は、対応可能な医療機関に最初から分娩管理を委ねる必要がある。